真廣、最速はどちら?
ストナの二つ名は閃光。
その一端は彼女の剣速にあり、振る剣はまさに光の筋が走る如く、私もさすがに眼で追える訳ではないので相手の動きを見て向う剣先を想定して動かざるをえない。
それでも、シミュレーターで何度も殺し殺され練習させて貰った御蔭で相手の動きに付いて行くことは普通に出来ている。
しかし……希少ミミックと闘い過ぎたな。強くなり過ぎたかもしれん。
いや、実力的には相手と同等か少し上くらいなんだ。
けど、向こうは木下のスキルで底上げされたS級冒険者なのである。
それはつまり、木下のスキルが無ければこちらの圧勝ということになるのだ。
それだけのレベル差が産まれている。
ミミック、殺し過ぎたな……
もはや作業になってしまったハウス系ミミック退治、最後の方はほんとにただただ駆除作業で効率的に殺し続けていたせいで失念していたが、アレの経験値かなり高いんだ。
御蔭でレベルだけでS級冒険者を押し切れる実力を持ってしまっているらしい。
ストナもスキルを使って応戦して来るのだが、剣道の基本だけで普通に対処出来ている。
スキルを使うまでも無い。
これは、あまりにも実力差が付き過ぎているのではあるまいか?
そう言えば、私達は追い込み云々で涙亞たちが帰った後もミミック狩りを続けて居たな。確かあの時超希少種とかいうゴールデンミミックキングダムとか出て来たりしてたからソレが急激レベルアップの理由だろう。
「御蔭で、こういうこともできるっ!」
迫り来たストナに真下からの切り上げ。
即座に避けたストナだが、風圧でバランスを崩す。
「なんっ!?」
「力付け過ぎたな。悪いが勝つぞ!」
ガラ空きの胴に踏み込み打ち込む。
舌打ちと共にストナは剣の柄を引き寄せ無理な体勢で受け止めた。
衝撃でくの字に曲がった体が吹っ飛んで行くが、ダメージ自体は微小のようだ。
「この破壊力は卑怯だろう。風圧で体勢が崩される、だと!?」
「強くなり過ぎるのも考えものだな。S級といえば雲の上の存在と思っていたのだが、もはやその雲を突き抜けてしまったらしい」
「その言葉冗談だと言ってほしいな。全く。本気をだして同等、か」
必殺が来るか!
ならば、こちらも対抗せねばな。過剰戦力とは言わせんぞ?
「閃光……疾走!!」
「元道流剣術……風雲雷轟っ」
スキルではなく剣術スキルを発動。
加速して自身が光となったストナ。瞬く間に私に接近し、一撃必殺。
これを風がふわりと吹くように避け、刹那の動きで雷鳴轟くような一撃で反撃。
ストナもすぐに反応し。
刀を受け流し、蹴りを放つ。
さすがに剣術だけでは無理と思ったか。
しかし、私の家の流派は本物の刀での戦術だ。
ただの剣道とは違う剣術である。
ゆえに、足も使えば拳も使う。
蹴りを足で受け止めダメージを減らし、刀で応戦。
これを払い切りかかるストナ。
しかし、払われる前提で打ち込んでいたので即座に反応。
剣を受け止めそのまま剣を走らせ鍔迫り合い近くまで攻め寄せると、片手で刀を持ったまま拳を打ち込む。
「っ!?」
さすがにこちらも肉体言語で来るとは思っていなかったらしく。面食らったストナはバックステップ。
こちらも一旦後ろに下がり仕切り直しだ。
「そんな成りで喧嘩殺法まで使うのか」
「何を言う。幕末の頃なら手や足を使うのは当然だ。投げ技寝技、人体破壊のスペシャリストたちが連綿と受け継いできた一子相伝の武術だ。とくと味わってくれ」
「誰が味わうか。永遠に抱えて死んでくれ。閃光、一閃!」
居合斬を手に持ったままやってきた。鞘を使ってないので反応が一瞬遅れたものの、ぎりぎりで対処できた。
スカートが少し切り裂かれたが、それだけだ。後一瞬遅れていたら大ダメージだっただろうが、間に合ったのだから問題ない。
「纏い土っ」
魔法!?
「飛び礫!」
バックステップと共に斬撃を飛ばすストナ。
その斬撃に礫となった土魔法が付随する。
「圈境掌握。八房残影撃」
残像を残す勢いで土魔法を消しと飛ばす。
斬撃スキルも剣術スキルのパリィを使えば、タイミング良く剣を当てることで消し飛ばせる。
「これは、長引きそうね」
「こちらはだいぶ温まって来たぞ。そろそろ本気で行かせて貰おうか!」
今までも充分本気だったと思うのだが。いや、気の持ち様か。
ではこちらも、本気を出すつもりでやらせて貰おう。
ここいらで全集中、などのネタに走るのはロア達に任せよう。
私はただ剣を鞘へと収め、構えを取る。
後の先を取る、唯一つの必勝剣。
あらゆる剣術で最速を誇る抜刀術。
居合抜きの真髄をお見せしよう。
「「いざ、参るっ!!」」
同時に叫ぶ。
ぐっと地面を踏みしめ一気に飛びかかるストナ。
その一撃に合わせるように、柄に掛けた手をしっかと握り、刹那を待つ。
明鏡止水の境地には至らないモノの、ストナの一撃にならば反応できる。
走れ剣閃、後より居出て先に断つ抜刀術。
「元道流奥義、美人薄命ッ」
 




