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ウサギさん、二人だけの夜

 夜、俺の部屋に桃瀬がやってきた。

 一応ここの主ってことで玉座の奥にあった王族用の部屋の一番大きな王の間を頂いたので、キングサイズベッドに誰か誘っちゃおう、と思っていたところだ。

 まさか桃瀬から来るとは思わなかった。


「や、磁石寺君、来ちゃった」


 てへっと悪戯っぽく笑う桃瀬は部屋を見回し、俺の居るベッドに近づいてくる。


「なんといえばいいのか、すっごい部屋だね」


 もともと古代の王様が使ってた部屋だからなー。チョコミントの作った機械たちが掃除してくれてた御蔭で綺麗なもんさ。


「ベッドも大きいし、これキングサイズベッド?」


 おう、ちなみにそっちの部屋にはキングサイズベッドが二つあるんだぜ。


「それって意味あるの?」


 さぁ? とりあえず俺の傍に居たいっていうピスカとサタニアーナの部屋にしようかと思ってる。今日は居ないけどな。


「なるほど」


 それで、こんな深夜に風呂上がりでここに来るってことは、分かってるのかね桃瀬さん。


「もぅ、ほんとエッチだね磁石寺君は。折角再会出来たのにえっちなことばっかり。今、二人きりに成れたんだよ、ようやく」


 あー、いやー、その、なんというか、面目ねぇ。


「ねぇ、磁石寺君はいろんなウサギに成れるんだよね?」


 おう、まだいくつか成ってないウサギもあるけど、魔王倒した経験値でどの種族にも成れると思うぞ。


「だったら、さ。ラビトニアン、だっけ? 兎の亜人、成れたり、する?」


 ……成れるよ。成れるけど、俺が転生したのは亜人じゃなく兎だから、成る気は……


「お願い。私と会う時だけでいいの、人型に、戻れない?」


 まぁ、成れないことは無いが。

 いや、折角想い人がソレが良いって言うんだし、この位の我儘くらい聞いておいても損は無いか。

 進化、開始。


 光が俺を包み込む。

 普通の兎への進化なら問題ないんだが、骨格が変わる進化だと進化中に骨が変わるから凄く痛いんだよ。そのせいで成りたくなかったんだけどな、それは俺が我慢すればいいだけだから、進化してほしいというなら進化することに問題は無い。


 ぐぅあ、痛ってぇ。さすがに兎の骨格から人の骨格に変わると成ると意識失ってからの方がよかったな。

 まぁいい。なんとか進化完了だ。

 種族ラビトニアン。

 兎でありながら二足歩行で人に近づき、人型大となった巨大ウサギ。

 さすがに毛だらけな兎顔のままだし、四肢も身体も毛むくじゃらだが、それでも、ラビトニアンになった俺を、桃瀬はぎゅっと抱きしめて来た。


「我儘言って、ごめんね」


「あー、その、まだ人に近づけられるけど……?」


 おお、声帯が出来たのか普通に喋れる。もう一段階ウサ耳人間に成れるみたいだ。多分その後は人か亜人種への進化になるんだろうな。


「いいよ。人型になってくれたってだけでいいの。兎じゃなくて、元の君に近い形の君がよかったから」


「桃瀬……?」


「ずっとね、ずっと、夢見てたの。君に告白された時から、ずっと、こうして、君と二人、いろんなお話しながら、二人で幸せだねって言い合える関係を。ずっと、ずっと思い描いてた。叶わない夢だって、何度も諦めそうになって、でも、でもこの世界に来た時、神様が教えてくれたの。この世界に、貴方が居るって。だから、ずっと、思い描いた。だからね、少しで、少しだけでいいの。お話、させて?」


 ずっと、待たせてたんだもんな。いいよ。俺の旅、何度かもう告げちまったけど、最初から話そうか?


「うん。私も、この世界に来てからの冒険、話すね?」


 ベッドに腰かける人型の兎と綺麗な少女。

 肩を寄せ合いぽつり、ぽつりと互いの冒険譚を語り出す。

 時に笑い、時に同情し、時に怒りに頬をふくらます。

 主に俺の浮気が原因だけどな。いや、浮気じゃないか。兎の身体になった時は人とは違うルールで生きてる訳だし。


「ねぇ、磁石寺君」


「ん?」


「正妻はね、ユーリンデさんに譲ることにしたよ」


「いいのか? 俺はその……」


 言い掛けた俺の唇を人差し指が止める。


「いいの。その代わり、ね。今の状態の磁石寺君は、私だけに見せて?」


 亜人状態の俺、ってことか?


「うん。他の人はウサギのままで、私の時だけ人型で。ふふ、私、結構独占欲強いみたい。磁石寺君が沢山の女性と関係持ってるの分かってるから、今更別れろって言ったら戦争になりそうだし。そこは仕方無いって許容するけどね、でも私だけの君が、欲しいんだ。……だめ?」


 ああ、畜生、やっぱり可愛いな桃瀬。


「わかったよ。桃瀬と二人きりの時だけ、人型でいる。それで、いいか?」


「うん。他の人に見せるのも駄目だからね。私だけの磁石寺君なのっ」


 ふふっと抱きついてくる桃瀬。悪戯っ子な笑みを浮かべられ、ちょっとドキッとした。

 そして、会話が止まる。

 潤んだ瞳で見上げて来る桃瀬。言葉にせずとも、分かってしまった。

 あの日から何年経っただろう? 死んじまった前世の俺よ。今、大切な彼女と、一つになるよ。


 桃瀬、俺は死んでからもまだ、君が好きだ……――――

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