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桃瀬、神に会う

「ふぅ……」


 私は思わず何度目かになる溜息を吐いた。

 まさか異世界転移なんてものを体験することになるとは思わなかった。

 折角好きな人が出来るかなって思ってたのに、告白をOKした途端に殺されて、あの人の死に様が未だにチラついて離れない。


 もう少し、別の場所で告白をOKしていれば、あるいは私からもっと早くに告げてれば未来は変わったのだろうか? あの人もこの世界に転移して、二人で一緒に苦労しながら魔王を打ち倒したりできたのだろうか?

 残念ながら、もう彼はいないのだ。


 私達は異世界転移し、よくわからない王城に連れて来られたらしい。

 瀬尾君がゲームみたいな展開だ。と告げて、私達にいろいろ説明してくれた。

 なんでも小説などで異世界転移というジャンルがあるらしく、今の私達の状況がそれに酷似しているそうだ。


 王道系では王様が魔王討伐をお願いして来て、勇者たちが力を合わせて魔王を打ち倒すストーリー。でも最近は王様が悪者だったり、相手が魔王ではなく敵対中の王国だったりとかいろいろとパターンがあるそうだ。


 最悪パターンではないとは言われたけど、そういうバッドエンド系の話を聞かされると不安になってしまう。

 御蔭で女性陣は結構怯えてしまっている。

 まぁ、このクラスには兎月ちゃんがいるから安心はできるんだろうけど。


 隷属アイテム。なんてものもあるかもしれないから、腕輪や首輪を貰ったら絶対に着けてはならないそうだ。

 そういう理由があったらしく、瀬尾君が率先して王様と交渉し、一先ず皆を落ち付かせるために一日。明日全員で話し合いを行ってから国王に返答するという流れで決まった。


 なので今日は王城の客室に数人ずつで押し込められ夜を過ごすことになったのだ。

 私の相部屋になっているのは、九重さんと天竺さんとイルラさんだ。

 九重西瓜は昨日まで引き籠りになっていたけれど、教室の空気を変えるためにと先生が必死に連れて来た女生徒である。

 西瓜という名前のせいでイジメを受けていたせいか、今も表情が暗く、誰とも関わらないよう簡素なベッドの上で三角座りしている。


 天竺郁乃はサイドポニーテールの女生徒だ。八重歯を煌めかせながらイルラの近くをちょこちょこ動きまわる郁乃は、よく子供扱いされるのだが、本人は頭を撫でられたりするのが嫌らしい。

 真壁君などからがっしがし頭を撫でられるとや~め~て~っ。と涙目で助けを求めているのが良く見られる。

 背が低いから丁度頭を撫でやすいんだそうだ。


 そんな郁乃はインドからの留学生であるイルラと仲が良く、時々座禅を組んで瞑想していたり、ヨガを二人で行っていたりする。

 真ん中分けの前髪は長く、後のストレートヘアとの区別が付かなくなっているイルラ。肌は浅黒く額の真中に赤い点が付いている。

 私はよくわからないけど化粧かなにかなのだろう。


 カレーが好きらしいのだけど、日本のカレーではなくキーマカレーなどを好んで食べている。インドのカレーと日本のカレーはだいぶ違うと前に熱く語っていた。

 ちなみに郁乃はカレーよりハンバーグ派らしい。


 イルラはこの部屋に来て早々に瞑想を始めており、暇になった郁乃もまた隣のベッドで真似するように瞑想し始めている。

 話し相手もいないので、私もベッドにもぐり込むと早々に目を閉じた。

 風呂は無いそうで入れないらしいので、夕食終わった後はもう寝るしかないのだ。


 私は静かに目を閉じる。

 きっと私はここで死ぬんだろう。

 もう生きる意味も分からない私では魔王討伐とか言われてもどうしようもない。

 どこかの魔物に喰い殺される未来くらいしかないんだろう。ああ、でも、できれば、ゴブリンとかオークには捕まりたくないなぁ。

 瀬尾君に便乗した夜霧さんが怖いこと言ってたから余計不安が強くなったんだよ。

 曰く、オークなどに掴まったら彼らの子を産むための道具にされるから気を付けて。だそうだ。冗談じゃない。


 取りとめのないことを思い浮かべながら徐々に意識を拡散させていく。

 おやすみ私。また、明日。

 明日は良い日で、ありますように……


 ……

 …………

 ………………


 ……あれ?

 なんだろう? 意識が拡散しない?


「ふぉっふぉ。ようやく繋がったわい」


 え? 誰?

 突然しわがれたお爺さんのような声が聞こえて思わず目を開く。

 しかし、目を開いたのに世界は黒で彩られていた。

 目の前に何かが居るのが分かるが、何が居るのかは認識出来ない。


「だ、誰?」


 声を出したつもりだったが声にならなかった。

 しかし、相手には伝わったらしい。


「儂か、儂はこの世界ヘリザレクシアの神じゃ」


 かみ? 髪? いえ、神!?


「ふぉっふぉ。そなたに話しかけたのは他でもない。前に儂が自分の世界に引き上げた魂の知り合いだったからじゃ」


 ……えっと? よくわからなかったが、私の知り合いをこの世界に引き抜いたらしい。


「知り合いの中でもそやつとの繋がりが一番強かったのでな。しかし、告白した次の瞬間死ぬとはツイとらん男じゃよなぁ」


 それ、もしかしてっ。磁石寺君!?


「生前の名前は忘れたがの、今はウサギに転生しとる」


 ウサ……ギ?


「お主が生き延びておればその内会うかもしれんのぅ」


 磁石寺君と、会える? もう一度、あの人と会える!?

 それは、私にとって光明だった。


「我が世界の者が勝手に呼び出しスマンの。起きたらステータス確認をしておくがいい、儂からプレゼントのスキルを全員に一つづつ送っておいたわい。ああ、お嬢ちゃんだけは二つ送っておいたぞい。皆には内緒じゃ」


 磁石寺君と、会える。もう一度。だったら、こんなところで死を追い求める意味なんて、ないっ。

 私は強く決意する。

 いつの間にか神様とやらの声が聞こえなくなっていた。

 意識も少しずつ薄れて消えていく。ああ、明日がもう待ち遠しい……

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