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特別編・リアちゃん、お雑煮を知る

新年明けましておめでとうございます (^o^)ノ


 暖炉の火がぱちぱちと爆ぜる。

 暖かな暖炉の傍に敷かれたマット、そこに揺れる椅子が一つ、子供用の椅子が一つ。

 一つだけある窓からは月夜が見られ、夜中の一時を銀光が優しく差し込み主張している。

 木造の部屋には二人の人間。一人は大人一人はあどけない少女。二人とも女性である。


 そこは宿屋の一室。

 少女の両親が経営する宿屋に泊まった冒険者の女性に少女がお話をねだっている、今はそんな状況であった。

 宿で疲れを取りながら、子供の相手に癒される冒険者は、快く彼女の願いを聞き入れたのだ。

 少女はそんな冒険者の好意を全く気付きもせずに、快い冒険者のお姉さんに満面の笑みを浮かべて早く早くといろんな話を急かした。そしてその話も一段落、今はゆったりとした沈黙と火の爆ぜる音だけが響いているのだ。


 揺れる椅子には冒険者風の黒髪の女性。

 長い黒髪に優しげな瞳。アーマー類は部屋に置いているため今は普通の私服である。

 とはいえ村人や街人の着る普段着ではなく、冒険者が着る多機能用途のポケットが沢山ついた服だった。


 護身用に短刀が腰に佩かれている以外に装備は皆無。

 だからこそ、彼女が今休暇を満喫していることを物語っていた。

 椅子に揺れてゆらり、ゆらり。

 そんな女性の近くで暖炉の火に当っているのは、ツインテールとロングヘアを併せ持つ少女。年の頃は3歳くらいだろうか?


「リアちゃん、今日もなの?」


 しばし暖炉を見つめて揺れていた女が告げる。

 少女は一度彼女に視線を向けて、こくり、首を振る。


「新しいお話、教えてほしーの」


「まぁ、いいんだけどね。前の話はどうだった?」


「なんかね、うさしゃんが怒るからめーだって」


「兎が怒る? まぁいいや」


 リアと兎の楽しげな会話を思い出しながら冒険者の女は首を傾げる。


「やったー。うさしゃんが気に入るお話話すんだっ」


「そっか、んーとじゃー……」


 ぎしり、椅子を揺らして冒険者は考えた。


「今日は日数的にお正月なんだよねー。じゃぁあ、お雑煮って食べたことある?」


「おゾウ煮?」


 ゾウさん煮るの? リアは思わず小首を傾げる。


「ふふ、もしかしてゾウさん煮ちゃうとか思った?」


「あれ? 違うの?」


 想定通りの考えをしていたリアに冒険者はふふと笑みを零す。

 そして、ゆっくりと、悪戯っ子のようにネタばらしを始めた。


「実はねー、お雑煮っていうのはお餅を煮て……えーと雑に煮込むことを言うのよ」


 勿体ぶった言い方をしようとして、ふと思いかえす。

 はて、お雑煮ってどんな意味だったっけ? と。

 思い出せなかったので結局適当に告げることにした。

 どうせリアにとってはどうでもいい話しだろうから直ぐ忘れるだろうと思うことにした。


「雑に煮込むの? お餅?」


「ええ。じゃー今度作ってあげようか」


「うんっ。ところでお餅って、なに?」


 小首を傾げるリア。

 あれ? もしかしてこっちにはお餅がない?

 致命的なことに気付いた冒険者。リアにお雑煮を作ると言った手前材料ないからやっぱ無理。は流石にダメだろう。

 目を輝かせるリアを見るとさすがに作らなければ引っ込みが付かない気がする。


「えへへ。どんな料理かなー。お姉ちゃ、いつ作ってくぇる?」


「え? えーっと、材料集めないとだからー、うーんと……」


 マズいマズいマズい。

 冒険者は焦りを覚える。

 どうすればいいだろうか? 必死に考える。

 しかし餅を作るとすればもち米が必要になる。

 米ももち米もこの世界では見たことがないのだ。一体どこで手に入れろというのか。


「お姉ちゃ、お餅ってどーな料理?」


「そ、そうねー。真っ白で、もっちもちで、えーっと、凄く伸びるの」


「???」


 真っ白もちもち、そこまでは想像が付いた。そもそもその想像であればにっちゃうを思い浮かべればいいのだ。

 しかしにっちゃうは伸びない。物凄くは伸びない。

 ジャンプ寸前に一瞬しゃがんでから飛ぶのだが、その時のことを言っているのだろうか?

 リアは必死にお餅の姿を考える。

 しかしにっちゃうにしか思えなくなっていた。


「やっぱりいらない」


「へっ?」


「にっちゃうさんが可哀そーだもん」


 リアの思考回路を理解できなかった冒険者が首を捻る。

 はて、なんのこっちゃ? なぜそこでにっちゃうが出てくるの?

 リアの反応に小首を傾げながらもお雑煮を作らないでいいと気付いてリアの間違いを否定することを止めた冒険者。若干心が痛んだが、今は無垢な少女の思考回路に感謝するのだった。




 そんな事があった後日の出来事。

 兎さんが暖炉の傍で丸くなって寝ていると、リアが嬉しそうにやって来る。


「うさしゃんうさしゃん、お雑煮って知ってうー?」


 兎さんの耳がぴくんと跳ねた。

 折角寝ていたのにまたかねチミは。とばかり不機嫌そうに眼を開く。

 お雑煮がどうしたね? 疑いの目を向ける兎に、リアは元気一杯えへへと笑う。


「お雑煮はねー、ゾウさんを煮たんじゃないんだよー」


 覚えた話しを披露したくて堪らないのだろう。リアが楽しげに話す。


「にっちゃうみたいなお餅っていう食べ物を煮るんだよー」


 びっくりして跳ね起きた兎さん。


「きぃ―――――ッ!!」


 にっちゃう!? 何処の誰だリアに変なことを教えやがったのは!?

 兎さんの怒りの咆哮が宿屋に響き渡った。

 驚きながらもリアはその声に勘違いする。


「そういえばうさしゃんも真っ白ふわふわもっちもちだねー。お雑煮になっちゃうのかなー」


「きぃ―――――ッ!?」


 ふざけんな!? 煮込まれたウサギはただの煮込み肉でしかないわーっ!?

 マジで誰だリアに変なこと教えてる転生者か転移者のクソ野郎はっ!


 兎の心の叫びは、しかしリアにはわからず、自分を食べるのは止めてっと叫んでいるように思えた。


「大丈夫だよー。うさしゃん食べないからー」


 そしてウサギの咆哮に苦笑するのだった。

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