ヘンドリック、勝手に何始めてんの!?
「それで、ラビットネストの撃破に関してだけど……クスカさんに遠距離での超強力技を一撃。その後は回復し次第ピスカさんの妨害をお願いしたいんだ」
「私は一番槍でありますね。良い選択ですヘンドリック」
「ああ、まかせ……あれ? なんだか外、騒がしくない?」
「……ヘンドリック、なんか冒険者が突撃してるよ?」
郁乃さんが物憂げな顔で告げる。
どうでもいいけど一応告げとくね、と眼が言っていた。
慌てて急造の天幕を出てみれば、まだ宣戦布告すらしてないのに突撃している冒険者たち。
血気盛んなのは良いけど、これじゃあ作戦が台無しじゃないか!? 相手が警戒していない最初の一撃をクスカさんに叩き込んで貰ってあの天空城を落下させてしまう計画だったんだぞ!? そうすれば地上からも闘いに参加できるからって……何してくれてんの!?
「あ。外出ない方が良いよ。あと眼を瞑った方が眩しくない」
眩しい?
思った次の瞬間だった。
光が走り抜けた。
ごばっと近くの土が吹き飛ぶ。
天幕から数十メートルは離れていたが、大地が山が、一直線に穴を掘られたように穿たれていた。
え? 何今の?
「あー、そういやあんなの装備してたなあの城」
え? あ、そっか。そう言えばあの城古代兵器の塊だったな。
というか、郁乃さん良くわかったね。
「ん。私ならそうすると思っただけ。ほら、早急に戦闘準備整えないと、チャージの完了と共に再発射するよ? どうする?」
「こうなっちゃ仕方ない。クスカさん、先に出てピスカさん誘いだしておいて。距離を取ったら好きにしていいから」
「了解であります。姉妹機、目にモノ見せてくれるであります」
「それから守護者たちに連絡、戦端開かれるのが速くなった。あと幸運の勇者連れて来て」
「あいよー」
「ライゼンさんとS級冒険者は?」
「準備おっけーよ。ふふん。私の夫の雄姿を見せつけてあげるわ」
「えー、あー、うん。がんばって麗佳さん……」
麗佳さんは結局無理矢理既成事実作ってお爺ちゃんの後妻に納まった。
それから二年、二児の母になった彼女は子供たちをコーライ村に預けてからの参戦である。
ライゼンさん、否、他のメンバーと組ませることで凶悪なステータスアップが可能となる。
彼女がいるだけでこちらの有利は確定なんだけど、郁乃さんが気は抜かない方が良いよ、と言ってくるので警戒はしている。
「ん? おい、アレを見ろよヘンドリック!」
上田?
指差す方向はラビットネスト。そちらを見れば、成る程、確かに驚きの変化だ。
もう一度光線を放つかと思われたラビットネストはまるで自分の存在を誇示するかのようにゆっくりと地面に向けて降下して行く。
成る程、自分たちからわざわざ来てくれるわけか。
「待って、なんかヤバい。ヘンドリック、城の周辺に近づいちゃダメ! 死ぬよ!!」
「え? どういう……」
地面に城が辿りついた、その刹那、ラビットネストが消え去った。
意味が分からず眼をぱちくりとする。
次の瞬間、ラビットネストが降りた場所に出現する巨大な宮殿。その広さはあまりにも広く、庭園と豪奢な門が作られる。
「これは……?」
「ヘンドリック君、アレを鑑定したまえ。相手は随分と用意周到のようだ」
「え? ……なっ!? ミミックパレス!?」
「どうやら向こうはミミックパレスをテイムしてラビットネストに擬態させていたようね」
嘘だろ? そんなことあり得るのか?
呆然とする俺の目の前で敷地内にいた冒険者達が無条件デスでミミックパレスの餌食になって行く。
A級冒険者たちは何かしら感じたらしく近づいてなかったから良かったが、一般冒険者と魔物達の殆どが逃げ遅れて餌食にされてしまった。
「開幕即行、不利になってないかな?」
「大丈夫だろ、有象無象が消えただけだし。むしろ闘いやすくなったって奴だ。ヘンドリック、俺との約束、覚えてるよな。真廣さんは絶対に生かして捕らえる。俺の女にするんだ。しっかり守れよ!」
「……ああ」
こちらに来て、上田も郁乃も変わってしまった。
ジョージもどうやらセレスティ―アに入れ上げてるようだし、なんだかこっちに来たメンバーがかなりおかしなことになってないかな?
いや、たまたまだよたまたま。俺のせいじゃない筈だ。
「本物のラビットネストはどこかな?」
「ふむ、守護者の誰かに空から見てもらえヘンドリック」
「そうですね。では申し訳ありませんが狒狒爺さんに連絡を、ラビットネストを空から捜索してほしいと告げてください」
「ん、じゃあ行ってくる」
あれ? 郁乃行くのか!? 適当な人に頼んだつもりだったんだけど、まぁいいか。
「ん、そろそろイルラちゃんが出てきそうだから、出撃準備してくるね」
って、こっちが何か言うより先に行ってるし!? しかも行くのはそっち側か!? なんで皆勝手に戦争始めるかな……




