ガイ、天敵遭遇
ストナの奴なんか楽しそうだな。
ストナと別れた俺は、適当なロボを殴り破壊しつつ、他のメンバーのフォローを行うように動こうとしていた。
ああ、動こうとしたんだ。
実際には動けなかった。
ストナが勇者の一人と闘い始めたように、俺にも敵対者が一人やってきたのだ。
うん、まぁ、なんとなく予想は出来てた。向こうも強力な相手を一体一で防いで雑魚と雑魚ですり合わせるだろうなってことは。
つまり、S級冒険者である俺の元にも強力な存在が敵として出て来るって。
でも、なぁ……
「お前なのかよ!?」
「くっふっふ。ここで会ったが百年目。その毛だらけの身体、思う存分蹂躙してやろう」
かつての旧友、否、同じS級冒険者の中でも俺にとっては一番の天敵がそこに居た。
何かに付けて俺の毛を毟って来る力だけは無駄に強い竜族のロリババア。
「いや、リクゥ、お前なんで俺と闘おうとしてんだ? ほら、守護者の中にドラゴンいるだろ? ああいうのがお前の敵じゃねーのか?」
「何をいう。今回はできるだけ有利に闘える相手をさっさと倒して余った人員で他を叩いて行く戦法だ。ならば我が有利となる毛だらけの貴方が一番の被害者になるのは当然でしょ!」
「当然じゃねぇよっ!?」
「問答無用! 大人しくその毛、暁に置いてゆけいっ!!」
本当に突撃と共にドラゴンクローで避け損ねた腕毛を毟り取る。
「アウチッ!?」
「まだまだぁ!!」
ぶちぶちぶちっと俺のアイデンティティが奪われていく。
って、お前、すね毛は駄目だって、すね毛はぁ、あはぁんっ!!
「キモい声を出すな!」
ファイアーブレスを放ってくる。
痛みに悶えていた俺はぎりぎりで避ける、が、揉み上げが焦げた。
「クソ、執拗に毛ばかり狙いや、あひぃっ!?」
胸毛が、胸毛がブチィッ!! って。
「どうしたどうしたァ! 貴様の毛はその程度かぁ!!」
「や、止めろ、止めてくれぇあぎゃぁっ!!」
慌てて手で受けようとするが、腕毛がごっそり引き抜かれる。
「クソっ。右腕がつるっつるになっちまったじゃねぇか!?」
「全身強制脱毛してやろう。はーっはっはっは!」
「くっ! これ以上はやらせんっ! くら、おひぃっ!?」
「他所見してていいのか?」
な、なんだ今の……て、てめえ! やりやがったな!?
すぐ横に来ていたアボカドがすね毛を毟り取りやがった。
まさかの伏兵に気を取られた瞬間、懐に飛び込んできたリクゥの削ぎ取りアッパー。
「あびゃあああああああああああああああっ!?」
気付いた時には遅かった。
男を象徴する雄々しき胸毛たちが空へと舞い散る。
こ、この野郎、根こそぎ、俺の愛すべき胸毛を根こそぎぃっ!?
しかもこのアボカド。手に付いた俺のすね毛を見てうわばっちぃ、みたいに地面に擦り付けやがった!?
ふざけんなっ!
思わず蹴りつけたらそのままころころ転がって消え去って行った。
しまった、思わず蹴って見失っちまった!?
何処行ったあのアボカド?
というか、良く良く見りゃロボの影に隠れて無数のアボカド共が駆けまくってやがる。
しかも武装が無駄に物騒だ。
足元に気を付けないと知らないうちにやられるぞこれ!?
「だが、残念だったなリクゥ。毛は俺のアイデンティティだが、俺の体力を削るには意味の無い行為だぜ?」
「ふっ、強がりはよせ。あと少しで卵肌に産まれ変わるんだ。さぁ、その醜悪な無駄毛を我が前に差し出せい」
「ふざっけんな! これだけは、左の腕毛だけは守り切って見せるッ!」
「中途半端だろうが! 大人しく毛を出せぃっ!」
「嫌だぁ―ッ!!」
だから、これ以上やってられるかと俺は逃げだした。
S級冒険者だからって無謀な闘いにも逃げずに闘えという理由は無い。
むしろそういうことからは率先して逃げる。それが上級冒険者。何度も死地から生還するものたちなのだから。
ええい、しつこいぞリクゥッ! 俺の毛をこれ以上毟るんじゃねぇ!!
お前はどれだけ俺の毛が憎いんだよ!
はっ! まさか!
「お前、そんなに俺の毛が好きだったのか!?」
「キモいわっ!!」
ぎゃぁぁ!? ドラゴンブレスは止めろっ! 毛が、髪の毛が燃えるっ! チリチリパーマになっちまう。
「それに私はうさしゃん一筋だからな! 貴様の毛などに懸想なんぞしてたまるか!」
「いやいやいや、お前、ウサギが好きって本気で思考回路おかしいからな。ホントお前ら眼を覚ませよ! あれはただの変態ウサギだぞ! ゴブリンよりたち悪いだろ」
「ダーリンをあんなクサレ外道どもと一緒にするなァ!!」
駄目だこいつ、既に洗脳済みだった。
残念ながらこいつの目を覚ますにはウサギから数年くらい引き離して置かないと普通の生活には戻れそうになさそうだ。
ならば、ここで引導を渡してやった方がこいつのためか。
仕方ない。俺の全身の毛たちよ。しばしの別れだ。
お前達の儚き命を使い、俺はリクゥを打ち倒す!!




