麗佳、運命の選択2
「さすがに、空飛ぶ城への対策は無かったのぅ」
移動を開始した天空城を追っていた私とライゼンさんは、侵入する術がなかったせいでただただ少し後ろを付いて行くことしか出来ていなかった。
追い付くのは簡単だったんだけど侵入の術が……いや、まぁ、ジャンプすれば多分届くんだろうけど。あの高さまでジャンプして無事に着地出来るか不安なのでやってないだけである。
ライゼンさん曰く。どうせその内どこかに接地するじゃろ。
とのことで、私も慌てることなくライゼンさんの隣を歩く。
固有スキルが進化したおかげでパーティー単位で速度を増加出来るようになった御蔭で自分自身の速度もあげることができるようになった。
ライゼンさんの隣を走ることも普通に出来るのが嬉しい。
「ところでライゼンさん」
「なんじゃ?」
「その、再婚の件……どうしても駄目ですか」
「ぶふぉっ!?」
ライゼンさんがこけそうになって慌てて立ち止まる。
私を振り返って困った顔で告げて来た。
「言うたじゃろ、儂みたいな老い先短い老人と結婚なんぞ考えず未来あるいい男が沢山おるじゃろ。そいつと結婚しなさい。若いんじゃからこんな老人に付き合うことはないと言うたじゃろ」
「私が考えて決めたんです。私はライゼンさんと結婚したいです。というか、子供をくださいっ」
「ほぁっ!? ちょ、お、おおお、落ち付きなさいっ。い、今はじゃな、その、ウサギを追って、ほ、ほれ、どうやら着地のようじゃぞ!」
城が徐々に高度をさげている。確かにこれから着地するようだ。
私達は会話を一旦止めて、城へと近づく。
城から一人の男が降り、何もない荒野へと足を踏み出した。
あれは……ヘンドリック君?
「むぅ、ウサギが出てきおった。ふむ、麗佳よ、速度は一旦切って、聴覚を上げてくれ」
ステータスブーストで感覚を上げて行く。
すると、ヘンドリック君とウサギの会話が聞こえて来た。
それによると、どうやらヘンドリック君の彼女であった先生がウサギに寝取られたようだ。
やはりか。とライゼンさんが呟いていたあたり、ライゼンさんも予測済みのことだったようだ。
そして、ヘンドリック君が敵対宣言をした。
それだけじゃない。私達を巻き込んで戦争を行うと言ってのけたのだ。
迷惑? 否、ライゼンさんも喜びに満ち溢れた顔をしている。
なんだか数十年くらい若返ったかのような好戦的な笑みに、思わず心臓が跳ね上がる。
ああ、ヤバい。
老人なのに、ライゼンさんカッコイイ。
なんなのよこの胸のドキドキ。横顔見るだけでなんかもう、好きッ。
「麗佳、折角お膳立てしてくれるのだ。儂はヘンドリック君の戦争に参加する。ウサギも逃げずに闘うみたいだしのぅ」
はぁぁ、ヤバい。なんでそんなワクワクキラキラした少年の目になるの!?
ライゼンさん可愛い。やっぱ好き。
結婚したい。っていうかしよう。
相手の反応待ちだと絶対に結婚できそうにないから、リアちゃん戦法で行くしかない。
「ヘンドリック君、こっちだ」
「あれ? ライゼンさん? ああ、そっか。もう追い付いてたのか」
「うむ。先程の話、ここで聞かせて貰った」
「えっと、どうですかね? どうせならあいつが逃げようも無い状況で、と思って提案しただけの見切り発車なんですけど? ピスカさん対策とかもしてないし」
「いや、むしろ好都合じゃろう。ギルドで儂も賛同者を呼び掛けてみよう。それとうさしゃん対策本部のようなモノを作って皆が集まる場所を作っておいた方が良い」
「そうですね。俺も今回は本気でウサギ討伐を行うつもりですし、徹底的に潜在的なウサギの敵をあらゆる方面から集めたいと思います」
「うむ。儂も方々手を尽くす。いや、儂も初めからこうすればよかったのぅ」
ヘンドリックとライゼンさんが手を組んだ。
ああ、絵になるなぁ。
ライゼンさんめっちゃ好き。うん。今日の夜襲おう。既成事実だ。既成事実作っちゃえば結婚確定よ!
「ところで、木下さんはなんで無反応なの?」
「うむ? 麗佳?」
「はぅっ!? じゅるり。おっと、えっと、あの、何か?」
「「……いや、なんでもない」」
あ、あれ? 私何か変なことした?
なんでそんな残念な子をみるような目で見るの二人とも?
「今日はどうしましょう? とりあえず宣戦布告することしか考えてなくて、ここってどこです?」
「ふむ。カラザン皇国が近いの。一先ずそちらに向かうかの」
「そうですね、ならついでにカラザン皇国をしばらく拠点にしてみますか。ウサギもあまり来ない場所ですし。着いたら宿を取って一日休みましょうか。部屋割りは男女でいいですか?」
「うむ、そ……「ライゼンさんと私の二人部屋! ……じゃぁなくて一人一部屋にしましょう」」
思わず本音が漏れてしまった。
ヘンドリック君がえ? 嘘だろ? みたいな顔してるけど、何よ、文句ある?
好きになったんだから仕方ないじゃない。




