イリアーネ、単調過ぎる自分に腹が立つ
「はぁっ!」
「甘ぇ!」
剣撃が重なる。
対戦相手のガロワに思い切り打ち込んで行くが、あくび混じりに弾かれる。
正直、勝算しかなかった。
なのに、むしろ勝算が見当たらない。
闘う前は皆とミミック系を狩りまくったことで上がったレベルで圧勝出来ると思っていたのだ。
実際に闘えば、自分の動きが単調過ぎてレベル差が技量でカバーされてしまっている。
むしろガロワの方が余裕そうで、私の攻撃を軽々いなして見せている。
「なんつーかよぉ、お前さん、宝の持ち腐れだな。本当に騎士団やってたのか?」
「れ、レッセン王国の騎士団長と試合だってしていたッ!」
「はっ、だったら、余程平和だったんだな。騎士団の訓練がお遊戯になるくらいによぉ!」
「言わせておけばッ!!」
駄目だ。怒るな。
怒れば相手の思うつぼだ。
ああ、でも、くやしいかな。感情を抑える術が見当たらない。
結果、今まで以上に読みやすい剣筋を叩き込み、狙い通りだと嗤われる。
それが悔しくて、さらに動きが単調になる。
これはダメだと分かっているのに、止められない、まるで操られているかのようにガロワの話術に嵌ってしまっている。
抜けだしたいのに自分の感情が邪魔をする。無駄に高い能力のせいでプライドが前に出てしまっているのだ。
私の方が強いのだ、当たればなんとでもなる。
一度、一度だけでいいのだ。当たれば……
「当たらねぇよ、こんななまっちょろい攻撃なんざ一生かけてもなぁ、当たらねぇってもんよ」
「この、ああぁッ!!」
「た、助けてぇ――――!!」
渾身の一撃を、と思った瞬間、こちらに駆けて来るカルセット。
思わず攻撃の手を止めると、私の元へ駆けつけたカルセットは私の影に隠れるように飛び込んできた。
「お姉様、助けてぇ」
「はい?」
「うおおおお、私の気持ちを受け入れたまえ! 好きにしていいと言っただろう!」
「言いましたけど、アレは殺されると思ったからであって、抱かれてもいいとか言ってませんッ! っていうか僕男ですから!」
「分かっている。分かっているともッ! それでも、私はッ! お前を抱きたいッ!!」
「いやあぁぁぁぁっ!?」
「……シュリック、お前、何してんだ?」
ガロワも私も闘いどころではなくなった。
「あ、ガロワさん。すみません、こちらの勝敗は着きました。勝者権限として私はカルセットを貰い受けることにしました。真実の愛を、見付けたのですッ」
「いや待て、あいつは男だろ?」
「分かっているとも、ソレを踏まえて、私は彼を抱けると、抱きたいと思ったのだ、愛に、性別など瑣末ッ!!」
「……良かったじゃないカルセット。貰い手が見付かって」
「よくないですよね姉様ッ!?」
「意外と、良妻に成れるかも?」
「僕男ですってばっ!?」
正直どうでもいいんだけど。カルセットの操まで私の責任じゃないからなぁ。
「ウサギさんにでも助けてもらえば?」
「ウサギ君も僕の事狙ってるもんっ」
アレは多分冗談だと思うんだけどなぁ。でもあのシュリックだっけ? あの様子を見てたらウサギさんも実は本気で襲う気満々だったのかも?
一応、伝えてみるか。あー、ウサギさん、今大丈夫?
―― お、イリアーネから連絡は珍しいな。今は大丈夫だぜ? ――
なんか、シュリックさんがカルセットを抱きたいとか迫ってるんだけど、何とかしてくれってカルセットが泣きついてくるの。
―― マジで? じゃーしゃーねーな。おーいカルセット ――
「うぇ!? ウサギ君!?」
「あ、私が連絡したの」
「なんで連絡しちゃったの!? 絶対対価求められるじゃん、お尻差し出せとか言う気だよ絶対!」
―― ひでぇなオイ。まぁいいや。ジョゼー、カルセット君回収で ――
―― はいはい。了解 ――
―― あと暇してる奴シュリックに当てちゃって ――
―― 剣士系ねぇ、誰か行く? チェルロさん行けるの? んじゃよろしくー。あ、グレースさんは敗北するの目に浮かぶから留守番ね ――
なんか、私の及ばぬところで話がどんどん進んで行くんだけど、あ、カルセット消えた。
代わりに現れたのはメイド服の女性。チェルロさん、わざわざすいません。
「お気になさらずに。私も体を動かしたいと思っていたところでしたから」
カルセットはラビットネストに戻されたみたいね。
私もここで負けるなら出戻り確定になるかもしれない。
気を落ち付けることはできた。仕切り直そう。
「ところで、もしよければ、なのですが、ガロワさんとの闘い、譲っていただけませんか?」
「え?」
「シュリックさんと戦闘を行うより私の武器ですとガロワさんの方が有利になるんですよね」
それは、嘘だ。
嘘だと分かる。多分、私の実力を見抜かれたのだ。
このまま闘ってもガロワさんには敵わないと。
だから、選手交代だ。
私はシュリックさんの相手になる。
悔しいけど、素直に頷くしかない。今回は、素直に譲っておく、でも、いつかは、いつかは私一人でガロワさんに勝ってみせるわ。だから、それまでは……タッチ、交代。




