うさぎさん、なんで皆各個撃破にこだわるんだろう?
「イルラちゃん来てくれたんだ! あはっ、嬉しいな嬉しいなっ!」
天幕に近づいた瞬間、天幕から飛び出して来たのは天竺郁乃。
天真爛漫だった彼女はもう居ない。壊れた瞳を見開き、楽しげに短剣構えて突撃して来る。
当然、イルラと敵対はさせられないので雲浦がフォローに入る。
どうでもいいけどお前、クラウドバニーには変身しないの?
「変身はするわよ。必要ならね。あんた倒すためにしたげよか?」
遠慮被ります。まぁ、今更一人敵に回ったところで襲うだけだけど。
「最悪ね!?」
「ああんもぅ、兎月ちゃんホント邪魔。どいて、イルラちゃん殺せないッ」
「ええい、なんでこんな壊れてんのよ郁乃は!?」
「郁乃ちゃん……なんで、そんなことに?」
「何でも何も、気付いただけだよイルラちゃん。私は元々こちら側だったの。でも、現代日本じゃ異常人格者だから周りに合わせて自分も普通なんだって思うようにしてたんだよ。今までは、それでよかったの。私にとって最も美しい存在が、傍にいてくれたから」
「……それが、私?」
いや、イルラさん、素なのと合ってるのは分かるけど、自分の事最も美しい存在だって自分で認めてるんだけど、それは……
「ふふ。そうだよ、イルラちゃんはとっても眩しくて、美しくて、気高くて。私の全てだったんだよ? でも、ウサギが穢した」
ひぃぃ!? ちょ、そんな目で見ないでぇ!? 怖っ!? シリアルキラー怖っ!?
「だからリセットするの。イルラちゃんは死んで新しく生まれ変わろう?」
「嫌よ、私は自分の幸せを見付けたの、天寿を全うするまでは死ぬ気は無いわ」
「駄目だよ、私が決めたの。私の一存でイルラちゃんを殺す。無残に殺して美しく彩る。だから、だから邪魔しないでよっ、雲浦ァッ!!」
話し合いは終わった。
走りだす郁乃に、雲浦はふぅっと息を吐く。
「正直、あんたの思考には付いていけないわ。ただ……あんたの目には私を改造しやがったドクターに似た何かがある。壊れてるんなら叩いて直す。悪滅必衰! クラウド装着! 変っ身、クラウド・バニーッ!!」
全身がぶるりと震えた。
それはまさに、正義の味方。
悪である俺達怪人にとって最も恐れるべき存在。
一度その台詞を聞いたなら、怪人、戦闘員、纏めて屠られる天敵の出現だ。
無数の水蒸気が噴出し、雲浦の身体を覆い隠す。
薄い雲の中、女のシルエットから服が消え去って行くのが見える。
変身シーン。落ち付いて見る事無かったけど、これ、結構エロくね?
いかんな。雲浦は襲う対象から外してたんだけど、これはちょっと、ウサギさんの本能が刺激されてますよ?
っと、郁乃については二人に任せればいいか。皆、そろそろ行くぞー。
ずっと見てたらそのまま雲浦襲ってしまいそうだったので俺は離れることにしたのである。
雲浦を覆い隠す雲の中、ウサ耳が生えて棒が生成されて、多分だけど服が装着され始める。
やがて雲が薄く霧散して、内より出でたるクラウドバニー。
西遊記の孫悟空を思わせる上着をバニースーツっぽいのに被せ、スパッツを履いた何とも言えない姿で現れる。
頭にはウサミミがぴょこんと生え、顔は認証出来ないように霞んでぼやけて見える。手に持つのは如意棒のようなシンプルな棒。当然自在に伸びる謎設計だ。
突撃して来た郁乃の一撃を棒で軽々弾く。
前口上、いつもなら言ってるんだけど、郁乃相手ではソレを告げることすらできないようだ。
イルラを背にしているにでバックステップで避けるのも出来ない。
これ、結構なハンデだよな? でも正義の味方としてはとてもいいシチュエーションではあるか。
「ちょっと、アレ、任せていいの?」
「良いのではないか? さっさと行くぞ戸塚」
「ワタシも行きマー……あれ?」
ん? どうしたルルジョバ……って、なんだあの爺さん。白衣着てるからマッドサイエンティストっぽいけど。
「……ありえん。我がクスカは最強のはず。何故だ? こんな想定外があり得るのか? 試算ではピスカの勝率は1%も無かった筈……」
ああ、あいつがなたでこことかいう奴か。
「よいのか?」
ああ、イルラが対応してくれるだろ。
「え? 私? まぁいいけど。お爺さんはチョコミントさんたちと敵対していたドクターでいいのね。じゃあ、諭してみるわ」
おっけー。よろしく。
んじゃ、皆先に行こう。
他の敵は幕陣の中だ。潜る際は気をつけろよ。奇襲されるかもしれないし。
「だったら、まずは私が行ってスキル封印しようか?」
「よいよい。我が体であれば刃など通さんし」
ロアはちょっと慎重になろうか。
厨二なのはいいけど好奇心は猫を殺すぞ?
仕方ねェ、とりあえず死を呼ぶ流体兎で俺が先行するわ。絶対に俺の視界の前にくんなよ。死ぬから。




