コルトエア、余裕そうに見えるが気が抜けないってのは辛いな
べルクレアが空を飛ぶ冒険者たちを踏み台にしてあたしの真上に向う。
予想通りなので問題はない。
むしろここに来る事を誘わせて貰ったのだ。
永遠空中遊泳をするか、唯一上昇気流が発生しないあたしの真上から攻撃を仕掛けるか。
当然、ここしかあたしへの攻撃が通用する場所が無いってのはあるが、むしろ、そいつがお前の失策って奴だ。
くらいな、奥義、天空昇龍掌!
先程同じように拳に力を溜める。
先程の爆熱気流掌は地面に溜めた魔力を打ちこむことで自分の周囲を爆散、吹き飛ばす大技だ。
といってもダメージ自体は大したものじゃない。
なにせ地面を爆散させて飛び散らせるだけだ。
地面自体も眼潰しくらいには役立つかもだが、むしろ膨れ上がった大地の上に立つ相手を吹き飛ばすことがメインの技であり、この技のダメージは落下による墜落ダメージを目的とした技である。
落下前にもう一度吹き飛ばせば魔力が許すだけの間、永遠空中に浮かせ続けることが可能だ。
ついでに言えばウサギからMPポーションっぽいのを100個単位で貰ってアイテム袋に収納しているので魔力が底を付くことはまず無い。
存分に空中遊泳を味合わせることができるのだ。
んで、天空掌龍掌。これはまぁ、ナックルゲイザーに使う威力の魔力を纏めて真上に吹き飛ばす技だな。
つまり、無防備にあたしの真上にやってきた迂闊な奴に回避不能の一撃を叩き込む。
テメェのことだよべルクレア!
「くぅっ」
向こうも罠だとは理解していたようだが、まさか逃げ場の無い一撃が来るとは思ってなか……おい、マジか!?
空中に居たべルクレアは鎖を引っ張る。
残念ながらべルクレアの勢いに引っ張られて鎖が付いている男が寄ってきた。
アレを起点に逃げる算段だったらしいが、当てがはずれたようだ。
問題は、むしろそれが発覚すると同時に方針転換させて、冒険者を盾に使った事だろう。
あたしの一撃は冒険者がほぼほぼ受け止め、くたばった冒険者の背後からべルクレアが急襲する。
魔力を打ちあげた技後硬直のせいで動けないあたしにナイフを投げ、
冒険者を蹴りつけて来る。
ナイフをぎりぎりで避け、冒険者を蹴り棄てる。
視界が晴れたと思った次の瞬間、背中を駆け抜ける鈍い痛み。
クソッ、やられたっ!?
この、野郎ッ!
「残念ながら、終わりです! 間もなく麻痺が全身を蝕みますよ」
「ざけんな、その程度で止まると思うか!」
拳を振り抜く。
クソ、もう全身に回り始めてやがる。
動きが鈍い。
当然、べルクレアに避けられる。
「私の能力はほぼ暗殺に特化しています。ゆえに毒物類の効きは普通の暗殺者より深く効きます」
「クソ、やってくれんじゃねーか」
ふらつく足をなんとか地面に突き立て、拳に力を溜める。
クソ、魔力の溜まりも感覚が掴み辛ぇ。
たった一撃でここまで形勢が逆転すんのか……
やはりこいつもS級冒険者になるだけはあるな。
くそ、拳がふらつく。
足のふんばりが効かねぇ。
視界までぶれてきやがった。
「そろそろ諦めたらどうです? 全身麻痺になってますよ」
「うるひぇ、むっころぅ」
舌も上手く回らない。
全身の感覚が痺れて来ている。
動かせるけど感覚が無い。
「随分大ぶりになりましたね。おっとそのまま倒れますか?」
クソ、これはさすがに無理か。
ああ、クソ、こりゃ自分で動かすのは無理か。
仕方ねェ。あんま使いたくなかったが……
「もぉろえるえるる」
モード、ベルセルク。
どんな状態異常に掛かっていようと体が動く限り敵を殺す狂化スキル。
死ぬか周囲に敵が居なくなるか、気絶するかのどれか以外に解除出来ない荒技だ。
弱かった時はたまに使うことになったが、久しぶりだな、この感覚。
「ぐ、ぁ……」
「……なに? 気配が、変わった?」
「グ、ガアァァァァァァァァッ!!」
咆哮と共に自分の身体が意識から切り離される。
このモード・ベルセルクはレベルがあり、初期状態だと意識はなくただ暴れ回るだけ。
10を越えると意識はあるが体は動かせない暴走状態。
20を超えたところで意識すれば敵を指定できるようになる。
任意解除とかはできないが、これでべルクレアを敵認識すりゃなんとか闘えるはずだ。
ただ、本能むき出しだからあたしが理性的に動いてた今までとは違うんだけどな。
今も咆哮と共に地を蹴りべルクレアに突撃。
顔面を掴み地面に投げ捨てたところである。
唐突に加速したあたしに付いていけなかったらしく、地面に直撃したべルクレアはしばし気を失っていたらしい。
被りを振って起き上がったところへ、真上から落ちて来る両手を掴んだ状態のあたし、べルクレアの腹に握ったままの手を振り下ろす。
「がぁっ!?」
内臓潰れたか? 血を吐いたべルクレアを掴み挙げ、喉元に噛みつ、こうとしたところでべルクレアが蹴りつけ拘束を解く。
おいおいあたし、さすがに野生に返り過ぎじゃね?




