稲葉、千日手
「ダメージを、受けてない?」
私は固有スキルの回復スキルは使ってなかった。
今のは確実に致命傷の個所だったので、ダメージ自体が少なかったとしか思えない。
でも、風の弾丸は一撃で冒険者を粉砕する一撃の筈だ。
ソレを喰らって……ちょっと痒い程度?
私、どうなってるの!?
「今のは、当たったのか? いや、何かのスキルか!?」
え? いや、今のはスキルとか使ってないんだけ……あいたっ!? ちょ、きゃっ、なん。ちょ、まっ……
「いいかげんに、しろぉっ!」
指弾を弾き返すように剣を振る。
「うぎゃああああああああああああああああああ!?」
って、あれ?
なんか、紙みたいに吹っ飛んだんだけど?
え? あいつ坂上博樹よね?
私にとってにっくき二股野郎よね?
なんか、弱くない?
私は沙希さんに視線を向ける。
「何?」
「いや、あいつの攻撃、ちょっと喰らってみてくれない?」
「はぁ? なんで私が?」
「クソ、やりやがったなクソ女ァッ!!」
指弾が再び飛んでくる。
私は即座に沙希さんの傍に寄って、攻撃に彼女も巻き込む。
「ちょっ、あ、いたっ、いたっ、なにこれ!?」
あ、やっぱり、なんか思ったほど攻撃力が無いみたいね。
むしろ、私達の防御力が高い?
「ど、どうなってやがる?」
でも、木下のスキルで冒険者達も強化されてるし、こいつも強化されてるはずよね?
なんで私達はダメージらしいダメージ負ってないのかしら?
―― おお、結構効果発揮してますね ――
……ん?
―― ラビットネストよりユーリンデです。先程皆さん周辺にジョゼさんによる防御力10倍の力場が発生しました、あと攻撃力10倍。ちょっと味方だけに掛けられるか試してる最中なんです。どうです? ――
「それでか、正直助かったけど、最初に言っといてよね。あと、効果消す前に告げてね」
「正直生きた心地しなかったわよ」
―― 残念ながら一つの増加力場しか付けられないみたいです。防御10倍か攻撃力10倍。あと速度10倍? ――
「このままでいいわ。しばらく動かさないで」
「私も同意。魔力10倍とかされるよりよっぽど気が楽になるわ」
―― 了解、そこの子供倒すまでこのままにしますね、あ、でも力場ですから範囲から出たら途端に紙装甲ですよ ――
うわぁ、さすがに避けた先で当たったら死亡とかやってられないわね。
ここは固定砲台になった方がよさそうだ。
私と沙希さんは視線を合わせ、頷く。
「攻守交代ね!」
「面倒だけどヘイトは私が請け負うわ!」
「待てコラ、俺はゲームのボスキャラか! ヘイト稼ごうが何しようが俺の攻撃対象は俺が決めてんだよ!」
「知るかバーカ」
叫びながら沙希さんが魔法を唱える。
連続で射出された魔法を小柄な少年が避けて行く。
が、そこへ私の攻撃。
「チッ! って、しまっ……」
私の攻撃を避けた瞬間、間横から襲って来た魔法が直撃。
う、ダメージあんまり喰らってない?
「はっ、テメーらの攻撃なんざダメージにすらなら、あいたっ、おい? こら、ちょっ」
さっきとは逆パターンで坂上の方に連続ダメージ。しかし、防御力が高いせいでダメージにならない。
ダメージ10倍の地で攻撃すれば倒せそうだけど、防御力を消すと大ダメージを受けるのはマズい、ゆえに、ダメージは少なくともしっかりと闘える現状で満足するしかない。
互いに防御力だけは高いゆえに相手へのダメージを上手く与えられず千日手。
なんとか相手を上回りたいが、この状況になると、子供一人と女性二人では腕力に物を言わせることもできず、なんとももどかしい闘いになってしまう。
かといってこいつを野放しにする訳にも行かないし、ここで決着付けたいわよね。
ポーションを飲んで減った体力を回復する。
そう言えば、あいつ回復してる様子ないけど、HPどうなって……HP、減ってない!?
「あ? なんだよ。お前ら再生スキル取ってねぇの?」
馬鹿にしたように鼻で笑う坂上。
再生スキル……そのせいか!?
ちょっとのダメージじゃこいつはすぐに回復してしまうんだ。
これじゃ千日手じゃない、ポーションが尽きた時が私達の敗北だ。
……ポーション、どれだけ貰ったっけ?
攻撃しながら合間にアイテムボックスを確認。
えーっとポーションは……あれ? 殆ど減ってない。
まぁ9999個持ってればほぼ減らないか。
ポーションをコピーしたらしいけど、これだけあると使い気るの何日後になるんだろ?
つまり、他の決着が付くまではこいつの足止めが出来る訳か。
なら、火力を持つ存在が駆けつけてくれるまで、このまま足止めするのが一番ね!
覚悟しなさいよ浮気男、あんたはこの世界じゃ主役になんてなれないってことをしっかりとおしえてやるわ!




