リピラ、私だって闘える……はず
私の我儘でウサギと敵対することに成った。
お父さんは心配性らしく私に付いて来て護衛をやってくれてるんだけど……せめて服装は普通の甲冑にしてほしかった。
なぜバトルメイド服なのか。
女装は止めてって言ってるのに、なんで聞いてくれないの?
それもこれもお父さんをこんな風にしたウサギのせいよ!
だから、ウサギを倒すことにした。
お父さんたちからは襲われるから止めなさいって言われるけど、そりゃ敵対したら殺し殺される間柄な訳だし奇襲とかで襲われる可能性もあるかもだけど。
言うほど警戒する必要ってあるかしら?
ま、それはともかく、お父さんと放された私が敵対しているのは、赤穂楓夏という名前の勇者。
勇者自体と闘うの初めてだし、どうしたらいいのかわかんないけど、普通の敵と思って闘った方がいいよね。
「行きますッ」
「おっと、剣術はそれなりね。ストナさん程速くは無いっと」
「ストナさん越えてたら自分で自分に驚きですよ!?」
正直な話、勝てずともそれなりに闘いに成ると思っていた。
相手は女性で軽装。戦闘のせの字すら知らなそうな存在なのだ。
だからストナ達と試合などで鍛えた自分ならあるいは、と思っていた。
けど、剣撃のことごとくが避けられる。
ただの一般冒険者じゃない?
この動き、お父さんの知り合い並? なんで? 私達って今全能力があがってるんじゃなかったっけ?
「折角だから一つ覚えておきなさい」
「っ!?」
刹那、目の前にいた筈の楓夏さんの姿が消え去った。
何が起こったのか分からず思考が一瞬停止する。
次の瞬間、真後ろから耳元に囁かれる。
「勇者には固有スキルがあるのよ」
「なっ!?」
慌てて振り向こうとした。けど、ああ、油断した……
後頭部に衝撃が走る。
私の意識は闇に飲まれ……た……――――
…………
……………………
………………………………
……ここ、は?
はっと起き上がる。
見たことも無い石室の部屋。
格子で囲われたそこは、牢屋。なんでこんな場所に?
戦争は? どうなった!? なんでこんな場所に?
格子の奥にある通路には誰も居ない。
だから、自分がなぜこんな場所にいるのか分からない。
お父さんは? 他の皆はどうなった?
なんでこんな場所に?
誰か? 誰かッ!!
必死に格子を掴んで叫ぶ、けれど誰も返事はしない。
誰も居ない?
でもここに連れて来た誰かはいる筈だ。
思い出せ。記憶が途切れる前は何をしてた?
そうだ、勇者、赤穂楓夏と闘ってた筈だ。
相手の固有スキルとやらで背後からの襲撃を受け、それで……
「つか、まった?」
じゃあ、まさか。ここは……ラビットネストの地下牢!?
こんな場所に閉じ込められたら、戦争終了後はどうなってしまうのだろう?
怖い。何をされるのか分からなくて怖い。
助けが来る気配も無いし、きっとまだ戦争中なのだろう。
いや、本当に戦争中なのか?
もしかして既に戦争は終わり、ラビットネスト側が勝利してしまったのでは?
せめて誰か、話し相手が敵だとしても居れば良かったのだが、ここには誰も居ない。そのせいで情報が入らないから恐怖が募る。
「お、落ち付け、とにかく落ち付こう。私は今多分だけど敵に捕まってる。食事はちゃんと出る筈だから連れて来られてまだいくらも経ってないはずよね。その内食事係が来る筈よ」
まずは落ち着く。その為に周囲に視線を巡らせる。
天井も床も壁も脱出できそうな場所は無い。
格子には扉はあるが、カギがかかってるので脱出は不可能だ。
さすがに全身の関節を外して脱出なんて方法は私にはできっこないので実質脱出は出来ないと思った方が良い。
ここにいる状態で何かできるかといえば、大したスキルを持っていない私では本当にどうしようもないようだ。
お父さんが助けに来てくれるまで待つしか……
うぅ、まさかこんなことになるなんて……
やっぱり、お父さんが言うように、戦争に参加しない方が良かったんだろうか?
でも、でも、お父さんが女装してるの、見たくないんだもん。
だから。だから……
―― だーかーら。あいつが女装に目覚めたのは自業自得だっつってんじゃん。諦めて更生を目指して親子でがんばってりゃよかったんだ。戦争に、まして敵対するってなら容赦しねぇって言ったべ? ――
「なっ!?」
聞こえた声に思わず聞きいってしまった。
アレは多分、ウサギの念話。
何処から!? って、え? 後ろ……
先程まで誰も居なかった筈のその場所に、白いウサギが座っていた。
赤い目をくりりと動かし、私をじぃっと見つめている。
「な、なんで? どこから……」
―― まぁ、ぶっちゃけるとジョゼのマップ移動で来たんだけどな。捕虜捕らえたからどうする? って。うん、敵は、襲いますッ ――
「ひっ、ま、待って、私武器持ってない……」
―― ずっと俺のターンじゃいっ、誰が武器持たすかーっ!! うさしゃん行きまーすっ!! ――
「き、きゃあああぁぁぁぁぁッ!?」




