ガロワ、お前が立ちはだかるのかよ
「なんとか、生還できたな」
「ガロワさんの御蔭です。貴方が止めてくれなければミミックに食われていたところでしょう。A級冒険者は危険への危機察知能力が高いんですね」
「これくらいは読めるようになっとかねぇとA級の仕事はなかなか辛いぞ? つっても、俺でも足手まといっぽいんだがな」
ロボを切り捨てながら悔しい気持ちを前面に押し出して告げる。
正直、そこいらで一対一で闘ってるメンバーを見ると、自分たちの実力不足が嫌でも目に付く。
何しろS級冒険者相手に敵が一騎打ちしているのだ。
階級も実力も低い自分がそいつらと出会ってしまったら。おそらく確実に負けるだろう。
ゆえに、ロボの数を減らすことでしか貢献出来ていないのだ。
もっと活躍したいのだが、戦場のレベルが高過ぎて足手まといになっている。
久しぶりの感覚だった。
「ガロワさん、敵です」
「おいおい、わざわざ俺らにも一対一を仕掛ける気かよ? そんな余裕あんのかお前ら?」
人波を割って目の前に現れたのは男と女が一人づつ。
見覚えのある容姿と同じような顔立ちから姉弟なのだということは容易に想像できた。
「久しぶりですガロワさん、と、えーっと?」
「なっ!? シュリックだよシュリック!!」
「あ、すいません。シュリックさん」
丁寧に訂正した男は、女顔で華奢だが、それなりに闘いができる青年、カルセット。
そしてその隣にいるのは……
「確か、姉さんのイリアーネだったかな?」
「はい。御無沙汰しております。今宵は敵同士ですが、一先ず、お久しぶりです」
ふかぶか礼をする二人につい毒気が抜かれる。
「では、勝負と参りましょうか!」
「うん。シュリックさん、胸、お借りします」
「えっ!? あ、君と闘えってことか」
おいシュリック、お前今何の勘違いした?
一瞬だがお前顔赤くしなかったか? カルセットは、男だぞ?
「いいだろうカルセット君。B級冒険者というものを見せてやろう!」
……お前、A級に上がってなかったか? まぁ、いいか。
しかし、カルセットとシュリックが闘うってことは、必然的に俺の相手は……
「嬢ちゃんか」
「ええ。よろしくです」
得物は剣。普通の剣と比べるとかなり神々しさがある。
つまり、アレは名剣神剣の類である可能性が高い。
俺の武器だとちょっと受け止めるのもマズイかもしれねぇな。
時間制限付きの無敵攻撃を何時使うか、既に向こうに知られてる以上対策くらいは打ってるかもしれん。くく、楽しくなってきやがった。
ウサギに一撃喰らわせるための準備運動だ。せいぜい楽しい闘いにしようや、嬢ちゃん。
カルセットとシュリックが切り結ぶ。
おい、馬鹿、その槍なんかやべー奴だぞ!?
案の定、シュリックの剣が軽々折れた。
焦ったシュリックが慌てて下がる。
いわんこっちゃねぇ。ちゃんと相手の武器位見とけこの馬鹿野郎っ。
っと、こっちも集中しねぇと。
剣の一撃一撃を上手く斧を使ってパリィする。
おいおい、こいつらってこんなに強かったか?
なんでだ? 俺の攻撃に付いて来やがる?
動きは拙い。ド素人に毛が生えた騎士団特有の型にハマった動きだ。
冒険者の我流な戦闘方法ではなく対人戦闘特化の動き。しかし、おそらくあまり殺し殺されの対人経験は無いのだろう。どう考えても模擬戦特化の動きだ。
決して熟練者を殺すための動きじゃない。
なのに、崩せない。
こういう手合いの崩し方は心得てる。
心得てるはずなのだ。
なのに、動きは拙いのに、その動きを崩すための反応ができない。
つまり、向こうの方が切り返しが速い。
一撃一撃の合間の動きがこちらの反応より断然速いのだ。
だから分かっていても崩せない。
隙を狙おうとして次の瞬間には別の一撃が撃ち込まれ防戦を強いられる。
これは、単純に速度が自分より速いというだけ。
戦闘技術ではなく素の速度で全てをカバーしている状態だ。
「こりゃ、相当レベルアップして強化状態の俺らより速度上になってるな」
「ええ。おかげさまで、ね!」
普通ならもう勝ってた。
いや、違うな、レベルが上がってるってなら手も足も出ず俺らが負けてた。
それが互いに打ち合える状態にあるのは、ひとえに全体ステータス増加のオリジナルスキルを持つ木下麗佳という女性の御蔭だろう。
彼女の能力がなければ今頃俺たちは阿鼻叫喚の地獄絵図だった筈だ。
それがこうして相手と闘えているのだから、ホント、あの女性の存在意義は最上級だ。
おそらく、彼女が崩れた時点で俺達の敗北が決まる、いや、素の状態で今の彼らと闘える存在も居るかもしれない訳だし、問題は無い、かな?
俺達が敗北してるのは確定しちまうけど、全体的な闘いからすれば俺たちは死んでも大勢に問題の無い人員ってことなのだろう。くそっ、有象無象の実力だってのか、俺の実力でも? やになってくんな。




