うさぎさん、ゲスターの森9
―― なんだ、もう終わりか ――
ディアリオさん来てくれたの悪いけど、ボックスマジックでなんとかなりましたわ。
―― 魔木化を使うべきかと思っていたのだがな。消化不良だ。ウサギよ。行くぞ ――
どこへ!?
あ、いや、理解した。
そういうことっすかディアリオさん。
騒動収めるのは本星からってことですな。
お供します先生!
俺の背中に赤ん坊が乗り、準備完了。
今まで乗り物やってたボルバーノスさんが肩を回して、あー疲れたぁとか言っている。
ディアリオさんは重くないぞー?
「倒せたの……? 相田君、これでもう二度と復活しないの、よね?」
ああ、その筈だジョゼ。ところで、なんかさっきさぁ、俺を殺そうとしてなかった?
「あら、被害妄想だわ、私は言われたとおりにしただけよ?」
こいつ……
いや、落ち付け、確かに俺が死んだらラッキー程度には思っていたのだろうが、タイミングも設置場所も完璧だった。
むしろ俺の傍全てを転生不可地帯にしたのはナイス判断と言える。
だが、言い方。そう、言い方だよ、なんだよクタバレって!?
相田の方に言ったんだって? ああ、そう言うと思ってたよ、畜生っ。
―― そら、そろそろ行くぞ。不毛な問答をする意味はあるのか? ――
畜生、ディアリオさん、俺、めっちゃ走りたい気分っす!
―― よかろう、常時回復をしてやろう。遠慮はいらん、行くぞッ! ――
「だぁう!」
脱兎を使い森を駆け抜ける。
アクセラレートで速度を補強し、魚共がやってくる方角へと走りだす。
脱兎が切れる瞬間疾風怒濤でさらに加速。
森が途切れる頃に電光石火で再加速。
そして、草原を限界加速で身体を壊しながら超加速。
壊れた傍からディアリオさんの再生スキルで身体を直していくので痛みすら感じることなく限界加速本来の実力を存分に発揮し続ける。進化でついでにフラッシュラビットに進化しておく。速度アップだぜ!
この限界加速だけはスキルの使用時間が無いので任意で使用できるし、使用を止めることもできる。
一度使えばクールタイムが20分あるものの、20分以上駆け続ければ一度解いても再加速可能なのだ。
まぁ、一度解く必要も無いけどな。
ディアリオさんが障壁張ってくれてる御蔭で前方の障害物は例え山だろうともトンネルのように掘り進んで向こう側へと辿りつく。
つまり俺はただただ走り続ければいいだけだ。
ディアリオさんが身体を倒して俺の進行方向を調整してくれてるので曲がろうとする必要すらない。
勝手に進路が決まって行くので加速の限界値を維持して走り続ける。
どっかのゴブリンの群れを撥ね飛ばし、オークのお偉いさんを轢き殺し、驚くオーガを突き抜ける。
ウサギに乗った赤ん坊はひたすらに暴走し、どんな障害物も薙ぎ払いながら魚共のいる森向けてひた走る。
30分程走った頃だろうか? ようやく目的地が視界に収まり、一瞬の後にはその森へと突っ込んだ。
侵入者がいると慌てて迎撃して来る森の中の回遊魚たち、そのことごとくをウサギさんから吶喊し粉砕し消し飛ばす。
中ボスっぽいクラーケンっぽいのが湖から出て来たものの、湖を駆け抜けたウサギさんを止めるに至らず。胴体部分に風穴開けて息絶えた。
そんな状況すら一瞬で通り過ぎるので俺はディアリオさんから送られてくる情報で周囲の状況を知ることになるのだが、正直知ったところで数十、数百mを過ぎ去っている俺にとってはどうでもいいことだったりする。
森の木々を薙ぎ払い、魚たちのバリケードをふっ飛ばし、湖を直進、あまりの加速力で水面を駆け抜け水気を背後に吹き飛ばしながらひたすらに駆け抜ける。
森の端から端へ、円を描くように、時に直径計るように直進し、あるいは中間点で適当に折れ曲がり、ひたすらに森を蹂躙して行く。
突き立つ木々は粉砕されて徐々に消え、森だった場所は荒れ地へと変貌し始める。
「や、止めろーッ」
何か聞こえた気がしたが一瞬で数キロ後ろに行ってしまったので何を言ってるのか全く分からなかった。
だからさらに駆け抜ける。
折れた木々が多くなったなぁ。
迫る魚共もかなり少なくなった。
さっきから森の中央付近通るたびに変なのが居るように見えるんだけど、アレって守護者かな?
すっごい泣きそうな顔してるぞ?
ディアリオさんったらその顔見てきゃっきゃきゃっきゃと楽しげに笑っている。
ディアリオさん、精神が赤ちゃんに引っ張られてますよ。
しかし、なんなんだろうな?
や? ぉー? めろ? 何言ってんの?
通るたびに何か叫んでいるんだけど、言葉が途切れ途切れで何言ってんのか分からない。
ディアリオさんが止まれって言ってこないし問題はないか?
でも凄く泣きそうな顔してるな。
え? 何ディアリオさん、仕方ないから止まってやれって? んじゃ、止まるか。




