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冒険者、呪われる3

「な、治らないって、どういうことだよっ!?」


 ふざけんな、と涙目で医者の襟首を掴み上げるガロン。

 ガロンにしてみれば最後の希望だったのだ。

 その医者に匙を投げられて納得できる訳がない。

 まだ診察すら受けていないのだ。諦めるには早過ぎる。それじゃ仕方ないと納得できる訳がない。


「おちつけ、その症状については知っとる」


「ガロンさん、放してあげてください」


「だが……いや、そうだな」


 鼻の痛みを必死に隠し、なんとか冷静さを取り繕うガロン。

 手を離すと、縒れた襟首を直しながら医者がふぅっと息を吐く。


「落ち付いて聞け。何でそんなキノコを喰ったか知らんが、毒キノコを喰えばそうなることくらいわかっとろうが」


「あ? 毒、キノコ?」


「ま、待ってくれ爺さん、毒キノコ?」


「は? いつ喰ったんだよそんなもん!?」


 ベッツ、ザイン、ガロンの三人は驚き顔を見合わせる。

 キノコ類など食べた記憶すらない。

 リスターも意外だったようで口を開けて驚いていた。


「し、失礼ドクター。毒キノコ、ですか?」


「む? 知らんのか? ドクササコといやぁ死神御三家の二つ名を持つ毒キノコじゃぞ」


「なっ!?」


「マジか!?」


「じゃ、じゃあ、この症状って……」


「うむ。ドクササコどっかで喰ったんじゃろ。ドクササコというのは毒を持つ笹の子という意味でな。笹の近くでよく生えとるんじゃ。別名はヤドクタケとかジゴクモタシともいうぞい」


「ンなこたぁどうでもいいんだ。こいつは治るのか!?」


「それなんだがの、状態異常回復魔法も解呪も効かん。キノコ毒はやっかいでのぅ、自身の体力気力で耐えきるしかないのじゃ」


 三人にとっては絶望的な宣言だった。

 直すには耐えきるしかない。つまり、この地獄の痛みに耐えきらなくてはならないのだ。

 一日か? それとも三日か? まさか一週間とかはないだろう?


「な、なぁ、どれぐらい、耐えきれば……?」


「さてのぅ、普通の毒キノコなら数日と言えるんじゃが、こいつは猛毒も猛毒。死神御三家の名は伊達ではないからの。推定、一カ月じゃ」


「「「一カ月ぅ!?」」」


 絶望的な日数に、三人は涙目で絶叫する。


「な、なんとかならないんですか?」


「悪いが毒キノコの解毒法は医療ギルドでもそこまで調べられておらんのじゃ。特にこのドクササコは凶悪での、被験者を募って一度毒の効能と治療法を調べようとした記述があるんじゃが、痛みに耐えきれず自殺したり、衰弱死したり、患部が壊死したりと酷虐すぎて被験が禁止されとるんじゃ。即死キノコという訳ではないが、症状が酷過ぎるので、医者としては決して食べるな。食べたら耐えきれ。頑張じゃ。としかいえん」


 頑張じゃ。のところで満面の笑みでサムズアップする医者に若干の殺意を覚えつつ、三人の冒険者は互いに顔を見合わせる。


「クソ、とにかく自殺はすんじゃねぇぞテメェら」


「わ、分かってる。ガロン、辛いとは思うが一カ月、耐えきってくれ」


「ぢぐじょう……やるしか、やるしかねぇんだよな」


 涙目を涙でさらに濡らし、ガロンは悲壮感溢れる顔で決意する。

 皆、家に帰り一カ月、耐えきることを誓ってその場で別れた。

 きっと一カ月後、この話も笑い話になるだろうと信じて。

 三人が立ち去った後、リスターは彼らの背を見送りながら医者に尋ねる。


「それで、あの三人はどうなります?」


「嘘は言っとらんよ。あとは奴らの気力次第じゃ。危険なのは患部の壊死、それ以外は耐えきればなんとかなる。逆に言えば耐えきらなければ治らん」


「恐ろしいのですね、毒キノコというものは」


「しかし、なんでまたあんな劇物を食べたのか……」


「可能性としては兎の巣穴を襲撃した際何らかの方法で気絶させられたそうで、その時犯人に口内摂取させられたのやも知れませんね」


「酷い奴もいるもんじゃ。そいつはよっぽど悪逆非道なんじゃろうなぁ」


 医者はしみじみと頷く。

 リスターはそれを聞いて神に祈った。

 神よ、願わくばあの罪なき三人を苦しめた悪逆非道なる者になんらかの罰を。と。




 一か月後、ギルドの一角にベッツはやってきた。

 痛みで満足に歩けなかったせいで歩き方がぎこちなくなっているがこればかりは仕方無い。これからリハビリをすればいいだけだ。


 それでも、なんとか壊死することもなく無事に生還できた。

 他の二人はどうなっただろうか? ここ最近は二人がやってくるのをずっとギルドの一角で待ちぼうけしている毎日である。


「おう、ベッツは無事だったか」


「っ!? ザイン!」


 よぉっと包帯だらけの片手を上げながら合流して来るザイン。

 思わず喜んだベッツだったが、彼の手に巻かれた包帯の違和感に身体が止まる。


「お前、それ……」


「ああ、末端部が壊死しちまってな。つってもほら、俺は魔法使いだからよ、魔法唱えるのに指先は必要ねぇっつぅかな」


「お前……クソ、ひでぇことしやがる……」


 涙を流し、やってきたザインを抱擁する。

 姿の見えない誰かが行った非道に、ベッツは静かな怒りを覚えていた。


「ガロンはまだか?」


「ああ。あいつは鼻に来てたからな。自殺してねぇといいんだが……」


「してねぇよ」


「「ガロン!?」」


「地獄から、生還して来たぜ」


 少し恥ずかしげに頬を掻きながら、ガロンがやってきた。

 その鼻は腫れもなくなり、厳ついながら男前の顔が無事に二人の前に現れていた。

 その姿に、二人は涙が自然に溢れる。

 合流した三人は抱きしめ合い、互いの生還を喜び合ったのだった。

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