アンゴルモア、異世界デスゲーム不幸な人柱
「ようやく戻ってきたか下僕」
召喚陣から召喚されたばかりの俺に、その女は横柄な態度で告げた。
無い胸を強調するように胸を張って腰に手を当てたツインテール少女。
こっちを蔑んだような目で見てくるのがなんとも……まぁツンツンしてるみたいだけどめっちゃくちゃ恐がりだって分かってるからな。
知り合いの吸血鬼みたいな容姿だしちびっちゃい子なので生意気とか思うよりも背伸びしてる女の子可愛い、と幼い子を愛でるような優しい眼で見ちまうのは許して欲しい。
「まったく、まだあの魔術師まで辿りついてないんだから。デスゲーム中だってわかってるの?」
「へぇへぇ。でも皆休憩だって言ってただろ」
「とっくに終わったわよ。というか、アンタが居なくなった途端10分以内に次のステージ行かないと死亡とか無茶言われて慌てて皆でこの部屋に来たんだから」
「うわーお、あの野郎、俺が居なくなったからようやくデスゲームにできるとか張り切っちゃった感じか」
「ええ。今回は人狼ゲームだって。狼一人を見付ければ私達の勝ち。狼が見付からなかったら一人ずつ死んで行くらしいわ」
「は? 選ばれた奴死ぬの? んじゃ一発で当てなきゃ駄目じゃねーか」
「ええ。そういう訳で、あんたでしょ人狼」
「いきなり何言ってんのこの女?」
座席に座ってカードを見る。
人狼は俺だった。
皆が俺を指し示した。
うん。今日も間違いなく不幸だ。
―― パンパカパーン。さすがだねチミたち。一発目で人狼発見~。さぁて人狼君は初めてのデスペナで生き残……なんでいんの? ――
おいこら司会野郎。俺が来たの見てなかったのかよ。
俺は天からの声に見えるように人狼のカードをぴらぴらっと振ってやる。
―― おま。また!? またかこの不幸詐欺野郎ッ!! テメー最初っからここまで全部デスペナお前じゃねーか!? なんで死んでねーんだよ!? 潰れて死ねよ!? 燃えて死ねよ!? 毒で死ねよ!? 窒息で死ねよ!? なんでことごとく生き残ってんだよ!? ハァッハァッ…… ――
「あー、その、めんご?」
―― まぁ、いい。今回は確実に死ぬんだからなぁ! 人狼は銀の銃弾撃ち込まれて死ぬんだよ! 拘束魔法、発動! ――
おお、俺の四肢になんか魔法陣が巻き付いた。
「アンゴルモアッ!!」
「あー。じゃあちょっとデスペナって来るわ」
「早く済ませて来なさいよ。次が待ってんだから」
「へーい」
―― 緊張感ッ! お前らこれデスゲームだっつーの!? なんでそんなほんわかしてんだよッ!? ええい、 撃ち殺せ!! ――
何処からともなく銀の銃弾が俺へと飛んでくる。
うわっ、て!? 掠った!? しかも機械部分をちょっと穿って行ったぞ!? これ、もしかして今度こそマジ死するんじゃ……
―― 効いた! 初めて効いたぞ!! 良し! 総攻撃だ―ッ!! ヒャッハーッ!! ――
「あー、これはマジにやべぇかも? まぁ……これで死ねるなら幸運か」
そう思った瞬間だった。
俺の真下に魔法陣。
撃ち放たれる無数の銃弾。
そして……目の前にウサギがいた。
―― 一応呼べるか試してみたんだが? 問題無く呼べるな ――
「うん、まぁ、普通なら呼ぶなって叫ぶところだが、ナイス召喚!」
向こうに連絡を取って呼びもどして貰う。
突然消えたからもしやと思って安心してたらしい。
再召喚で元の世界へと戻って来ると、
―― フハハハハ! やった! やったぞ! ついにあの自称不幸の邪神野郎を殺してやった! これでデスゲームがちゃんと出来る。ちゃんと殺せる。はは、ハハハ、はぁっ!? ……生き、てる? ――
主催者君が楽しそうに笑っていたのだが、俺に気付いたようで声が凍った。
そんな彼に、俺はにこやかに手を振ってやるのだった。
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一方、どうでもいい話ではあるが、邪神と呼ばれた男はアンゴルモア召喚時の召喚陣に乗ったせいで別世界へと飛ばされていた。
そこには、落ちて来た邪神を即座に鑑定し、邪神だと知った男達が待っていた。
「俺は鑑定の勇者! 皆! こいつは邪神だ! 魔王サタニアーナが異世界より使わした邪神だと思われる!」
「なぁにぃ! サタニアーナに逃げられてどうしようかと思っていた俺達の前に、邪神! ならば!! 俺は靴下の勇者! いざ尋常に、勝負!」
そして次々に勇者たちが名乗りを上げた。
無数の勇者たちが一斉に襲いかかる。
邪神も突然の状況変化にもかかわらず。近づく勇者たちを一撃の元屠って行く。
しかし、ここは全人類勇者世界。
勇者は例え死んだとしても、教会にて復活可能の無限湧き。
そんなことなど全く知らない邪神は、ただただ群がる勇者たちを撃破して行く。
しかし、腐っても勇者。それが群れを成して襲ってくるのだ。
どれ程凶悪だった邪神といえども、魔王や邪神に特攻を持つ勇者の群れを相手に無限に勝利し続けられるわけがなかったのである。
徐々に物量に押され、勇者の集団の中へと埋もれて行く。
そして、勇者たちの勝鬨が上がるのだった。




