桃瀬、クラスメイト会議を行う1
「では、これより第一回クラスメイト会議を行う」
メガネがきらりと光る。
学級委員長の中井出君である。
規律に厳しいクラスの常識人に位置する人物で七三分けのメガネ君だ。
ただいま、朝食を終えた私達は王城の一室、というかだだっ広い会議室を借りてクラスメイトだけの学級会議を始めようとしていた。
議題は異世界転移と魔王討伐に付いて。
司会役は中井出勧。フォロー要因はゲーム知識を持つ瀬尾祷と夜霧天音。九重さんは何も言う気はないらしく、私の隣でちょこんと座っている。
ちなみに私の逆隣りにはイルラさんが座っている。
「まず最初に、僕たちはこの訳のわからない世界、瀬尾君達によれば異世界という日本とは違う場所へと飛ばされたらしい」
九重さんも詳しいし、神様からの手紙でこの世界に付いてはある程度分かっている。
皆に告げるかどうかについては九重さんからストップが掛かった。
なんでも知ってる情報を全て教えるのは馬鹿のすること、何が起こるか分からない以上情報はある程度精査して出してはならない情報は秘匿するべきだと言われてしまったのだ。
神様の手紙にも警察のような機関が無いので人の命がとても安いのだと書かれていたし、私も磁石寺君と再会するまで騙されたり殺されたりはしたくないので九重さんの提案に乗ることにしたのだ。
一応基本的な内容だけは皆に教えておくけれど。
「そしてこの世界にはゲームのように王国があり、魔王が存在する。この王国は僕らを召喚し、魔王を討ってほしい、討てば元の世界に戻れると言っている」
「確か、魔王については討つことを決めてから詳細を告げる、だったっけか」
「ああ。正直学生の僕らには酷い話だと思うんだ」
「確かになー」
「つか面倒だっつの」
「それなんだけど、僕いろいろ調べてみたんだ。そこで皆、ステータス展開表示って言ってみてくれないかな」
と、自身のステータスを前面に展開させた瀬尾君が告げる。
皆が言われるままにステータスを開示し、驚きの声がいくつも上がった。
私も言われるままに、偽装されたステータスを前に出す。
九重さんはステータスを出さなかった。
「折角だ、ジョセフィーヌさん書記を頼む。皆のステータスを把握したい」
「あぁ? 把握してどーすんだよ中井出!?」
「把握すれば困難に会った時に誰の力が使えるかが分かるだろう。それにこれからのチーム編成に役立つ」
きらりとメガネが光る。
彼らもいろいろと作戦を練って会議に臨んでいるんだろう。
それが善意からのことならば問題無い。でもスキルを知られるというのは少々怖い。
何しろ弱点にもなりうるのだ。
「む? 九重さん、ステータスを見せてくれないか?」
「……」
九重さんがステータスを見せてないことに気付いた中井出君が告げると、皆の視線が一斉に九重さんに向かう。
「おいスイカ女、皆見せてんだぜ、テメーだけ見せないってどういうつもりだよ?」
「そうだそうだー。見せろー」
「ふん。どうせ大した能力はないんでしょうスイカだけに紙装甲かもしれないわね。棍棒一つで割れるとか?」
「さぁ、早くステータスを……」
「嫌、嫌よっ! そう言ってまた私を排除するんでしょッ!」
皆の視線に耐えられなくなったらしく、九重さんがヒステリックに叫ぶ。流石に見ていられなくなってフォローに入ることにした。
「ま、まぁまぁまぁ。皆落ち付いて」
「高藤さん?」
「九重さんはほら、今まで学校に来てなかったでしょ。先生に無理矢理連れて来られた訳だし、ねぇ先生?」
しかし、先生は現実が受け入れられずに端っこの方で俯いて小さくなっている。
「と、とにかく、九重さんにとっては私達も信用できない状態なんだよ。中井出君も、いきなり知らない人にステータス確認させろって言われて確認出来ないでしょ?」
「それは……いや、しかし……データはあった方が……」
「一人くらいいいんじゃないかな。ね?」
「まぁ、高藤さんが言うなら……」
私が言うならって、いや、まぁ良いんだけど。
どうやら九重さんについてはうやむやにしてくれるようだ。
「さて、それじゃこの世界に付いてなんだけど……」
「一応ゲーム世界の常道に合わせると、王国の状態によって僕らの危険度が変わってくる。とりあえずいきなり殺される世界ってわけじゃなかったし、奴隷化して来る国でも無かった。だからあと心配なのは魔王が本当に世界を滅ぼそうとしているのか、国の内部で勇者を殺そうとしている者が居るかどうかを気をつけておかないと……」
瀬尾君の話が長々続く。
一応神様が言うには結構良心的な国みたいだよロスタリス王国。
それと魔王は本当にいるみたい。でも国王様が言ってるのは魔王ではなくて魔王達を統括する大魔王のことらしいんだけど。
その辺りのこと伝えなきゃだよね。




