ウサギさん、古城の主
そこは謁見の間だった。
朽ちた広い空間。
ここまでは整備されていないようで、下の絨毯も黴きって恐ろしい斑色。無数の黴毛とでもいうべきか、そう言うのが生えている。さすがにここに足を降ろす気にならなかったのでスラ子に感謝しておこう。
スラ子が這いながら絨毯の黴を溶かして綺麗にして進む。
埃舞う豪奢だった広間には、たった一人の人物しかいなかった。
目の前の奥座に存在する数段高くなった場所にある玉座。そこにたった一人座り。数千年来ることもなかった謁見者を待ち望む。
既に骨と皮だけのミイラと化してしまった古代人。
どうやらこの扉の先は空気の流入すらなかったようで、締め切られたまま数千年の時が経ってしまったようだ。
呼吸して大丈夫かこれ?
―― 安心しろ。空気内の病原体が入り込まないようお前達の周囲に結界を張っておいた ――
出来る赤ちゃんディアリオ先生が先回りして安全を確保してくれていたようだ。
とりあえず祈っとこう。
「何してんのうさしゃん?」
「あら、ダーリンったらほ・し・が・り・さんっ♪」
セレスティ―アにねだってねぇーよ!? うっふんとかしな作るなっ。
ディアリオさんに感謝の祈りを捧げてんだよ! 俺にとっての神だよあの方は。
「先生から神に格上げしやがった。上がり過ぎじゃね? 確かにあの赤ん坊凄いけども」
真壁はバカだから分からんのだよ。このスポーツ馬鹿が! ディアリオさんはな! 魔神様なんだよ。ゆえに神を神と崇めて何が悪い。
「うむぅ、馬鹿といわれて怒ろうかと思ったんだが、スポーツ馬鹿なのは確かだからなぁ」
なんで頭掻いて嬉しそうにしてんだよ!? 今のは怒るところだろ!?
はぁ、にしても……このミイラは数千年前の人ってことでいいのかね?
服装も朽ちてるけど王様って感じだし、この国の国王でいいのかな?
「ね、ねぇ、こういう場合って怨念とかでアレが動いたり、レイスッぽいの出たりしないわよね?」
お、楓夏、ソレ多分フラグ。
オオ、オオオオォォォォォォッ!!
「なんかでたっ!?」
おお、今まで全く使用用途のなかった霊感スキルが仕事し始めた!
おぉうゾクゾクするぅ!?
「ゆ、幽霊って倒せるの!?」
「知るかよ!? 初めて出会ったぞ!?」
神剣や聖槍なら問題なくいけんじゃね? ってことでそいや。
アイテムボックスから聖槍ミホロバを取り出し思いっきり投げる。
テクニシャンが仕事して出て来た怨霊っぽいのの中心を穿つ。
ギャアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァ!?
出現一秒で御退場。バイバーイ。
消滅していく怨霊さん。
何がしたかったのか全く分からんぜ。
お、アイテム貰った。なんだなんだ?
宝物庫のカギ? エアクラフト王の証? ポルンクスタ起動キー?
「お、皆、このミイラアイテムボックスでるぞ!?」
「え? 今出るの!? なんで?」
怨霊倒したからかな?
回収した福田が俺の元へとやって来る。
「ほれ、エアクラフト王の王冠と服。あと杓杖っぽいやつ」
はいはい、人数分増やせってことな。
でも王冠大量に作っちゃっていいのかね?
まぁいっか。
えーっと杖は杓杖じゃなくて錫杖だな。
棒の上にあるのが金属のワッカ二つをくっつけてる金属の杖だ。
錆てるかと思ったけどドロップ品は新品になるらしい。
その辺りはファンタジーだな。
お? この杖、テスカトリポカの杖だって。曰くありげだな。
装備した時の上昇率は凄く高いし、付属スキルは魔法でダメージ与えた相手のHP吸収とか結構便利スキルだけど。
呪われてないかな?
ディアリオさん、これ呪われてない?
―― 問題はなさそうだが? ――
じゃーエペ装備してみ?
「え? わ、私ですか!? うわ、なんか凄い力が増えた気が……」
MPと魔力、魔法防御が1000近く上昇する鬼畜仕様だよ。
MPだけは10000上がるけど。
「うひゃぁ、これ普通の武器使うよりこれ装備して殴った方が強くね?」
攻撃力は上がらんよ福田?
はい、ルアネのねーさんもどうぞ。
「あ、あんがと。すごいな。本当に全員分に増えちまった」
マジックスキル取れば何時でも使えるよこれ? 便利だからどぅ?
「ああいや、あたいはいらない、かな」
折角ご加護を、と思ったけど残念ながら遠慮されてしまった。
仕方ないので照れ隠しに玉座の後ろを探って隠し通路を捜索する。
残念ながらこの城には隠し通路ないらしかった。
代わりに玉座の後ろの方で右奥に扉があり、そこから王族の間に向かえるようになっているらしい。
王女様の部屋とかあるかな? 怨霊化しててもテクニシャンと最適化スキルでなんとかできまいか? いざ、王女、あるいは王妃様の間へ!!




