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ボルバーノス、深海を覗く者は深海に覗かれているのさ

 どうやら相手は見た瞬間に正気度をごっそり削るバケモノらしい。

 さすがに正気度消失案件は避けたいので姿を見ないことにする。

 一応話はできるしね。


「上の者には簡素で侘しき場所だろう? ここには求めるモノは何もない。手伝うのは吝かではないが、ソレ相応の価値あるモノを、我は求めよう」


 なるほど、報酬が必要ってことですか。

 んー、何がいいんだ?

 金はいらんだろうし、食料はいつでも食える。

 寝床はあるし、襲われる心配も無い。

 あれ? 自由過ぎて求めるモノがないような?


「我が求めるは未知。見たことも無い何かを所望する」


「未知、でありますか?」


「如何にも、我が知らぬモノを見てみたい。どうかね? 我にそれを見せる術はあるかね?」


 未知って言われても、アンタがどんなのモノを知ってるかわからんでしょ。ほーら、ボルバーノスさんは陸の守護者だよー。あと蜘蛛。


「残念ながらそれは既知である。我はここに居ながらあらゆる事象を知る術を持つ。なればこそ、未知を求めるモノである」


 うわーお、プロビデンスビューって奴ッすか。深淵もとい深海を覗く僕らは常に深海にみられていたんだってことかい?

 となると、地上に存在するモノはほぼ既知って奴か。

 あ、ウサギ君はどうかな?


「彼についても知っている。もはや既知である」


「では私についても?」


「既知である」


 これは困った。未知なモノがあるのかすらわからんじゃーないですか。

 本当に知らない事ってあるのかね。


「……ああ、簡単でありますよ」


「ふむ? 我が知らぬモノがあると?」


「未知であるものはあなた自身であります」


「……我、とな?」


 あー、それ、禅問答じゃん!?


「我は既に既知である」


「それはおかしいです。貴方は貴方がなぜ存在出来ているのか本当に知っているのでありますか? 分かったつもりになっていないでありますか?」


「何を言う。我はくーとぅるっぷ。この海の守護者である!」


「それは後から付いた知識によって定義づけたものであります。貴方は言葉を用いて自分を定義づけているだけであります」


「なに?」


「まず、くーとぅるっぷ。その名は誰が付けたモノですか? 本当にその方が付けたものですか?」


「それは……」


「なぜ自分が守護者であると理解できるのでありますか? 本当に守護者でありますか? 守護者とはなんでありますか? 何をもって守護者だと理解しているのでありますか? その理解は本当に理解でありますか?」


 待て、止めろ。それはさすがにマズいよピスカさん。

 それ、下手したら正気度消失ものだからっ!


「我は……我は……」


「ほら、名前は意味を成さず役職も意味を成さない。貴方は一体何者でありますか?」


「我は……」


 ヤバい、言葉で分かる。

 めちゃくちゃ考え込んで混乱し始めてる。

 あんた守護者さんに対してなんつーことしてくれてんの!?


「後天的に得た知恵を使って定義を付けるのは好きにすればいいでありますが、後天的知識とは他者より教わったものを元にしたものであります、ならばそこにいる貴方は何者でありますか? 守護者? くーとぅるっぷ? 名状しがたき名もなき何か? 違うであります。なぜならそれは他者が貴方を定義しただけの名称。さぁ、貴方は貴方にとって既知のモノでありますか?」


「我は……ああ、我は未知である。何者だ? そうだ。根本的に自己を納得していたが、確かに未知である。なぜここに居ながら世界を知れるのか? その理由は未知である。なぜこの場に我が存在するのか? これもまた未知である。なぜ我は我を知覚できるのか、これもまた未知である。知覚とは何か、それもまた未知。ああ、未知だ。未知がある。我の知らぬ、未知がこれほど身近に潜んでおったのか!?」


「コギト・エルゴ・スム。我思うゆえに我あり。貴方は今、貴方がそこにいることを理解した。ゆえに貴方はそこに確かに存在する既知である。しかしながら何故存在しうるのか、それはまた、未知である。であります」


「なんと。これはまた未知への考察が捗る。良き出会いであった。礼を言おう。人ならざる娘よ。我と我が海の眷族はそなたのために闘おう」


「ありがとうでありますよ」


 ええぇー。アレでいいの!?

 下手したら自我がゲシュタルト崩壊しちゃう考察だよ? 絶対ヤバいやつでしょ。

 ああ、でも正気度消失モノの生物だから自分の正気度消し去るのもお手の物なのか。


「むぅ? なにやら今、失礼なことを考えなかったか?」


 いやいや、気のせいでしょう。

 さぁーって、ピスカさん、次の場所はどこですかー。


「そうでありますね。くーとぅるっぷさん、そろそろ御暇させていただくであります」


「よかろう。我も考察の時間に入る。またぞろ戦場で相まみえよう」


 それじゃ敵対するみたいな言い方ですやーん。

 僕らはくーとぅるっぷさんに別れを告げて次なる守護者の元へと向うのだった。

 そろそろ一度ゆったりしたいなぁ。海はもういらないっすわ。

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