エペ、しつこいっ
「行くぞ、エペ!」
気合と共に突撃して来るランツェ。
いや、普通に剣持って突撃して来るけど、私後衛だから! 普通にバフ要員だからね!?
ええい、杖で何とかするしかない。
運が良いのはウサギさんから貰った聖杖フロントウイングがあるから並の剣相手でもなんとか受ける事ができるくらいかな。
なんでも宇宙から帰った後で武器の底上げとしてクロウさんにダイレクトアタック仕掛けた時に奪い取って来たのだとか。
本人はコピー取っただけだから問題ねーだろ。つか俺が狙ってた黒髪冒険者の初めて何奪ってんだテメーとか文句垂れていた。
何でも黒髪冒険者って人がクロウさんを夜這したんだそうで、すごく幸せそうだったから持ってる武器軒並みコピって来てやったとか言っていた。
まあ、女性が襲われなかっただけマシかな。むしろクロウさんの方が襲われて一児のパパにされたとか嘆いてたらしいよ。
ウサギさんは凄く悔しがってたけどその話聞いてた桃瀬さんが、それじゃ、私とお・は・な・し・ね。って怖い顔で連れて行かれたので問題はなさそうだ。
他の女性襲うなって言われてるのに宇宙人の娘とか襲ってくるし、放置してたらまた増えそうだからこの際首輪でも付けようか、とかいう話になってるらしい。
ウサギさんに首輪、かぁ、お散歩、ちょっと楽しそう。
「でやぁ!」
うわっ!?
あ、危ない。危うく思考の海で殺されちゃうところだった。
というか、私を倒して味方にするとか言いながら剣先に殺意が籠ってるんだけど!?
これ、受ける前提みたいだけど、失敗したら死ぬよ!? なんで迷いなく攻撃出来るの!?
「ちょ、ちょっと、本気で殺すつもり!?」
「大丈夫、エペなら受けられるだろ!」
いや、何その無駄な信頼!?
武器によっては今ので死んでたよ。私この杖貰う前はただのオークで作った杖だったからね。オークはオークでも豚じゃなくて木のオーク材だから!
と、とにかく、距離を取らないと。
火炎魔法を顔面向けて放射。
慌てて逃げるランツェから距離を取りバフ魔法を詠唱。
って、うわわ、キャ○ツ!? 詠唱妨害のつもり?
噛みつかれてびっくりしたけど葉っぱでできた歯だから痛みはないし咬み後も残らない。あ、甘噛みかな?
これは無視してもいい気がする。
キャ○ツは攻撃力ないなぁ。うふふ、可愛い。
よし、詠唱完了。
「パワーアップ、ガードアップ、スピードアップ、詠唱重複。魔法融合。強化魔法――――ステートブースト!」
「なにぃっ!?」
「いくよ!」
こちらの速攻だ。このまま反撃させずに屈服させる。
さっさと倒れて諦めて、ランツェ!
走り寄る私に剣が振るわれる。
力任せにこれを弾き飛ばし、杖の先端を叩き込む。
「ぐへっ」
鳩尾に一撃。肩、腕、太もも、顎、ガラ空きの部位に手早くダメージを与えて行く。
ランツェは何故か無防備に……あ、違う、彼の能力値じゃ私に付いて来れてないんだ。
そっか、ランツェが突っかかってきたからこの場の他の冒険者と同じに扱ってたけど、ランツェの実力は駆けだし冒険者のままあまり変わってないんだ。
これって、勝負にならない、かも?
うわ、どうしよう。後衛なのに前衛ぼっこぼこにしちゃってるよ今。
周囲の冒険者もさすがにこの結果は想定外だったのか、知り合い同士か、頑張れ坊主、って顔からこの女ヤベェ。って顔になっている。
だって仕方ないじゃない。ランツェの方が突っかかって来たんだもんっ。
「す、すげぇ、キャ○ツに噛みつかれてるのに顔色一つ変えてねぇ」
「食われて痛くねぇのか?」
え? そっち!?
「え、えぺぇ……」
うわ、立った!? ええい、沈めランツェ!
「ぎゃふっ」
「ひでぇ、立ち上がるまで待ってやれよ」
「知り合いだろ、なんてえげつねぇんだ」
「冷血女……」
ちょ、ちょっと!? 違うよ!? 違うからっ。私のせいじゃないってば!
「え、えぺぇぇぇ」
なおも立ち上がろうとするランツェ。ひぃ、ちょっと怖い、近づかないでっ!
べしりっと杖で小突く。
「ぐぎゃ」
倒れ伏すランツェ。周囲からは非難轟々だ。
私としてはもうやりたくないのよ? でもランツェが立つから。
震える手を私に伸ばすランツェ。
うわ、血だらけ。
思わず手を杖で撃ち落とす。
また私への周囲の評価が下がった。
違うの! 私冷血女じゃないよ!? 違うのぉっ。
「ひぃ、こっち見た!?」
「つ、次の獲物を探してやがる!?」
「む。無理だ、こんな女と闘えるか、俺は逃げるぞ!」
「待て、それは死亡フラ……ぎゃぁっ!?」
ええい、皆煩ーい!
いいわよいいわよ、そう望むんなら私だってそう振舞ってやるんだから。目に付いた奴片っ端から張っ倒すからねっ!
「ぎゃ、ぎゃあー、暴走しだしたぞ! 逃げろぉーっ!!」
むぁてぇーっ、逃すかぁーっ!!
 




