ウサギさん、対決魔王
という訳でぇ、ボックスマジックッ!
ウサギさんが魔族領に飛ばされた瞬間見せられたのは、自分に向かって来る凶悪な魔弾であった。
当然今から逃げるのは不可能だと察してボックスマジックに全てを掛ける。
真っ直ぐに飛んで来るならこいつで吸収だ。
「なにっ!?」
「うはは、いきなり大ピンチじゃないかアトエルトっ、ってぐぼぁ!?」
あ。マイケルが直撃くらいよった。
「おー、アレが魔族? 空掴みで即攻撃ネ!」
「割りがいのありそうな奴だ」
「まずは味方の生存確認と回復だろうっ!? アトエルト、報告しろ!」
「は、はい。メンバー重傷者多数、死亡者はアトエルト数百体のみっ、相手は魔王一体!」
は? 魔王? M・A・O・U!?
なんでそんなもんと闘うことになってんの!?
バカなの? 死ぬの? 勇気と無謀吐き違えたんじゃないの?
うっわ、よく見たらあそこで倒れてるのライゼン爺ちゃんじゃん。爺ちゃんが手も足もでないって、魔王の強さは即座に理解できるな。
おっけ、最初からフルスロットルだ!
全員最大級の敵を想定してかかれ!
「わかった! 敵はうさしゃん級一体! 全員死を覚悟しろッ」
待てコルァ!? 誰が魔王じゃい!? あ、魔王だっけ? いや、俺はまだ魔王にはなってないはず。世界の敵にはなったけど。
「はは、あの絶望的な闘いがもっかいあるのかよ、出会いたくなかったぜ」
酷い言い草だなお前ら。後で覚えとけ。
―― 味方回収完了ー ――
―― 蜘蛛便利だなー。その糸使いたーい ――
ゲスターが魔法避けになってボルバーノスさんが糸で味方全員を寄せ集める。
すげぇ、ゲスターのやつあの連撃受けてまったく動じてねぇ!?
待てよ。あいつって物理攻撃無効なんだっけ?
土が吸収してダメージにならなんいだ。
ってことは、アレ、魔法じゃなくて物理スキルか!
あるいは魔法を物理属性で撃ちだすスキル持ちなのかもしれないな。
「ええい、唐突に出て来て我が城を荒らすのか!」
―― 魔王さんとやら、なんか人間のとこから姫さん攫ったらしーじゃん ――
「ほぅ、念話を使うか、矮小なウサギの分際で小生意気な」
魔王と言っても人型とは全然違うんだな。もう完全にグロ系魔王っていうか、SAN値チェック入りそうな容姿の魔王様だ。
しかも魔法と思しき物理攻撃を超高速で放ってくる。
これ、無理ゲーの魔王様か弾幕シューティングのボスキャラじゃないのかね?
ハイリキッドラビットに進化しておき、自身の身体を物理無効特性に変えておく。
これで万一アレが直撃しても死なないで済む……気がする。
「磁石寺……くん?」
背後から、声が聞こえた。
一瞬だけ、振り向く。
はらはらと涙を流し、これほど危険な戦場なのに、泣き笑う桃瀬の姿。
「やっと、会えた……やっとっ」
俺も、また会えるの楽しみにしてた。
ああ、もう、もっとちゃんとした再会したかったんだが、場所が場所だけにどうにもならない。
魔王も俺に意識を向けて攻撃して来てるし。
そろそろボックスマジックがどういうものか理解して別の攻撃方法に変えて来るはずだ。
ムキになって連弾数増やしてるから取りこぼしも出て来てるんだよな。さすがにこれ以上ここで桃瀬を庇い続けるのは無謀になるな。
桃瀬にタッチして転移。
ボルバーノスさんにお任せして元の場所に戻る。
お待たせアーボ。
今回は魔王戦だ。お前の一撃、期待してるぜ!
あ? 何驚いた顔してんの?
神殺之槍で魔王なんざ一撃必殺だろ。
頼むぜ俺らのアタッカー。
―― んじゃー、僕らは戦線離脱するよー。えっと、こっちでいいのかね? ――
「お願いします。元々ここを通り過ぎる過程で魔王に感知されたので」
唯一無事な桃瀬がボルバーノスさんに答える。
チミ、なんか適応力高過ぎない?
え? 磁石寺君の仲間なら信頼できるから容姿とか関係ない。
なんだその絶対的信頼。どうしよう、心が痛い。
「ええい、アレが邪魔だっ」
っと、動いたか!
魔王がついに痺れを切らし、間横からの一撃が部屋を襲う。
素早く部屋から飛び出すボルバーノス。皆を連れていち早く脱出してくれた。
「しゃがめパオッ!」
「言われずとも!」
「ッ!」
ローエンがしゃがみ、パオも続く。
彼らの頭上を通り過ぎる不可視の一撃。
その一撃すれすれを走り込むストナが剣を煌めかす。
あ、アトエルトが数体ぶった切られた。
ウサギさん? 背丈的に避ける必要すらないぜ。
耳を背中にぺたーんとしとけばいいんだよ。リキッドだからある程度自由に動かせるんだぜ。
アーボもころころ転がって回避だ。いや、動かなくても当らないからな?
ただ、残念ながらボックスマジックのボックスはへし折られ粉砕されてしまった。
これ、もっかい出した場合どうなってるんだ? ちゃんとまた使えるのだろうか?




