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ヘンドリック、勝者の気分は……

 どさり、ウサギだったモノが地面に落下した。

 僕のスキルである冷酷なる執行者は、なかなか扱いづらいスキルだ。

 対象となる相手を見続けることで威力と命中率が上がって行くため、長時間相手を見ていないと発動しづらい。

 特にウサギのように逃げる事に特化した存在は、ひたすらに攻撃するタイミングを隠し、相手が警戒を解いた瞬間、こちらが攻撃しないだろうと思わせたタイミングで奇襲するしか手はなかった。


 あるいは、先生から僕の能力に付いて教えてもらえていれば、警戒はしたかもしれない。

 けれど、先生は僕とウサギ、どちらに付くか、ウサギに付くと宣言した後も迷っていた。

 だから、通用した。通用してしまった。


 本来直接戦闘になればこちらには勝利の目は無かった。

 やるのならウサギと一対一、散々戦闘を先延ばしにして奇襲で一撃必殺。

 ガッツスキルと持っているから少なくとも二回以上倒す必要もある。

 全てを加味して、いろいろと小細工をして、必死に言葉と態度でひた隠し。

 倒せて、しまった……


 ウサギの真上にアイテム入手確認のダイアログが出現する。

 ああ、本当に、死んだのか。

 ウサギを、殺せてしまったのか。

 磁石寺を、僕が……


「啓太君ッ!? い、嫌ぁ――――ッ!!」


 先生の悲鳴、踊っていた二人も思わず動きを止めてウサギに視線を向ける。


「え? 嘘? ついさっきの約束即行棄却なの!?」


「Oh、そんなバカな!? あの磁石寺がそんな簡単に?」


 集まって来る二人、ダイアログボックスを見て愕然として立ち止まる。

 ああ、本当に、勝ってしまった……

 僕は大空に視線を向ける。


 戦争は大敗だが、僕の戦争は大勝利だ。

 大勝利だけど……おかしいな?

 なんでこんなに、嬉しくないんだろう?

 いや、嬉しいというか、むしろ、何の感情も湧きあがらない。


 ああ、そうか。

 求めていたのは磁石寺を一度殺す事。

 それだけを求めた二年で、咲耶のことはもう、吹っ切れてて、ウサギへの怒りももう、無くて、目的と手段が入れ替わってたのか。

 だから、残ったのは寂寥感。


 ただ、やるべき事を見失ってしまった虚無が押し寄せている。

 これでは、僕が勝つべきじゃなかったみたいじゃないか。

 これからだ。これから僕は、この世界でやるべき事を見付け……

 止めろよ。そんなウサギに涙流すなよ先生……

 そんな姿、見せないでくれよ?

 もし、もしも、僕が死んでいたのなら、同じように悲しんでいたのかな?


 しかし、もうすぐ、ウサギが死んでから一分。ダイアログが閉じた瞬間、ウサギの完全な死が確定する。何かしらの悪運でもない限り、ウサギが生き還ることなどあり得ない。余程の幸運にでも恵まれてなければ……

 そうすれば、ウサギを慕った女性たちはどうなるだろう?

 多くの人の人生を、僕が狂わせるんだ。

 罪深いな。……ああ、本当に、冷酷なる執行者。僕にぴったりのスキルだ。

 罪深いとかいいながら、全然罪悪感を感じてない。


「いや、そもそも……何の感情も、湧いてこない。勝った、のに」


 これで勝利でいいのだろうか?

 このまま磁石寺を殺していいのだろうか?

 すでにこの先には何も良い事が無いと分かっているのに?


 ああ、もう、終わってしまう。

 本当にこれでいいのか?

 いや、いいんだ。これで。

 僕が望んだことだ。だから……だから……


「おお、ウサギよ、死んでしまうとは情けない」


 不意に、声が聞こえた。

 はっとウサギの方へと視線を向ければ、ウサギの真上より飛来する物体が一つ。

 一瞬、坂上かと思ったが、違う。

 二歳児くらいの体長で、頭でっかちな幼児体型。なのに、なのに、なんだ? あのバケモノは?


「まったく、戻って来てみれば案の定だ。まさか冗談で言ったのに本当に死んでいるとは思わなかったぞ。とはいえこれでは話もできんな。では仕方ない」


 おい、オイ待て!? 折角、折角倒したのに、勝敗が付いたのに! ここでソレをするつもりなのか!?

 止めろッ。ここで仕切り直しされたら僕の負けじゃないかッ!

 不意を突いてようやく殺したんだぞ!

 お前が、お前なんかが勝手な都合で生き還して良い奴じゃないんだぞッ!! 


「やめ……」


「リバイバル」


 あ、ああ……なんで、なんでなんだ。

 ここで磁石寺は終わるはずだった。

 これが、あいつの運だとでも言うのか?

 勝ってた筈だ。もう、どうしようもなかった筈だ。

 実力すら発揮できずに敗北し、死亡し、記憶を失い消え去る筈だった。


 なのに、なんでチャンスが産まれてる?

 あの幼児は誰……いや、面影が、ある?

 知ってる。僕は知ってる。

 あいつの顔を、知っている!!


「ディアリオ……」


「久しいな、決着が付いたようで安心したか? 悪いが個人的な理由でウサギを生還させて貰う。私としても、彼にはいろいろと恩義を感じているのだよ。彼の御蔭で人間の乳幼児時代がとても楽しかった、これは、その礼だ」


 幼児が告げる。

 その下で……ウサギがゆっくりと――――起き上がった。

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