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チェルロ、奥様が戻りません

 チェルロは困っていた。

 そこは割り振られた王妃の間。

 一応ウサギが城の主となったのでウサギの妻であるユーリンデが王妃の間に割り当てられたのだ。

 今は彼女が天蓋付きのベッドに寝かされており、チェルロはメイドとしてグレース共々身の回りの世話を行っていた。


 今はグレースが部屋の掃除を、チェルロはユーリンデの具合を確認しながら額をタオルで冷やしている。

 そのすぐ横にはボルバーノスとその頭上に座ったディアリオ。


 さすがに二人も今回はマズいと思ったようでユーリンデの精神状態を確認しに来たのだ。

 だが、この二人を持ってしても、ユーリンデの精神は危険な水域であるらしい。

 虚空をさまよわせる眼、あーっと音を漏らす口。どう見ても精神的にイッちゃった人である。


 ―― おかしいな。Zウイルスは駆逐済みのはずなんだけど? ――


 ―― ふむ。一応精神状態は正常のはずなのだがな。やはり人格に上書きされてしまったのだろうか? そうなると我ではどうにもならんぞ? ――


「どうにかなりませんか? さすがに奥様が不憫です」


 ―― 今は記憶の整理中かもしれん、しばらくしたら勝手に再起動するだろう……それを祈ろう ――


 ―― というか、僕らにも打つ手がないんだよね? 斜め45度から叩いたら戻らないかな? ――


 ボルバーノスの言葉に意を決したチェルロは手を振り被る。


「奥様、御免ッ」


「あ――――――がぴょっ!?」


 ―― うわ行った!? しかも首が物凄い『く』の字に曲がったぞ!? これ物理的な意味で大丈夫? ――


 ―― う、うむ。一応骨は折れてはいないようだ。 ――


「っ!? あ、あれ? 私……」


「お、奥様ッ!?」


 ―― うっそーん ――


 ―― ふーむ。人体の神秘か…… ――


「チェルロ、私、えっと……どうなって?」


「落ち着いてください奥様。今はただゆっくりと寝て頭を休ませてあげてください。まだ混濁としている筈です」


「え? ええ、そうね。頭の中がぐちゃぐちゃな気がするわ」


 ―― すげー、昔のテレビみたいな綺麗な治り方だったよ ――


 ―― うまい具合に回線が繋がったらしいな。恐れ入ったよ。私ならば匙を投げていたところだ。何事も試してみるべきだと教わった気分だよ ――


 ユーリンデが再び寝入ったのを確認し、チェルロはふぅっと息を吐きだす。


「肩の荷が下りた気分です」


 ―― うむ、御苦労 ――


 ―― おつかれー。よくやろうと思ったよね。思い切りの良さも角度も素晴らしい一撃でした ――


「さすがにもう一度やれと言われても出来ませんよ。今のは奥様を思う奇跡の一撃と思って……」


「う―――――――――――――――――――――」


「お、奥様ぁっ!?」


 ―― ありゃ、寝たら回線切れたなー。テレビ消して点け直したときみたいだ ――


 ―― 一度回線が繋がったようだし、放っておけば戻るだろう ――


「ほ、ほんとですか? 本当に放置して大丈夫ですか!?」


 ―― 下手に刺激してさらに壊れたらどうする? 次も戻るとは限らんぞ? ――


「ああ、どうしてこんなことに……」


 嘆き悲しむチェルロ。

 ユーリンデの世話係をしていたためか、彼女の幸せ最優先のようで、ユーリンデがこうなってしまったことに本気で悲しみを抱いているようだ。

 あるいは自分が立候補すればよかったと自分のせいにしてしているのかもしれない。


「まぁまぁ。チェルロ姉様、お二人が放っておけば治ると言ってるんですから信じましょう。ウサギさんも妻がこんな状態なんだから一度くらいは見舞いにくればいいのに」


 ―― ああ、ウサギならまだ正座中だぞグレース? ――


「え゛!? まだあそこにいるんですか?」


「なるほど、それじゃあここに来れないのも仕方ないですね」


 ―― うむ、本人はこちらに逃げたがっているようだが動けば即座に二人に正座ッ! と言われているので動くに動けんらしい ――


 ―― あの空気で同時に言われるとねー。多分僕でも正座するね ――


 ―― 私もしそうだな ――


「ディアリオ様が正座なんてしたら足が変な癖を付けてしまいます。赤ちゃんの内は正座はしないほうがいいですよ」


「あれ? そう言えばチェルロさん、ディアリオちゃんのこと普通に様付けてますよね? 念話出来る赤ちゃんって凄いなって思いますけど様付けするほど、ですか?」


「グレースは知らないのでしたっけ? こちらにおわすのは元魔神様の転生体、ディアリオ様にあらせられるのですよ。赤ん坊の身ではありますがその身にあまりある魔力の渦が分かりませんか?」


「そ、それは申し訳ございませんッ」


 ギロリと睨んできたチェルロの視線が狂信者のソレだったので慌てて平謝りのグレース。元暗殺者っぽい何かだったグレースにはあまりにも危険なモノにしか見えず、逆らったら殺されるとすら思える剣幕であった。

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