パオ、全員一網打尽、とはいかないカ?
ライゼンさんに一番槍を奪われた。
敵陣深く切り込んで行った彼に習うように、私も一気に加速する。
敵は見知った知り合いが多い。でも、敵対する以上は手を抜く気は無い。
空掴みで一網打尽。それで終わりだ。
ライゼンさんも巻き込むかもだけど、そのくらいは問題ないよね。
では、空掴みッ。
気を溜めて虚空を掴む。
イメージは大きな袋を広げ、ソレを投網のように投げ、袋に入った部分を、掴み取るイメージ。
ほぅら入った。もう、あなたたちは逃げられないネ!
「空掴み、墜落殺!」
「させるかァッ!!」
全てを掴んで持ち上げようとした瞬間だった。
固定した空間を割り砕き、ソイツは一人、飛びかかる。
想定外の事に、一瞬身体が止まった。
視界の先に駆け寄って来る一人の女。
学生服に身を包み、お団子頭に中華系のアイシャドウ。
勇者たちの一人、戒涙亞がこちらに向けて飛びかかる。
「真空飛び膝蹴りアル――――ッ!!」
「ちぃッ!?」
空掴みのままでは防ぐことも逃げることも出来ない。
咄嗟に技を解いて左に転がる。
間横を通り過ぎていく涙亞。
どうなってる!?
今、確かに掴んだ筈。
空間を固定した場所に涙亞はしっかりと居た筈だ。
「まさか、ローエンがたまにやる空間破壊、お前も出来るのか!?」
「貴方の相手は私アル。他のメンバー倒したいなら私の屍越えるとヨロシ! ただし、私はS級冒険者、パオ・クゥエンを越えるつもりアル」
「上等……っ。あんたを沈めないと空掴みも出来そうになさそうだし、S級冒険者ってのがどれ程高みの存在か、なんちゃって勇者に教えてやるネ」
私は腰をかがめ左足を前に踏み込み構えを取る。そこから両手の力を抜き、手先を揺らめくように構える。
対する涙亞は何故か両手を開き片足をあげる。
何ソレ? は? 白鳥の構え? 隙だらけに見えるんだけど?
地を蹴り突進。
からの掌底。
肘打ち、顔面拳底撃、急所蹴り、双打掌!
って、跳んだっ!?
「南斗の妙技は白鳥の構えより生み出されるアル。ちなみに我が奥義は漫画由来ネ!」
「何かよくわからないけど、攻撃当らなきゃ意味ないよね? 空掴み!」
「それは効かないアル! って、危なっ!?」
空掴みと同時に引っ張り、相手の体勢を崩す、さらに自分が飛び込み回し蹴り。
さすがにこれは受けるか。
でも、やっぱり空掴みを破れるってだけで破るために一拍、間が空くみたいね。だったら私にとってはただの雑魚ヨ!
「空掴み、これで終わりネ!」
再び空掴み、引き寄せのコンボで相手の体勢を崩す。
トドメの飛び膝蹴りを叩き込もうとした刹那、ゾクリと全身が粟立った。
咄嗟に空を掴んで機動を変える。
「っ!?」
掠った!?
頬にチリと痛みが走る。
衝撃のせいだろうか、着地地点がわずかにずれたせいで着地失敗、何とか身体を転がすことで隙なく立ち上がり、相手に視線を向ける。
何をされた?
涙亞は崩された体勢から一歩、その足に全ての力を溜め込み、拳を打ち込む体勢で固まっていた。
なんだ、あれ? ただの崩拳? でも、でも、なんだ? あの拳、絶対に当ってはいけないと全身が告げている。
躱し切った今でも背中がゾクゾクとしているし、全身の毛が逆立っている気がする。
アレはヤバい。絶対に喰らってはいけない一撃だ。
今のは本能的な危機に従って避けた御蔭で何ともないが、掠った頬からは血が滲んでいる。
「うぅむ、シミュレーションより動きがよかったネ。今ので仕留めたと思ったのに」
思い違いしてたヨ。この女。ただのなんちゃって勇者じゃなかった。
私をして、敵と言わしめるだけの実力を兼ね備えた存在だ。
手を抜いて勝とうだなんて考えは今の動きで吹き飛んだ。
ここからは、全力を持って相対する。
手を抜くことは失礼。例え私より、弱いのだとしても、強いのだとしても。
我、死力尽クシ全霊持チテ宿敵ヲ打倒セン!
「奥義解放……柔剛一体呼吸法」
「っ!? 一の型とかあるアルか? こちらから仕掛けるネ!」
呼吸法を変える。
今までの自然的呼吸から意識して深く、深く吸い。そして……
「疾ッ!」
涙亞の抜き手。
脇腹を狙った一撃を、無防備に受ける。
否、呼吸を合わせ、激突と同時に一気に吐きだす。
「っ!? 硬い!?」
「破ッ!」
さらに吐きながら足を踏み込みがらあきの胴に掌底を打ち放つ。
くっ、咄嗟に後ろに飛んで躱したか。
あれじゃ内臓に伝わらない。
「あ、危な……油断はしてなかったけど、想定外の硬さアル。硬気功極めたらああなるアルか」
「硬気功……私独自のオリジナル技だと思ってたけど、他にも編み出した人居るアルか?」
「硬気功位なら使えるアル。貴方の域まで高めるのは何年も掛かるだろうけれど。でも、相手にとって不足無し!」
アレは、蟷螂を真似た構えかな。やっぱり隙だらけな気がするんだけど、気のせいだろうか?




