リクゥ、毟るものがなくなってもうた!?
「これで、目に見える毛は全刈りじゃーっ」
左腕の毛を刈るべく腕をドラゴンクローに変化して切り裂く。
しかし、ガイはこれを身体を回転させることで弾き飛ばし、そのまま距離を取る。
ええい、やはり同じS級冒険者。一筋縄ではいかないか。
「仕方ねェ、リクゥ、覚悟しろよ。ここから先は、遊びじゃねぇ、その曇り切った眼ン玉ひんむいてやるから覚悟しろ。スキル発動。毛無鋼之肉体ッ!」
ガイがスキルを使った、その刹那。
ガイの身体が光を放つ。
って、眩しいっ!?
思わず腕で眼を隠して一歩退く。
光が収まるまでまともに見ることができず、ようやく見れるようになった時には、そこにガイはいなかった。
いや、違う。ガイを象徴するギャランドゥな毛だらけボディがそこには無かった。
着ていた服も摩擦を失ったのかつるりと脱げ、ぱさりと地面に落ちていた。
ゆえに、あるべき姿は肉体美。
産まれし姿そのままに、毛という毛を全て失いし、つるっつるの卵肌。
髪の毛もまつ毛も髭も顎髭も脇毛も腕毛も胸毛も腹毛も背中毛も足毛も下の毛も。
ありとあらゆる毛が毛根に至るまでつるりと抜け落ち、鍛え上げられた肉の塊だけがその場に残っていた。
「が……ガイ?」
「身体に生え残っていた毛の多さにより能力値が増加するスキル、毛無鋼之肉体だ。これからしばらく、俺の身体には一切毛が生えねぇ、代わりに、お前を倒す力を手に入れた」
「しょ、正気か……」
「行くぞリクゥ! テメェの濁り切った意識を変えてお前を救ってやる!」
「い、いいから服を着ろォ――――ッ!!?」
「摩擦がねぇから着れねぇんだよッ!!」
坊主頭のド変態が叫びながら突っ込んできた。
全裸で突撃とか何考えてんだあの馬鹿!? 何かしらの奥の手はあると思ってたけど予想以上に駄目な手だった。
触れるのも嫌だったのでドラゴン形態に変化して即行飛翔して逃げる。
「逃さんッ!! 空歩!」
いやああああああああああああ!!?
変態が空走って追いかけて来たァッ!?
ドラゴン形態に変化した私を追って、空を駆け昇って来る全裸でつるつるの変態。
日差しを浴びて頭ばかりか全身がテカり輝く。
「リぃぃぃクゥぅぅぅぅっ!!」
ひぃぃ。無理、無理ぃっ! あんな変態だったなんて想定外過ぎる、コルトエア、交代、交代ーっ!!
「ちょ、ばっ!? こっちくんな!?」
変身を解いてコルトエアにガイをなすりつける。
そのまま雲、いや、蜘蛛隠れだ。って、ちょと、コルトエア逃げんな!?
仕方ないボルバーノス君丁度良い、頼む、アレを何とかしてくれ!!
―― あ、僕元女性なんでああいう変態はパスで ――
ちょ、こんな時に何言ってんの!?
ええい、誰か、誰か……
もう、君でいい。頼んだっ!
近くをコミカルに走りまわっていた丸っこい塊を持ち上げガイに向かって投げつける。
アボガトースAA、君に、決めたっ!!
「いけぇアボガトースAA! 電光石火!」
え? 言われた通り動けと!? と言った顔で一旦こっちを振り向く眼帯をしたアボガード。
ガイはソイツを受け止め投げ返そうとしたが、そんなガイの身体にマントから飛び出したタコ足が絡み付き吸盤で引っ付……つるっと滑ってそのまま投げ返されてきた。
おっと、大丈夫かアビスエイジ?
ああ、うん。あいつ引っ付けないな。だってつるっつるだもん全身。気持ち悪いだろ。テカってるだろ? ああ、アレも人間なんだ。残念だけど。
え? 自分じゃ敵わないから別の奴に任せようかって? 誰でも良いからアレなんとかしてくれっ。
―― え? ちょ、なになに? 作戦遂行中なんだけど? ――
アボガード同士でなにか連絡が出来る手段でもあるんだろうか? 別のアボガードたちがゲスターを連れて来た。
―― えー、あの変態さんと闘えって? めんどーだなー ――
「頼むゲスター、アレ、無理。あんな変態は女性の敵だって」
―― 仕方ないなー。もう、今回だけだよ? ――
「なんかよくわからんが、リクゥを倒すにはお前さんを倒せってことか」
―― ふはははは、リクゥを倒したくば我が屍を越えるが良い ――
埴輪のような空洞の瞳と口で笑みを浮かべるゲスター。
そんなゲスターに突撃するようにガイの拳が炸裂する。
うん、泥の中に手を突っ込んだだけの状態だ。
引き抜くと、腕は摩擦がないため泥がこびりつくことは無いようだが、ゲスターへのダメージもなさそうだった。
「物理無効か!?」
―― はっはっは。我が身体に物理はきかーぬ ――
「ふっ。確かに殺すことは無理そうだ。だが、戦闘不能にすることは容易い! ガイ・ラーッシュ!!」
へ? ちょ、嘘でしょ!?
物凄い速度でゲスターに拳を打ち込むガイ。
その速度と荒い引き抜きでゲスターを形作っていた泥が周囲に飛び散って行く。
「さぁ、リクゥ、覚悟を決めるが良い。転生を覚悟しろ!」
形を保てなくなったゲスターを踏み越え、両手を開いた姿で抱擁を求めるように、全裸の坊主な変態が近づいてくる。
軽く、恐怖だった――




