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ジョゼ、空に浮かぶ鉄の城

「報告、ボザーク帝国先陣部隊と衝突、戦闘が開始されました!」


 陣地を作成しようやく他国への侵攻作戦が開始された。

 待ちに待った国盗りである。

 しっかりと準備し、シャコタン王国を戦争を行える国へと変えたのだ。

 ジョセフィーヌはようやくゲームの開始段階へと来れたことに感動を覚えながら、本陣の作戦司令部で報告を聞いていた。


 ここはシャコタン王国から少しボザーク帝国へと侵入したボザーク帝国領。

 目の前にある台には地図が広げられ、ボザーク帝国から進軍する兵士たちへの対処法などがジョゼにより記されていた。

 既に昨夜のうちに作戦は各部隊長に伝えられているので、今はその作戦がどれだけ嵌るか。戦勝報告を聞くためにここに居るようなモノである。


 初めは、皆に戸惑いも見えたし、戦意もあまりなかった。

 何しろシャコタン王国初めての国盗りで相手国への侵略なのである。

 しかも相手が侵略国家として名高いボザーク帝国だ。

 これで戦意が上がる訳が無かった。


 幾らジョゼが国民に押し上げられて王位についたとはいえ、いきなり他国へ侵入という今の状況は、まだ皆にとっては様子見、そして兵士達にとっては気乗りのしない侵略なのである。

 だから、この初戦が大事なのだ。

 圧倒的勝利で戦を終わる。

 その為だけの闘いで、その報告を早めに聞きたいから前線基地へとやってきたのだ。

 そうでなければ誰がこんな奇襲を受けたら即死亡の天幕等に来るものか。


 とはいえ、予想していた通り、その後に続く報告は皆ジョゼの考えた通りであり、吉報ばかりが続く。

 敵はジョゼの思考の予想外を行くことは無く、ただただシャコタン王国が侵略国家となるための生贄として策に翻弄されているらしい。

 ゆえに、ジョゼはほくそ笑む。


 まさにゲームであった。

 あまりにも簡単なゲームだった。

 このまま何も無ければ大勝。

 勝利に味をしめた兵士達はジョゼが居れば次も勝てると思いだすだろう。

 そうなればシャコタン王国は貪欲な侵略国家となり、各王国を併吞するのに躊躇い無く侵略し始める。


 そして目指すは全国統一だ。

 初戦の勝利は目前。次はどう攻めようか?

 ジョゼが次の戦闘に向けて思考を始めた時だった。


「き、緊急報告ッ!」


「あら? 何があったの?」


 慌てた様子で天幕に入ってきた兵士に一瞬驚く。

 しかし、努めて平然と、落ち着いた雰囲気で相手の話を促す。


「る、ルアネの森から、し、城、城が空をッ、と、飛んでますッ」


 よくわからない報告だった。

 しきりに伝令兵が外を差すので、仕方なく外に出るジョゼ。

 その視線の先に、城があった。


 空に悠然と浮かびあがった鋼鉄の城。

 緑の蔦に覆われ、朽ち果てそうな遺跡だった筈の城は、その全てが剥がれ落ち、偽りの姿から真なる姿へと変貌し、空高く浮遊していた。

 メタリックな壁面に神々しいまでの光沢を日の光を受けて周囲に見せつける圧倒的威容。

 城の周囲に庭部分だろう、土を付けたまま空高く浮かんでいた。


「な……ん?」


 あまりにも想定外のことに開いた口が塞がらない。

 帝国兵も驚いているのだが、アレが何処の軍によるものかは問題じゃない。

 帝国軍側から浮上したということ自体が大問題だ。


「あ、アレは帝国の秘密兵器でしょうか……? わ、我が軍は眠れる獅子を起こしてしまったのでは!?」


 伝令兵が怯えるように、未知の兵器ではないかと疑ったシャコタン王国軍は臆病風に吹かれて進軍を停止してしまっていたのだ。

 このままではまずい、早急に手を打たないと。

 ジョゼは思ったが、空を飛ぶ城相手に何をどうしろというのか?


 あれが敵であるかどうか、それだけでも分かれば手の打ちようがあったのだが、とりあえず分かることはシャコタン王国の味方ではないということだ。

 その事実だけで兵士たちの士気が無くなるのは当然のことだった。

 折角勝ち戦が見えていたのに、兵士達の一部が逃げだす。

 ソレを見た帝国軍が追撃戦を始める。


 ゆえに形勢は一気に逆転した。

 勝ち戦は負け戦に。

 兵士たちはほぼほぼ逃げだし、将兵たちもこのままではまずいと撤退を声高に叫び始める。

 もともとの士気の低さが裏目に出てしまった。もう少し城を観察する余裕があれば敵を観察する余裕があれば、城に対して帝国兵も驚いているため、城が第三者に寄るものだとわかったのだろうが、そんな余裕はシャコタン軍にはなかった。


 ジョゼの思い描いた筈の全国統一ゲーム。開始直後にイレギュラーが発生し失敗してしまったのであった。

 思わず手を握るジョゼ。掌はあまりにも力が入り過ぎて白く、白く染まり始める。

 空に悠然と浮かぶ鉄の城に、ジョゼはあまりにも理不尽でタイミングの悪いと逆恨みを抱くのであった。


「魔砲隊を出すわ、アレを撃ち落としなさい」


「なっ!? 虎の子の魔砲隊をもう出すのですか!?」


「敵かどうかは分からない、でもアレが居るだけで士気が下がってしまっているわ。この際徹底的に潰しましょう。鉄砲隊も前へ、敵軍を打ち破りなさい」


「か、かしこまりました!」


 この闘いにだけは勝たなければならない。

 ゆえに敵軍だけは確実に潰しておく。

 ジョゼは息を大きく吐きだし、気合を入れ直す。


「何処の誰だか知らないけど。ワタシの邪魔をしてただでおくと思わないでほしいわね。エンジェルフォール。その城、落としてさしあげてよ!!」

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