冒険者、呪われる1
「ぎゃああああああああああああああああッ!?」
その日、酒場で泥酔していた男達は、唐突な絶叫で目を覚ました。
いつもの如く夜中まで飲みまくっていた冒険者の男達三人は、そのまま寝てしまっていたようで、起きた瞬間、他の寝ていた冒険者達と共に絶叫の元を探していた。
「ガロン、お前か!?」
歴戦のツワモノ感漂う寡黙でムキムキの男だ。全身盾を持って魔物の攻撃からパーティーを守る防衛者。その働きは、たびたびこのパーティーを救って来た立役者だ。
しかし、そんな彼は鼻を真っ赤に腫らし、涙塗れで絶叫していた。
「どうしたんだよ?」
「知らん、鼻が、痛みで起きて、気付いたら鼻が赤く腫れあがって、痛てぇ、何だよこれ、病気なのか? がああああああああああああああああああああっ」
「ちょ、煩いわよっ」
「そうだぞー。飲みすぎじゃねーのかー」
「つか頭に来るだろうがッ、黙りやがれっ! ぶっ殺すぞ!!」
「と、とにかく教会行こうぜ。流石にここは他の客の迷惑になる」
「そ、そうだな。おい、行くぞガロン」
「グギギギギ……痛ぇ、なんなんだよこれぇっ」
村唯一の教会に三人は駆け足で向う。
ガロンは既に限界だ。痛みが酷過ぎて涙に鼻水涎まで垂れ流しになっている。
いつもの清ました面は欠片も存在しなかった。
「シスター、急患だ!」
村に唯一の教会。
そこは神に祈りを捧げる為の場所、だけではない。
回復魔法が使える神官が常駐しており、民間人の治療やダメージを受けた冒険者たちが回復に訪れるのである。
冒険者である三人組もまた、ここに来れば治るだろうと、即座にやって来たのである。
「いらっしゃいお三方。迷える羊たちよ、本日の御用はなんでしょう?」
ショートボブの可愛らしい神官が対応に現れる。
胸がスイカ並みに巨大だったので思わずガロン以外の二人の眼が胸に向かう。
「不敬ですよ」
「あ、ああスマン。それよりシスター、こいつを見てくれ」
ガロンを押しだす。物凄い顔になっているが、シスターは嫌な顔一つせずガロンの顔をまじまじと見つめる。
「これは……虫刺され? いえ、それにしては範囲が広い。それに痛みもあるのですね?」
「だずげでぐれ゛……」
「祈祷と浄化を行いましょう。こちらへどうぞ。お連れ様も、どうぞ」
「お、おう」
「それで、ガロンの奴、治りそうか?」
「普通の怪我や出来モノならばすぐにでも、別の要因であれば特定するまでしばし時間が掛かります」
「マジかよ」
「ですので、直前に何かしら普段とは違う行動を行ったとかはありませんか?」
「ないな?」
「ああ。いつも通りだったよな」
シスターに付いて男達が診療施設へと向かう。
「おやマリルさん、そちらの方々は?」
「リスターさん、浄化の用意をお願いします」
「浄化? む? なんだこりゃ。凄い腫れだね」
診療施設に居た神官の男が、やってきたシスターに声を掛けてくる。
マリルと呼ばれたシスターが浄化願いを行った事で、付いて来た者の誰かが患者であると知り、リスターもまた真剣な顔でガロンに視線を向ける。
即座にガロンの鼻に触れる直前の位置で掌を付きだし、呪文を唱え始める。
魔法を唱えたようだが、しばしの静寂、そして絶叫。
ガロンの痛みは全く消えてないようだ。
「おい、痛みが消えてねーじゃねーか」
「先程のは毒や状態異常の回復魔法です。他の原因のようですね」
むぅっと唸るリスター。
「リスターさん、もしかしてこれ、呪いじゃないですか?」
「呪い? まさか? こんな冒険者達が誰に呪われるっていうんだい」
流石にそんなことはないだろ?
リスターは小首を傾げながらも冒険者達に尋ねる。
ない。と答える三人。ほらな、と告げようとしたリスターに、冒険者の一人がそう言えば、と答える。
「そういえばよ、四日くらい前だったんだが、ウサギ狩りしたんだ」
「ウサギ狩り、ですか?」
「ああ、俺達は四日前にウサギの巣穴を発見してよぉ。ザインが火炎弾放り込んだんだ。まぁ、洞窟内にはなーんもなかったけどな」
「その後なんか布みたいなのがガロン、僕、ベッツの順に襲いかかって来たんだ。この世のものとは思えないぐらいに臭くてそのまま気絶したんだよな」
「ああ。気付いたら三人揃ってウサギの巣穴近くで寝てたんだよ。ありゃ不思議な出来事だった」
男達の言葉を聞いたリスターは顎に手を当て神妙な顔をする。
「ウサギの、呪いかもしれませんね」
「マジかよ!?」
「直ぐに解呪の儀式を始めましょう。マリルさん用意は?」
「はい、既に済んでます。こちらを」
聖書を受け取ったリスターが解呪の魔法を唱え始める。
そして……
原因不明の痛みを覚えていたガロンは見事……見事、治らなかった。




