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ディアリオ、夢の目覚め・現実の旅立ち

 夢を見ていた。

 自分の前世が辿った人生の記録。

 人でも魔族でもなく、ただただ女神の人形として生まれた絶望の人生。


 理由は確か、そう、女神の作った箱庭に、凶悪な魔神が出現したことか。

 女神が心血注いで作っていたシナリオを破壊し、勇者を殺し、好き勝手し過ぎた奴がいた。

 怒り狂った女神がソイツを殺すためだけに作ったのが人形。自分の前世であった。


 感情など無かった。思いなどなかった。

 ただただソイツを殺すことだけしか考えに無かった。

 だから殺した。女神が魔神を殺せるだけの力を授けた存在だったから。


 魔神を殺したことで女神は次の勇者と魔王を作り、各々の絶望を見ることを楽しみだし、自分は放置された。

 だから、自分は、命令が来るまでただ、待った。

 ひたすらに待ち続けた。

 やがて、一人の魔族と出会った。


 彼は言った。命令が来るまで待つくらいなら、命令を聞きに行けばいいんじゃないか? と。

 聞きに行く方法を知らないと告げると、本を取り出し見せて来た。

 これを見て。街にある様々な本を見て、知識を身に付けて聞きに行く方法を探せばいい。

 笑顔でそう告げた彼に従い、知識を蓄え始めた。


 きっと、彼こそが自分に自我を与える切っ掛けをくれた人なのだろう。

 懐かしいな。本当に、まるで走馬灯のような夢だ。前世の生い立ちから長い人生を見守っているかのような。

 ただ、自分は無知だった。人形だったがために、無知過ぎた。


 書物を買うモノだとは知りもせず、ただ書物を本屋に読みに行き、持って帰ってしまっていた。

 怒鳴る店主を邪魔者として排除して、そこから幾人もの邪魔者を排除した。

 店主殺害の依頼を受けた冒険者。腕に覚えのある上級冒険者。街の兵士、領の軍全て排除した。


 今思えば、悪いのは自分の方だ。

 彼らは善良なる店主が殺されたから自分を捕らえに来ただけだったのに。

 領主を名乗る一団を排除し、新たな知恵を求めて街に行けば、街が滅びた後だったこともあった。


 そんな事を繰り返していたある日、あの娘に出会った。

 いつものように店主が突っかかってきた時、本を立て替えると言って来た魔族の女。

 自分にモノを買うということを教えてくれた女だ。


 自分に一目惚れしたらしく、家に招き入れてくれて、書庫を貸してくれた。

 だから自分は本を読んだ。

 彼女が何かを言っていたが、気にせず読んだ。ひたすらに読んだ。最後の一冊を読み終え、気付いた。

 目の前に立っていた女は……老婆になっていた。


「ああ、やっと気付いてくれた」


 皺くちゃの顔で、困った顔で、でも安心したように、悟ったように。

 好きだったんです。本当に好きだったのに……

 結婚して、子を産んで、それでもあなたは私を見て下さらなくて……

 私はもう、ここまでですが、お願いです。私の子孫を、見守ってください。


 自分に擦り寄り、そのまま眠るように息を引き取った。

 今ならこれこそが我が人生最大の後悔だと言えるが、この時の自分には恋愛感情などなかった。人としての感情の殆どが無かったがゆえに、彼女の想いに答えてやれなかったのだ。

 今なら分かる。ずっと、恋い焦がれた自分が目の前にいるのに手を差し伸べてくれない。愛を囁いてもくれない。どんなに叫んでも、どんなに求めても、自分はただ本を読んでいるだけ。

 あまりにも薄情。彼女の絶望は、どれ程だっただろうか?


 初めて自覚した感情。それが、後悔。

 そう、後悔。

 彼女の子孫を見守ろうと思っても、彼らは自分を不気味に思い、いつの間にか居なくなってしまっていた。

 街に向かい、彼女が残していた財産で本を買い。感情を学ぶことにした。


 やがて彼女の子孫がやって来て。魔王になったから覇道を手伝えと言って来た。

 本を読み終えたら手伝おう。丁度手にしていた本だけでも、と思っての言葉だった。

 読み終えた時、子孫は封印されており、魔王は別の誰かに変わっていた。

 後悔、自分に感情があれば、彼女の子孫を手伝っていれば……後から後からあの時はこうすれば、この時はああすれば。後悔すれども遅かった。

 結局、自分はただの女神の人形でしかなかったのだ。


 場面は変わる。

 目の前には小柄な、赤いツインテールの女が宙に浮かんでいた。

 自分も宙に浮かんでいた。


「ならば私も願おう。私を倒し、私を救っていただきたい」


「ならば、その願いを叶えよう。勇者を名乗る者として、あんたを倒す」


 そう、ソイツに自分は託したのだ。

 女神の人形であるがゆえに女神の手先になるしかなかった自分の絶望。

 味方となった仲間たちを自らの手で殺さざるをえなかった慟哭。

 その全てから、解放してくれることを。彼女に願った。


「ジェノサイドアグニス!」


 自分は女神に命令されて、闘うしかなかった。

 異世界の勇者、自分を殺したあの勇者と。

 全力を持って応戦した。上回ってくれと願い叫んだ。


「フレアプラズミッククロスッ」


 互いの最強の一撃。

 赤き太陽を思わせる一撃を突きぬけ、フレアプラズミッククロスが駆け抜ける。

 ジェノサイドイグニスが弾け飛ぶ。

 驚き目を見張る自分向け、致死の一撃が突き進む。


 ああ、自分が死ぬ光景だというのに、なぜこんなに嬉しいのだろう?

 自分を、その世界最強となってしまった自分を打ち破る一撃。

 約束通り自分を殺してくれた勇者。


 蘇る。その約束を。

 忘れない。忘れるわけがない。

 彼女は言った。


「はっ。あたし程度に何言ってやがる。あたしの知ってる島にはな。あたしなんざ指先一つで倒せる奴らがゴロゴロ居やがるんだよッ」


 だから願った。


「それは素晴らしい。ぜひともその島とやらを訪れたいモノだ」


 勇者は告げた。


「転生したら連絡しな。連れてってやるよ」


 自分と勇者だけの約束だ。

 ずっと、自分の誇れる自分だけの記憶。

 そんな夢から、私は醒める。


「おっ? 起きたか」


 聞き覚えのある声が聞こえた。

 揺り籠で眠っていた私が声に振り向く。そこには……


「よぉディア……転生後はディアリオだっけか? 迎えに、来たぜ」


 赤いツインテールの勇者は、そう言って私に手を差し伸べた。

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