ヘンドリック、闘いへの布石
さて、ゾクゾク集まって来るメンバーの名簿票を見つめながら、俺は椅子に深く腰掛ける。
カラザン皇国にて、ギルドから提示された屋敷を借り受け、ウサギ対策本部を立ててしばらく。
まさかの大盛況に嬉しい悲鳴が上がっていた。
まさかここまで多くの味方が集まるとは思わなかった。
ついでに役立たず共も勝手に付いて来てしまったが、メイド業と執事業は出来るようなので、皆の小間使いをやらせている。
手慣れたものだからお金さえ出せば文句は言わないようだ。
予想外の人物もやって来てくれた。
とくにクラスメイトからセレスティ―アが連れて来たジョージの能力は最高だ。
何しろ無限に拳銃を作りだせる能力だから皆に武器が行き渡った。
さらに想定外の人物は郁乃だろう。
何か恐ろしいことにでもあったのか、雰囲気が様変わりしていたモノの、戦闘能力は格段に上がっており、さらに後からやってきた自称なんとかの勇者四人組を一人で撃破し、一人は惨殺、残りは下僕にしてしまった。
幸運の勇者とやらが、自分幸運なのになぜ? とか不思議そうにしてたけど、彼女が一番郁乃の傍にいるのが似合っていたのは言わない方が良いのだろう。
なんやかんやいいながらよく後ろを付いていってるのを見かける。
他の二人は不承不承と言ったところだし、ピスカさんに異常な怯えを持ってるけど。
S級冒険者はかなりこちらに来てくれた。
これもウサギへの敵愾心が大きいせいだろう。
コロアのギルド長がギルドは全てウサギの敵だ宣言したのが一番かもしれない。
御蔭で冒険者達もゾクゾクこちらに集まってきている。
そう言えばカラザン皇国にいたエペさんの知り合いってのもウサギ討伐に名乗りあげてたな。
エペを助けるんだ。とか言ってたけど、多分もう彼女は味方にならないと思う。
それと、守護者なんだけど、これもウサギが怨敵だという狒狒爺とかいう人が音頭を取ってこちら側に引き込めた。
魔族に付いても今、郁乃から連絡が来て、魔王の協力を取りつけたのでそのまま魔族も協力させるのだとか。
あいつ、魔王と坂上纏めて見付けて仲間に誘ったそうだ。幸運の勇者仕事しすぎじゃないか?
気のせいじゃない。
流れが来てる。
ウサギの元に残ったクラスメイトこそ多いものの、総メンバー数を見てみれば、実力者は軒並みこちらに引き込んでいる。
後の問題はやはりピスカさんだな。
アレをどうにかしない限りウサギ攻略はありえない。
現状では魔王と坂上のタッグで封殺するべきかと思うのだが、それでなんとかなるのかどうか。
できるならさらに同じくらい強力な存在を一人勧誘しておきたいところだ。
誰かいい存在はいないだろうか?
さすがにそう都合よく使える存在なんて現れる訳ないか。
「おい、総大将!」
「ん? ノックくらいしてくれよ、えーっと、幸運の勇者だっけ?」
「ああ、悪い。でも、有能な奴見付けて来たぞ」
有能な奴?
「なんじゃなんじゃ。祭りがあると聞いたから我が最高傑作連れて来てやったというのに、出迎えの言葉がないぞ総大将」
「あんたは……?」
それはチョコミントのような老人だった。
幾分か、こちらの方が顔つきが悪役面だ。
まさに悪の秘密結社でドクターをしてそうな顔つき。
「儂はなたでここじゃ」
うん、なんとなく理解してた。
こいつはチョコミントたちと同じドクターだ。
と、言うことは……
「こちらが儂が生涯を掛けて作り上げた、対チョコミント製最終兵器用最終兵器QSK181。通称キュスカじゃ」
メイド服の赤い髪の少女がふかぶかと礼をする。
なんという幸運か。こいつは、あのピスカを封殺する最高の存在じゃないか?
「インセクトワールドとかいう秘密結社の人だろ? いいのか? 向こうにはチョコミントさんとぱんなこったさんとやらがいるんだけど?」
「むしろゆえにこそ、じゃ。儂はチョコミントをライバル視しとってな。奴らがピスカを作りおったから対抗するために人型人形に手をだしたんじゃ。ようやく出来あがったでな。貴様等は運が良いぞ。あのピスカを殺す者が味方に付いたんじゃからな」
強いかどうかイマイチ不安だが、確かに人型メイドはかなり強そうだ。
単体では無理かもしれないが魔王たちと組めばあるいは……
ふむ、ピスカがなんとかなるなら、後はアーボか。でもあいつは魔王より弱かったしな。
キュスカさんがピスカを相手取れるなら魔王か坂上にアーボ倒して貰って、その後にキュスカさんの護衛に入ってピスカを撃破。そのままウサギを殺す闘いに参加してもらうか。
これなら俺たちへの注意も減らせるんじゃないか。向こうはピスカへの対抗策が魔王たちだけ。だろうと思ってるだろうし。
そうだったらいいな。相手の想定外の手で一気に気勢を挫く。
それこそジョゼさんが得意と……なんか、不安だな。アレがもしウサギ側に付いた場合、ウサギに気付かせず俺たちへの対抗策を用意しかねない。
一応彼女もウサギへの恨みがあると思いたいが、念には念を入れるとするか。




