涙亞、理想を求めて
「だぁぁっ! これじゃ駄目アルッ」
私はシミュレーション戦闘を終えるなり思わず叫んだ。
もしかしたらメンバー変えれば行けるんじゃ? とアーボ達の方に参加したりもしたけれど、結局S級冒険者のパオを越えることは未だに出来ていない。
あの動きに付いて行くことはできるのだ。
でも、やはり空掴みの攻撃を攻略しないことにはどうしようもない。
しかし、アレを使われると身体が動かなくなるし、相手の攻撃を無防備で喰らうことになる。
しかも地面に激突する追加ダメージが馬鹿にならない。
発動前に潰そうにも、攻撃に移る動きは殆ど最小。
気付いた時には発動されてる。
しかも一撃必殺という訳でもない。
こんなのどうやって対策しろっていうのだろう?
正直勝てる気がしない。
いや、速さを極めれば相手が動くより先に倒せるだろって話だし、遠距離攻撃とか、動く必要の無い攻撃なら倒すことは出来るだろう。
でも、私が使えるのは拳法だ。
レベルが上がっても身体の速度が上がっても、パオと同等位までは来れてもその先には行くことが出来ていない。
「苦戦しとるのー」
「!?」
エントランスに倒れていた私は、掛けられた声に上半身を起こす。
入口からやって来たのは、リクゥーとコルトエア、そして女の恰好をした男が一人。
うわぁ、厚化粧……
「S級冒険者二人と……誰ネ?」
「ああ、こやつは……ローエンの慣れの果てだ」
「ウサギにやられてからタマは取り戻したんだがな。既に致命傷だったんだ」
「女装に目覚めただけよ。それなりに綺麗じゃない?」
全然。
「見させてもらったけど、パオ相手に拳で闘おうってのは無謀じゃない?」
「気持は分からんでもねぇな。あたしだってパオとは拳でやるし」
「お前の場合は誰に対しても突撃でしょ。でも、空掴みを攻略しないことにはどうしようもないでしょうね」
「あと、やるなら一撃でパオを倒せる技を覚えときな。あいつの意識があるうちはいつでも空掴み使ってくっからな」
そう言われても、アレを攻略とかどうしたらいいのか?
今の所は考えも付かない。
そんな事を伝えてみると、ニヤリ、とローエンが笑みを浮かべた。うぅ、その顔で笑うとちょっと吐きそう。
「まぁ、そう言うだろうと思ってな、今回は戦争には参加しねぇがお前さんを手伝ってやることにしたんだ」
「……え?」
「俺の名は殻割りのローエン。そう、固定される空掴みの殻、割り砕く術を教えてやろうってやって来たのさ」
「あの空掴み、攻略可能なの?」
「まぁ、見てなって。シミュレーションとやら使わせて貰うぜ」
それは良いけど……今丁度坂上戦だからまだ止めた方が……
「ぎゃあぁぁぁぁぁっ!?」
あ、死んだ。
アーボが受ける暇もなく、参加と同時に高速指弾で爆ぜ消えた。
「アレに、習うアルか?」
「アレに教えてもらいなさい」
「正直、不安しかないな」
真顔で告げる私に真顔で答えるコルトエア。ついでにリクゥーが呆れた顔になっていた。
「くぅ、酷い目にあった……」
気持ちボロボロになったローエンが戻って来る。
今まで外から眺めなかったから分からなかったけど、戦闘が終わるとこっちに戻ってくるのか。専用フィールドから弾かれるシステムのようだ。
「アレが一旦終わるまでは休憩だな」
「一撃必殺なら一応あるアル。でも射程少ないし、基本中の基本アルよ」
「あら、そういうのあるんだ? 強いの?」
「まともに当てられれば。私もこの技に憧れ抱いて拳法始めたようなものだし」
「へぇ、ちょっとあたしとやってみる? その一撃、受けてやるよ?」
「駄目ネ。シミュレーションの時コルトエアさんに放ったら一撃で死んだアル」
「死ッ!? え? あたし敵として出てくんの!」
見学しに来たのはコルトエアさんが散った後だったらしい。あの戦い見てないアルか。
にしても、ここからでも目の前に出てるスクリーンっぽい画面でシミュレーション戦闘見る事が出来るのはいいね。皆の動きを客観的に見れるし、敵の動きも見れるから対応策を考えやすい。
「しかし、コルトエア殺せる一撃と聞くとどんなものか知りたくなるなぁ。どういう一撃?」
「ソレは始まりの技にして終わりの技。一撃必殺、二之打不要。基礎にして全ての集大成。崩拳アル」
殆ど初めに習う拳法であり、シンプルだけど、本当にこの技は一撃必殺足り得るのだ。
震脚で踏みしめ、丹田に力を込めて、全ての力を集めて放つ。まさに至上の一撃。
一歩踏み込み、拳を放つ。ただそれだけの技であり、それこそが一撃必殺。
ゆえに避けるにたやすく、受ければ死ぬのみ。
「崩拳って、あれだろ? パオがたまに使ってる飛び込みパンチ」
「そこまで威力があるように見えないけど?」
「次の闘いで見せるアル。コルトエアを瞬殺してやるネ」
「うをぃっ」
コルトエア相手にコルトエア瞬殺宣言。実際当たれば瞬殺なので問題無いアル。




