ストナ、剣刀の闘い
「こりゃ面倒臭ぇ」
隣を走っていたナイス・ガイが思わず呻く。
彼は肉体言語派だからロボット相手はさすがに辛いようだ。
対して、私は切り裂くのが主体なのでロボットだろうがなんだろうが、問題無く闘えている。
もはや乱戦の体を示しだした戦場なのだが、どうもおかしい。
見えない誰かに導かれてる気がしなくもない。
この良く分からない感覚はなんだ?
まるで自分の闘うべき相手がこの先に居るような気がしてくる。
……挑発スキルか?
いや、そんなもの、この乱戦で私だけ狙い撃ちなど出来るわけがないか。
「いや、やっぱり何かしらのスキルを使われたみたいね」
「ありゃ勇者の一人か」
「私の客らしい。ガイは別の客を頼む」
「かぁっ、こんな場所で一騎打ちかよ。頭大丈夫か? 胸毛で抱擁してやろうか?」
「体中の毛を剃り落とされたくなければさっさと消え失せろ」
全く、もう少しマシな冗談は言えないのか。
いつの間にかロボット達も私に攻撃してこなくなったな。
つまり、本当に一騎打ちさせる気か。
「一応、言っておくが、私はS級冒険者。閃光のストナ。私をお求め、と思っていいのかな?」
「ああ。名乗りもすべきか。私は勇者の一人、元道真廣。我が剣閃の全てを持って貴女を越えたいと願う者。今宵一合、お相手仕りたく申し上げる」
すらり、腰元の鞘から引き抜かれる一振りの剣。
いや、違うな、真廣の持つ武器は剣じゃない。アレは、刀。
断ち切る剣ではなく、切り裂く刀である。
鈍く輝く刀身が日差しを浴びてきらりと光る。
見るモノを怪しく魅了する不思議な武器だ。
あれほどの銀光は私の剣でもなかなかお目にかかれない。
クロウの集めている剣ならあるいは似たようなのがあるかもしれないが、いずれも神剣や聖剣の類になる筈だ。人の身技でその域まで達せられるとは思わないのだが、なんにせよ、初めて闘う武器だ。警戒はしておくべきだろう。
「返事や、如何に?」
「良いだろう。我が剣閃越えられるものなら越えてみろ」
呼応するように私も剣を振り、ゆっくりと構える。
ロボット達を斬りまくっていたので鞘からは出した状態だったので構えるくらいしか呼応の仕方がわからなかった。
さすがにこんな状況で締まらない行動はしたくないからな。
ゆっくりと正眼に構える真廣。
ふむ、刀という武器も基本は剣と変わらんか。
切っ先が鋭い以外はそこまでの違いは無いと見える。
私も構えようと、どんな構えにするか考えていた時だった。
ぐっと、刀を握る手に力が込められるのが分かった。
来る……っ!?
「いざ、参るッ!」
地が爆ぜた。そう思った次の瞬間には、目の前に近づく真廣の姿。
油断したつもりはなかった。
自分の踏み込み並に強烈な前進が行われると思っていなかっただけである。
「くっ!?」
「めぇぇぇぇぇンッ!!」
ぎりぎり防御が間に合った。
突撃と共に顔面に叩き込まれようとした刀を剣で受け止め受け流す。
反撃などできなかった。
気付いた時には既に真廣は数歩離れた場所にいたのだ。
「これは……やるじゃないか」
「今のは剣道の基本中の基本ですよ。本番は、ここからです」
「凄いな。こちらも初めから全力で行くしかなさそうだ」
「当然、それくらいして貰わないと強くなった意味がない。では、改めて、いざ!」
再び地を蹴る真廣。
今度はこちらも合わせて地を蹴る。
接敵は一瞬。
切り結ぶ剣は刀とこすれ合う。
強い。
今の私の実力は麗佳さんにより強化された状態だ。
それで、互角?
相手は能力値の底上げをしていないのに?
「常時でならば、勝ちは確定ね」
「嘘だと思いたいわね。でも、事実かしら?」
「急激なレベル上げをしたからな。悪いが、レベル差で押し切らせて貰う」
「技量で補って見せるわ。疾ッ!」
飛び退く瞬間、風の刃を叩き込む。
だが、ソレを予期していたのか軽く足捌きで横にずらすだけで避けられる。
足捌き、そうか。今さっきの加速する一撃、足運びのせいか。
立ち回りとしては群れに弱いが、前進後退自由自在の足運び、あれは確かに真似するだけでも私の動きがさらに加速出来るだろう。
だが、敵である真廣はあの足捌きを知っているということであり、それすなわち攻略法も知っていて当然。それが私達が闘っているAクラス以上の戦術だ。
ただ相手の動きを真似れば強くなれる訳じゃない。
むしろそうすることで自分には知らない弱点を好きなだけ突いてくれと自己主張してしまうことになりかねないのだ。
ゆえにこの戦闘中は、自分の動きやすい戦術で闘う方が良い。足捌きに付いては戦争が終わって生還した時に練習しよう。
今は、ただ真廣を倒すことだけに集中すべきだ。




