ウサギさん、暗殺されればよかったのに
しくしく……
女が泣いている。
皆さんの目の前で、レイプ眼になった女の子が泣いていた。
ユーリンデが気を利かせて彼女を抱きしめ慰めている。
酷かったね。もう大丈夫だから。そんな声をかけていらっしゃった。
起きたら既に事後だったんだよ。から悲鳴が上がり、テクニシャンが仕事するより早く皆が現れた。
その動き、変なおじさんを見付けた時のような集まり具合であった。
当然、雲浦に殺されそうになったので天音の元に逃げだした俺。
アーボが邪魔だったので仕方なくレパーナの頭の上に退避した。
一応何があったかはボルバーノスさんにより皆に伝えられ、ウサギさんが全面的に悪い訳じゃなく暗殺されかけたから襲ったという自己防衛だったことを理解したので皆に殺されることはなくなった。
ウサギさんが悪い訳じゃないんだよ?
「ったく、暗殺されそうになったから襲いかかったとか最悪ね。このウサギ殺しちゃだめかしら?」
「諦めなよ雲浦さん、どうせうさしゃん倒せないんだから」
美与の言葉にむっとする雲浦。お願いだからあんまり煽んないでね?
「わ、私……暗殺、しに、来たのに……初めてだったんですっ」
ユーリンデに縋り付きながら泣きじゃくる暗殺者さん。
いや、襲われるのが嫌なら暗殺しにくるなよ。
ってかアジールと会った時は結構クールな感じの声だったのに、今はまさに少女のようじゃないか。なんでだ?
「あんたが襲ったからでしょ!」
「つーか磁石寺ばっかずるいっ! 暗殺されれば良かったのに!」
「そうですっ! ミーにも一人くらい分け……何でもありませんッ! サーッ!!」
福田とジョージがなんか叫んでいたが戸塚に睨まれた瞬間なぜか姿勢を正しくピンとして敬礼した。何がしたいんだこいつら?
まぁいいや。どうやら暗殺者ちゃんの方はユーリンデに介抱された御蔭か、ぽつりぽつりと自分の身の上を話し始めているので放置でいいだろう。
しかし、皆迷わずここによくこれたね。
「それにしても、すごいなここは……」
思わずヘンドリックが部屋を見回しながら呟く。
赤ちゃん用の道具が所狭しと置かれてるからな。
しかもベッドは大人用。
―― ここは先祖が自分の趣味を突き詰めるため用の隠し部屋だな。誰も使ってないから使いたければ使ってもいいぞ? ――
いや。いらんだろ。
おいそこ、セレスティ―ア。これはこれでありかしら? みたいな顔してんじゃねーよ。
無いよ。絶対に無いからな。
「にしても、隠し部屋ってここだけなのかな?」
―― いや、ご先祖は何人もいたからその分隠し部屋があるぞ? ――
「ちょっと探索してみようかな」
「莱人、止めてよ、気持ち悪い」
「なっ。純粋な探検欲だよっ! どんな場所があるかちょっと見てみたいじゃん? なぁ?」
いや、そこで皆を巻き込もうとするなよ。
ルルジョバとセレスティ―ア以外は視線逸らしてんじゃん。
お前ら行くなよ? っつか明日っていうか今日からボザーク帝国行くからな? 探索時間はないぞ。
さっさと寝ようぜー。
そもそも、だよ、女性寝取られたから暗殺依頼して来たのに、女性の暗殺者に襲わせること自体が間違いじゃね?
「確かにそりゃそうかもだけど、ねぇ、暗殺者ちゃん、お名前聞いてもいい?」
「グレース……っあ!? い、今の忘れて?」
楓夏がつい聞いてしまった名前を普通に答えてしまい焦る暗殺者。暗殺来たのに本名答えちゃだめだよね? 楓夏さんや、それ聞いちゃダメなやつだから。もう遅いけど。
「それで、なぜウサギを襲おうとしたのだ?」
だから真廣さん、そういうのも守秘義務があるからね、暗殺者はそれ守るために自殺も辞さない人種なんだからっ。
「クライネル男爵から自分の女、セレスティ―ア様を寝取られたから暗殺してくれ、と……あっ」
だからなんで言っちゃうの!?
グレースさん暗殺者向いてねぇよ!?
まぁ、背格好からして十代前半くらいの若い娘だし、仕方ないっちゃ仕方ないのかな?
グレープ色の髪は動きの邪魔にならないように短髪にしているらしく、手入れが成されていないのでぼさぼさ。顔も鼻の上にぶつぶつが出来ている。ソバカス娘だね。
それでも顔立ちが可愛らしいエルフの女の子である。
暗殺者なんかならなくても田舎のパン屋とかやってそうな顔立ちなんだよ。
普通に一般人してればいいのに、なんでまた暗殺者何かになってるんだ?
「暗殺者向いてないんじゃない?」
だから、追い詰めるようなこと言うなよ中浦っ。
お前の言葉無駄に鋭利に尖ってんだよ。
「そ、それくらい分かってるわ。それでもお金がいるのよっ」
俺の暗殺そんなに高かったのか。
「実力はあんまりないからせめて毒だけでも確実に殺せるやつを、その、依頼して……」
アジールが持って来た毒な。ごめん、ソレの御蔭で俺暗殺事前に知ること出来たんだ。
俺がそんな事を念話で告げると、眼を見開いて唖然とするグレース。
自分の暗殺がバレていたことに今気付いたようである。




