孝明、運命の選択27
「ようやく見付けたわ」
俺がカラザン皇国の街を散策していると、突然空から二人の女が降ってきた。
いや、意味がわからんって言われるかもしれないが、ホントなんだ。
バーニア噴かせて降りて来たのは人型兵器のピスカさんと、ジョゼ……お前なんでこっちにピスカさん連れて来たんだよ!?
「丁度いい具合に貴方だけね福田君」
「お、おぅ。そうだけど……」
「ジョージは?」
「今日もセレスティ―アさんと一緒だよ。なんか悪女にのめり込む青少年みたいに金魚の糞になってる」
そうなのだ。ジョージの奴、何処に行くにもセレスティ―アさんに付いて回るようになっちまった。
正直、なんかアレ見てたら一緒に居るのマズいんじゃないかって思えるようになっちまった。
セレスティ―アさんを襲えるのはウサギを倒した後だからそれまで触れることすらできないのに、まるで恋する乙女のようだった。
俺は処女厨なのでセレスティ―アさんにトキメキとかは覚えないけどな。やっぱり初めての女性は相手も恋愛経験初めてがいいに決まってんだろ。
ジョージはその辺気にしないみたいだけどな。
「やっぱり、ジョージよりも貴方の方がよさそうね」
俺の方がいい? 悪女を避けたら別の悪女がやって来やがった。俺を利用するつもりか?
「ふふ、貴方に選択肢をあげるわ。このまま私に遭わなかったと踵を返すのもいいし、私のお願いを聞いてくれるのもいい。全て貴方次第よ」
自己責任で選べってか? ほぼ強制的に逃げ道塞ぐ癖に、正気かコイツ?
「何を、やらせる気だ?」
「これを身体に身に付けるだけよ。お願いしたいことはそれだけ、詳細聞いてもいいけど、そうなると完全な裏切り者になるわよね?」
「……」
逃げ道を塞いでない?
何故だ? 普通は願い事を聞いてくれるように俺が逃げられない状況に追い込むと思ったのに。
「付けるかどうかは貴方次第。捨ててもいいし、身に付けてもいい。もしも身に付けてくれるなら……」
「くれるなら?」
「ウサギに女性を口説くテクニックを教えさせてもいいわ。念話で会話くらい出来るでしょ」
「……あいつのってスキルで無理矢理襲う感じだし、あんまし参考にならない気が……」
「そう、残念ね」
そう言いつつも、俺に小さなボタンを押しつけて来るジョゼ。
俺の手にボタンを置く際に手が持たれたことで、ドキッとする。
クソ、悪女の癖になんて細くてやわらかくて暖かい手してやがる。
「じゃあ、またいつか」
「え? おい!?」
こっちの返答聞かずに行きやがった。
クソ。なんなんだよ。
俺はヘンドリック側に付いたんだぞ?
空を見上げるが、既に用事の済んだジョゼとピスカは俺のことなどどうでもいいと放置し、ラビット・ネストへと帰って行った。
残ったのは手の中に確かに感触のある小さなボタン。
押し込み式とかのボタンじゃなくて、服に付けるタイプのボタンだ。
これは二つ穴だな。
多分、これが発信機とか話声が聞こえるとかの秘密道具なんだと思う。つまり、俺にヘンドリック側のスパイになれっつーことだ。
ふざけんな。なんで俺がお前に使われてやらなきゃならねぇんだよ。
……ったく、俺はただ、彼女が欲しいだけだっつの。戦争とかホントは……本当は、したくねぇんだ。
なんで俺、こんな所いるんだろ……
―― あーあー。こちらラビット1、こちらラビット1。返答を願う ――
「マジでウサギから返信来たし」
―― 話は聞いた。協力感謝する。まぁ冗談だが。女性の口説き方教えりゃいいんだっけ。真面目に ――
「真面目にって……」
そこから、ウサギによる自称真面目なお話が始まった。
とりあえず、理想は捨てろ。女であれば全て愛しい存在と思え、例え相手が不細工であろうとチャンスは逃すな。
そんなことを言われたんだが、俺、最初はやっぱ……ええい、分かったとりあえず次に出会った女性にアタックしてみるよ。それでいいだろ。
「きゃっ!?」
「え? おわ、大丈夫か?」
ウサギに話すために虚空を見ていたのが悪かった。
ぶつかってしまった女性に慌てて手を差し伸べる。
―― よし、なんかよくわからんが女の子の声聞こえたぞ。ここから俺の言うとおりに台詞を告げろ。まずは女性の手を有無を言わさず掴み上げて地面から立たせる。そして怪我はないかい? と言いながら相手の目を見つめ続けろ ――
咄嗟に言われるままに動いてしまった。
相手を立ち上がらせ、怪我はない? と心配しながら告げる。
「あ……はい」
あれ? ちょ、待って。これ、マズい。マズいって磁石寺。留まろう、この娘は駄目だって!
―― 彼女が欲しいんじゃろがい。まずは経験を積め、最初の相手はステップ台と思え。相手には悪いかもしれんがモテるためなら悪魔に魂売りやがれ! 俺は自称神とか宣うクソジジイに売り渡したったわ! 次ッ、相手が困惑した顔になったら、すまない、貴女があまりにも綺麗だったから見惚れてしまいました。と言え! ――
いや、だからマズいんだって。
この娘は……あ。困惑しだした。どうしよう?
「あ、あのぉ……」
「あ、いや、ごめん、君があまりにも可愛かったので。その、見惚れてしまって」
「え? えぇ!? あ、あのでも私……」
「わ、分かってる、分かってるんだ。許されない恋だってことくらいは。その、ごめん」
「いえ、そのでも、わ、私でよければ……」
……へ? え? いいの? 俺? え? マジ!?
「でもいいんですか? 私……5歳ですけど」
事案だった――――




