葉桐、私のスキルは弱点だらけ
さて、敵対しちゃってる訳だけど、どうしたもんだろう?
敵対中の相手は上田幸次。
打撃強化スキルを持つ野球部のマルコメ少年だ。
今は髪を剃れてないので結構伸びまくってるけど面影は彼のままである。
問題は、真廣さんへの恋慕がストーカーになってしまったことと、私への暴力的殺意だろうか?
なんか、凄く危険人物になってしまっている。
なんで女性に腹パン決めて内臓吐きだす姿見て楽しもうなんて考えれるのか?
まぁ、元を辿れば真廣さんがウサギの彼女になるとかはっちゃけたことが原因で真廣さんをウサギから取り戻すために精神的に壊れちゃったんだろうけど。
あれ? つまり、元を辿ると結局ウサギが悪いってことになるんじゃ?
イルラさんと郁乃ちゃんの関係もそれで壊れただけだし。ウサギマジ最悪ね。
襲われなくて正解だわ。これから先も大丈夫かは不安だけど、この闘いが終わったらラビットネスト降りて諸国旅にでも行こうかな。
中井出君達も向ってるし、私も一人か、誰か一緒に行きたいって人誘って行ってみようか。
まぁ、それも、こいつを殴って正気に戻してから、なんだけどね。
拳を握りボクサーのサウスポースタイルっていうんだっけ? 私に向かって殺意全開の上田にとりあえず封印を貼っ付けておく。
「吐き散らせ、戸塚ァッ!!」
「だぁれが吐くか。さっさと正気に戻れアンポンタンッ」
拳を握り、突撃して来た上田に槍を携え突撃。
リーチは私の方がいいらしい。
虹色に輝くけばけばしい槍だけどウサギがお勧めして来ただけはあるなぁこの武器。
あ、馬鹿! それ受け止めるのは無理……はじいた!?
手の甲で槍を逸らすとか正気!? 少しでも失敗すれば手を失う所よ!?
って、心配してる場合じゃなかった。懐に入られ……
「くらいやがれ!」
渾身の一撃がお腹向けて放たれる。
来る場所は分かってたので回避も簡単だった。
というか、槍の柄で受け止めてやる。
骨、砕けてない? 大丈夫?
「痛ってぇ。クソッ、その槍邪魔だな」
「そりゃどうも、ウサギ君印の七色之槍だってさ」
「テメェ、俺がウサギ嫌いだって分かってて言いやがったのか! ぶっ殺す!!」
だいぶ拗らせたなぁ。
バックステップして拳の範囲から逃げる。
おっと封印封印。危うく解けるとこだった。
スキル乗せられたらホント、不意の一撃で殺されかねないからね。
って、速い!?
「この二年、俺も何もしないでいたわけじゃねーんだよ! 野球以外のスポーツと格闘技を覚えてな。ボクシングにキックボクシング、ムエタイ、カポエラ、柔術、空手。テメェはどの技で沈みたい?」
「どの技もごめんよ! さっさと潰れろ変態!」
「誰が変態だ!」
「女の子に腹パン決めて喜ぶようなクソ野郎は変態認定当然でしょ!」
「ちげぇ! 女にじゃねぇ! テメェだけだ馬鹿戸塚!」
「私も女だっての! そもそも腹パン好きとかその時点で彼女作れる訳ないじゃん、このDV加害者候補ッ!」
「う、うるせぇ! こちとら真廣さんさえ手に入れればどうでもいいんだよ! 彼女に出来ないってなら拳で言う事聞かせてでも俺に従順になるようにするだけだ!」
「外道に堕ちたか上田ァ!!」
ええい、心配するだけ無駄だった。
こいつはもう駄目だ。私も覚悟を決める。
封印スキルが心元無いけど、なんとかやるっきゃない。
私の封印スキルは弱点だらけだ。
複数人には使えないし、一度使えばしばらく使えない。
一応ぎりぎり使った封印が切れる直前に再使用可能になるけどタイミングは数秒とシビアだ。
切れたら相手が必殺技や魔法を使ってくるかもだし、状態異常無効化スキルとか使われてると封印スキルも無効化されてしまう。
使われる前なら何とか出来るんだけどなぁ。
一瞬でも使われたらもう封印スキルが効果ない状態になってしまう。
そうなれば、多分私は詰む。
だからそれを覚らせないように定期的に封印を掛け直す。
ああもう、面倒臭いっ。
私に積極的に打って出られる攻撃用スキルがあれば良かったんだけど、残念ながらレベル上げ中は殆ど補助行動しかしてなかったので覚えたスキルも周囲の状態異常を消すとか回復するとかそっち系のばっかりだ。
攻撃スキル少しでも取っとけばよかったと後悔するけど後の祭りである。
「ん? 今、なんか……?」
まず……封印のタイミングずれたの気付かれた?
いや、大丈夫、気付かれる前に押しきれッ。
「ええい、能力封印されてるのがつれぇ、なんでこんなスキル持ってやがんだテメェはよぉ!」
「知るか。むしろ持ってて良かったとすら思ってるけどね! さっさと潰れろっ」
「テメェがなぁ!!」
槍と拳が激突する。
あ、マズ、また封印し忘れたっ。
再封印したけど遅かった。
今までと違い、槍の穂先が拳にあったった状態で全てのバフを受け取った状態の上田。
拳は傷一つなく、再封印による能力ダウンの違和感も手伝って、バックステップした後で拳を見つめてしばし沈黙。
「なるほどなァ?」
顔を上げ、ニタリと醜悪な笑みを浮かべたのだった……




