ジョゼ、天秤に掛ける
ヤバい、ヤバいヤバいヤバいとにかくヤバい。
何がヤバいって、ウサギと一緒に帰ってきた自称人型機械のバケモノだ。
私はウサギ相手に闘って負けた。ウサギ程度に負けたのだ。
それよりも強い人型機械など相手に出来るわけがない。
でも、そんな相手がウサギの護衛についてしまった。
話を聞くに、以前から護衛していたらしいのだが別の世界とやらに飛ばされていたそうだ。
まさかそんな別世界から自力でここに戻って来るとは想定外。
しかも実力はディアリオ並という。
ディアリオ。赤ん坊でありながら自分では想像すら出来ない神の領域の実力者だ。
そんな存在と同等の存在が目の前に居たのだ。
裏切りを画策していた私達四人の命運など死亡確定以外ありえないではないか。
駄目だ。
今裏切るのは無謀、愚か者のすることだ。
ならばどうするか?
今回は裏切る者たちを裏切るしかない。
自身が生き残るのはそれしか手がない。
ウサギがあまりにも隙を見せるならばともかく、否、ウサギだけでも成功率は50%を切っているのだ。そんな穴だらけの反逆に加え、ウサギの危機を察知すればピスカがやって来る。
ほぼ確実に、ウサギを殺すより速く自分たちがこの世から消える。
転生することもあり得るだろう。だが、私は否と答える、今の自分の身体が気に入っているのだ。そりゃあ、自分の実力で全てをセッティングしての反逆で失敗したのであれば諦めも付くが、今回はヘンドリックの付き添いみたいなものだ。
冗談ではない、このまま泥船に乗り込むのは愚策だ。
早々に判断を終えた私はピスカの元へと向かう。
ウサギは本日高藤と二人きりらしいのでウサギに伝えるよりもピスカに伝えた方がいい。
今はまだ、従順なフリをするべきだ。
「ピスカさん、少しいいかしら?」
ピスカの部屋に向かう。というよりはピスカの居る部屋へと向かう。
丁度メンテナンス中だそうで、チョコミントとレウィ? ぱんなこったと呼んだ方がいいんだったか? その二人があーでもないこーでもないと言い合いしながらピスカの武装を確認している所だった。
「この状態でもいいでありますか?」
「ええ。隠すようなことではないから。いえ、むしろ隠されていたこと、でしょうか?」
「ふむ、話を聞きましょう、であります」
「チョコミントさん、これは何です?」
「サブのランチャーじゃな。四連の筈じゃが八連に増えとる……」
あら、ユーリンデさんもいらっしゃったのですか。まぁ、いいか。
「実は今、城内でご主人様への反逆を画策している者たちが居らっしゃいまして」
「ほぅ、貴女のご主人様といえば私のご主人様と同じでありますな。どなたかもわかるでありますか?」
「ええ、ヘンドリック君と中浦さん、それとセレスティーアさんね。一応私も誘われたので内容を知るために参加はしたのだけど、さすがにマズいと思いまして」
「それは、報告していただきありがたい限りであります、が……」
が?
「既に瓦解しているであります」
んん?
ユーリンデさんがあっち、と指差す。
そこには、こちらに手を振る苦笑いのセレスティ―アとぶぜんとした態度の中浦さん。
「えー、っともしかして?」
「はい、そこの御二方からも御報告頂いたであります。つまり貴女で三人目。残るはヘンドリックさんだけでありますね」
ああ、これは始まる前から失敗が確定してるのね。よかったわ、早々見切りをつけておいて。
でも、さすがにヘンドリックが可哀想ね。恋人寝取られた上に反逆は自分以外裏切りで失敗確定。後に残るのは反逆したという事実。軽くてもこの城には居られなくなるでしょうね。
「くっくっく、いや、見事な転身じゃのぅ」
「そういうてやるなチョコミント。ピスカの抑止力が強過ぎるんじゃ」
「御二方とも御ふざけが過ぎます。三人がむっとしてますよ」
「ふん。ピスカがおらなんだらM・Cに反旗を翻すつもりだったのじゃろうが。断罪されんだけマシじゃ。まぁ、悪人である儂らとしては裏切りなんぞ日常茶飯事じゃったがのぅ」
「うむ。懐かしいのぅ。N・Fの奴が裏切った時は全滅するかと思ったわい」
「あー、あったのぅ、脳を食べるアメーバ男じゃろ。地獄の細胞が戻ってきたから何とかなったんじゃったの」
「暗殺任務から帰って早々裏切り者の制裁じゃからぼやいとったが、あれは凄かった。アレだけ猛威を振るっとったN・Fが一刺しで全滅じゃからのぅ、ひょっひょっひょ」
よくわからないけど、どうやら見逃してくれるらしい。ここは乗った方が良さそうね。
「ではピスカさん、後の事頼んでもいいかしら? ヘンドリック君には寛大な処置をしてあげてね、恋人をウサギさんに寝取られて、仲間全員に裏切られた訳だし」
「了解、でありますよ」
全てを見透かしたような瞳で、ニヤリと笑みを浮かべるピスカ。背中をゾクリと何かが這った気がした。




