リクゥ、無毛の男
二つの剣閃が交錯する。
正直一瞬視界に入っただけなのでその後にどうなったかは分からない。
何しろ全身の毛が無くなった変態に追われている最中だからだ。
なんであいつ、両手開いてハグ待ち体勢でゆっくり迫って来るんだろう?
スキンヘッドになったナイス・ガイが私を追って近づいてくる。
必死に逃げているのだが、あいつの歩く速度速すぎないか?
なんで私の走る動きに付いて来れてるんだ?
あり得ないだろ。
っていうか、なんで全裸で脱毛済みなんだよ、意味不明だよ!?
「リクゥゥゥゥッ!!」
「ひぃぃっ! 来るな変態ッ」
振り向きざまにドラゴンブレス。
普通なら焼きつくす筈の一撃は、ガイの身体をつるりと滑るように吹き荒れ、ガイは無傷でさらに歩み寄って来る。
なんであんなバケモノじみた体になってんのよ!?
正直初めて見たんだけどあいつの裏奥義。
くぅ、これドラゴン変化しても普通に狩られそう、というか巨大化する分逆に狩られやすくなる気がするぞ。
迫る変態をどうやれば倒せるんだ?
とにかく私だけじゃちょっと無理な気が……
おお、そこのアボガード、助けておくれ!
アボガーなんとかがいたのでフォローを頼む。槍を携えガイに向かっていた彼は、突き出した槍を掴み取られ、丸っこい体の顔面……顔面? を掴まれ遠くに投げ捨てられていた。
駄目だ。アボガーどもが足止めにならないっ!?
「さぁ、逃げる必要はないさリクゥ。俺がお前を眠らせてやる。熱く抱きしめ漢としてお前を正しき道へと戻してやろう。我が胸で眠れ! 永遠にッ! 我が胸で永久の眠りに」
「ゲスターいいところに! 君に決めたッ!?」
―― え? え? 何……ガァッ ――
ガイの進行方向にゲスターを置いた瞬間、近づいて来たガイがゲスターを思いっきり抱きしめた。
両の腕を大きく振り抜きフンヌッと力いっぱい抱きしめる。
ボグチャァッとゲスターが圧殺された。
折角復活してたのに、可哀想に。
「むぅ、リクゥではない!? 逃げたかリクゥ!」
「逃げるわッ!! ええい、お前で良い、我が盾となれッ」
手短に居た冒険者と思しき厳つい顔の男をガイに投げつける。
ガイは自分の射程範囲に来た瞬間。両手を大きく振り、彼を包み込むように抱きしめる。
べぎめきょぐしゃ。
「次ぃッ!!」
「次ってなんだぁーっ!? あんな終わりは嫌ぁーっ!!」
手短に居た人物を手当たり次第にガイに投げつける。
基本この辺りの人物は冒険者ばっかりなのでウサギ側の私にとっては幾ら死んでくれても問題は無い。たまに魔物が混じったりしてるが等しくガイの胸の中で眠りに付いて行く。
っていうか、女の人投げたら絵面が大変なことになったから一人だけであとは出来るだけ選んで投げつけるようにしているんだけど、どんどん差が縮まってる!?
「あ、マックス! ごめん、散って!」
「リクゥ!? 悪いが今はこの少年と……って、何だあのバケモノは!?」
お前も充分バケモノだろう。なんでメイド服着てんのさ。パッツンパッツンで正直キモいよ?
「俺の胸で眠れぇーっ!!」
「ふざけ……あぁ。そんな熱い抱擁されたら……トキメイてしま……」
えぇ!? なんか変な感じになってない!? ちょっと、アレが駄目なら次ぎアンタだけど大丈夫?
「いや、待って。俺は無理だぞ。さすがにあんなバケモノ相手には戦えないからな」
味方の真壁君が居たので尋ねてみたけど拒否されてしまった。
仕方ない。今のうちに距離を開けよう。
「ってか、良いのかマックスさん、かろうじて閉じてた扉が開かれてる気がするんだけど……」
「知らないわよ。ガイが悪いのよガイが! あいつが責任取ればいいんだわ!」
「そ、そっすか……」
全裸と変態が邂逅してしまった。
これ、正直何が起こるか分からないから怖いんだけど、どうやったらガイを倒せるんだろうか?
パオ辺りをぶつけてしまおうか? ウサギがなんとかしてくんないかなぁ。
「あ、そーだ。えーっとジョゼさんだっけ、あの化け物に太刀打ちできる人材って誰かいない?」
―― 失礼、念話伝わってます? 私のスキルで検索したところ、対抗可能なのはラビットネスト上空で待機中の宇宙人組のようです。それ以外は手が足らないかと ――
「じゃあ、タッチ交代で。あんなバケモノ相手してらんないわよ」
―― 了解、もう少しお待ちください。あと、他の皆さんにも伝えておきますが、ウサギの命令で今このフィールド全体に記憶持ち越し転生不可のトラップが発動中です。死んだら勇者といえども転生できないのであしからず。以上 ――
宇宙人組って言えばウサギが新しくツガイにした奴らだっけ、頼りに出来るってことはそれだけ強いってことか。戦争が終わったら試合とかしてみようかな?




