勇者、異世界に立つ
「はぁ……」
女生徒は溜息を吐いた。
そこは喧騒渦巻くとある教室。
学校は本日も普通に授業を行っていた。
その日はとある生徒が死亡してから数日のこと。寂しくなった教室をなんとかしようと先生が奮起。引き籠りになっていた女生徒を無理矢理ひっぱって来たり、無理矢理ハイテンションでなんとかしようと躍起になっていた。
御蔭で新人先生は早々クラスから浮いていたのだが、彼女が頑張り屋なためかウザいながらも頑張れーと心の中でエールを送る者が多かった。
ただ、先程溜息を吐いた高藤桃瀬だけは気分を変える気にはならなかったのだが。
「ももちゃん、今日も辛そうだねー」
「郁乃、桃瀬聞イテナイ」
「あれれ? イルちゃんイルちゃん、ももちゃんがお話聞いてくれてないよ!?」
郁乃と呼ばれた女生徒はイルちゃんと呼んだ生徒に泣きそうな顔を向ける。
「磁石寺死ンダ。マダ辛イカ?」
インドから来た留学生、イルラは心配そうに桃瀬の顔を覗き込む。
溜息が洩れた。しかし反応と言えばそれだけである。
「だみだこりゃ~」
「辛イ時座禅組ム。サトリ開ク、気分爽快!」
「それイルちゃんと私だけだよ~」
あっはっは~と二人して笑い、しかし桃瀬から反応がないことに気付いて押し黙る。
「イルちゃん、ずーっとこのままは可哀想だよぉ」
「雲浦ガ悪イ」
そう言って視線をもう一人気分が暗くなっている女生徒に向ける。
雲浦兎月もまた磁石寺の死でショックを受けた一人であった。
自分は悪いことはしていない筈だ。
なのに桃瀬はアレから元気を無くし、兎月ばかりか他人と会話しようとすらしていない。
河井稲葉もあの事件後、坂上博樹とは会話すらしなくなったし、中浦沙希は精神に異常をきたして授業中も休憩中も一人きりでブツブツ呟いている。
殺人を犯した筈なのだが、その死んだ筈の人間が爆散してしまい証拠が全て消えてしまったため警察に捕まらなかったのだ。
博樹も二人とは距離を置き、できるだけ関わり合いならないようにしているためクラス中の空気が悪くなっている。
「天竺、桃はどうアルかー」
「るいちゃんも心配してくれてるよー桃ちゃん。皆が心配してるよ、ねーろあちゃん」
「我は心配などしておらん」
「ちょっとぉ、もぅ、そこは嘘でも心配だっていうべきでしょー」
「ふん。だが同士桃瀬よ我が左目が疼いている。きっと思い人はどこぞに転生しお前と出会うことを待っていると思うぞ」
「え?」
「うわっ!? ももちゃん反応早っ」
ロアの言葉に顔を上げた桃瀬に郁乃が驚く。
「う。うむ。我も輪廻転生を何度も繰り返した身。おそらく磁石寺も新たな生を受け汝との逢瀬を待ち望んでいよう」
「輪廻……転生」
「ってコラ。そこの廚二病デタラメ吹き込んじゃダメアル」
「なっ。廚二病ではないっ。我は本当に三千世界を転生し続け現代へと蘇りし邪眼の申し子、深焉寺絨架という真名が! はっ!? 真名を告げてはならんのだった。いかん、忘れよっ。真名を奪われればその者に操られてしまうっ」
「お馬鹿ネ。日本人変な人多いアル」
「いや、お前に言われたくないからな戒涙亞」
「アイヤーっ! これはワタシが日本語習った時の先生が悪かったアルッ。ワタシも日本語ってなんか変だなーって思ったアルよ? でも先生日本人だったし、中国人ならこの喋りだろって教えられたからもはや抜けないアル!」
「何年前の日本が考えた中国人よーって感じよね。でもま、この教室外人多いからそこまで違和感ないよー。ね、イルちゃん」
しかし、振り向いた先でイルラは座禅を組んでいた。手はお釈迦様を真似るように親指と中指で円を作るお姿。
なぜか無駄に神々しく見える。
「はわわ。イルちゃんが、イルちゃんがサトリを開いてるっ!?」
「ぬぅっ。やるなイルラ。自分の小宇宙を展開するか! くっ、負けてられん。今こそ我が封印されし左腕の邪炎龍を……」
そんな楽しげな女性陣を見ながら福田孝明は溜息を吐く。
「はぁー。ウチの女性陣はなんであんなキワモノばっかなんだ」
「ハハ。楽しくていいじゃないか。僕は好きだけどね。ジャパニーズガールは若々しくていい」
「ヘンドリックは分かってねぇ。女は胸だろ、胸。若さなんぞ二の次よ。見ろ、あの高藤さんのデカパイを。あー、もうあの胸揉みしだけられるなら死んでもいい」
「オゥ、デッドエンドはソーリーデース。でもミーもヘンリーと同じだね。ジャパニーズガール可愛いよ」
「はいはい。ってジョージはモテ無い同盟だろうが」
「HAHAHA。ワレアゴ嫌い、言われました。ジョージのジョーが嫌われてマース」
アメリカンジョークで高笑いするワレアゴのジョージに辟易する孝明。彼が溜息を吐いていると、教室の扉が開かれ先生がやってくる。
「はい皆さん、ホームルームを始めま……」
次の瞬間、教室の中心に光が現れた。
気付いた兎月が反応するより早く、光は教室を包み込むように膨張する。
そして……光が収まる教室にはもう誰の姿も、存在していなかった。
……
…………
………………
「おお、ついに来た!」
「へ?」
ふと気付けば、クラスメイトたちは見知らぬ場所に立っていた。
石造りの豪奢な一室。
そこにローブで全身を隠した者の群れ。
一人だけ、まるで自分が王様だとでも言うような豪奢な衣装を身に付けた男が兎月たちの前に居た。第一声も彼が発したものだった。
「なんだここ?」
「落ち付くがいい。初めましてと言っておこう異世界の勇者たちよ。我が名はウィリアム・ロスタリス。このロスタリス王国の国王だ」
「は? 国王?」
「我らが国に仇成す魔王を、そなたらの力で討ち取ってくれ」
「はぁ!?」
ウサギさんがドルアグスの森で生存競争を行っている時、クラスメイト達は異世界に召喚されていたのであった。
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クラスメイト
赤穂 楓夏
運動部の少女。走ることが好きで真壁をライバル視している幼馴染。
イルラ
インドからの留学生。とある理由で姓は教えてくれない。
戒 涙亞
外国人。出身国は中国。日本語を教わった先生が変人だったせいで口調がおかしい。
河井 稲葉
絶世の美貌を手に入れた少女。顔の好みで坂上と付き合ったが浮気されて喧嘩中。気は強い。
木下 麗佳
お嬢様タイプの少女。ジョセフィーヌに対抗するため金髪に染めている。
雲浦 兎月
正義の味方クラウド・バニー。ウサミミを生やした兎獣人でスパッツを穿いている。
九重 西瓜
変な名前を付けられたせいでイジメの対象になっていた少女。引き籠りだったのだが先生に無理矢理連れて来られた。
桜坂 美与
大きな胸を持つ百合が少し入った女性。背は高く180もあり、柔らかな物腰で母性が強い。夜霧に首ったけ。
ジョセフィーヌ・ラングウッド
イギリスから来た外国人留学生。
高藤 桃瀬
太眉の可愛らしい少女。少しおっとりとした彼女は、主人公に告白されてOKを出した直後に死に別れた。
天竺 郁乃
イルラと仲の良い少女。二人でインドに付いて話したり悟りを開いたりしているらしい。
戸塚 葉桐
気の強いツンデレ少女。刈り上げの髪はワ○メちゃんカットだとよくバカにされている。
中浦 沙希
ヤンデレ少女。普段は快活なのだが、独占欲が強い。今は殺人を犯したことで精神を病んでいる。
二階堂 ロア(にかいどう ろあ)廚二ネーム深焉寺絨架
廚二病を発症してしまった少女。家も家なので学校にまでゴスロリで通っている。
元道 真廣
剣道一筋のスポーツ少女。切りそろえたストレートはまさに大和撫子。
夜霧 天音
ミステリアスな小型少女。華奢な身体と120センチの身長は桜坂の好みに直撃。なぜか兎のぬいぐるみを持たされて今日も彼女の膝に座る。
ルルジョパ
ブラジルからの留学生。ドレッドヘアの陽気な少女。
相田 勇作
チャラ男。坂上と良くつるんでいる不良。
上田 幸次
マルコメで人懐っこい野球部員。基本温厚の太眉君。
鏡音 孝作
高藤が好きで言い寄っている青年。いろいろと画策しているが失敗続き。
坂上 博樹
クラスの問題児。顔だけは良いのでモテる。クラスメイトの河井と付き合っていたが、中浦とも付き合っていたことがバレて修羅場に。
磁石寺 啓太
主人公。坂上の痴情の縺れに巻き込まれて死亡。高藤と付き合う直前だった。
ジョージ=W=ロビンソン
アメリカンなワレアゴ、長睫毛の男。銃の扱いが上手い。
瀬尾 祷
華奢で可愛らしい目隠れ系男子。むしろ少女にしか見えない。神様を信じる狂信者。
田代 康弘
太ったブサイク。坂上に虐められているが、気が弱いせいでされるがまま。
中井出 勧
メガネの学級委員長。規律に厳しいクラスの常識人。
福田 孝明
モブ。普通のおっぱい星人。
ヘンドリック・ワイズマン
サラサラヘアーの外国人。英国貴族にしか見えない美少年。
真壁 莱人
運動部のエース。走ることしか興味がない。
先生
東雲 咲耶
最近このクラスに配属された新人教師。やる気に満ち溢れていたのだが空回り気味。




