ウサギさん、酒場に居た奴ら
酒場に入る。
すると、視線が……目の前のナイスバディなお姉さんに向けられた。
飲んだくれのおっさんたちが下から舐めるように見上げ、プリンとした尻、たわわな胸。ヤバいぐらい黒い隈の顔を見て、最高潮まで上がったテンションを落として行く。
どうやら飲んだくれどもの好みではなかったようだ。
身体付きだけはいいけど顔が……ってところだろう。
まだまだ青いなヒヨッコどもめ。
「あ、うさしゃん、また女の人追っかけてるっ」
うおっ!? いきなりなんだよ。って、お前らこんな場所居たのかよ。
カウンターに座っていたのはヘンドリック、咲耶、ジョージ、福田、カルセットの五人である。
といっても、ヘンドリックと咲耶は二人きりで座ってグラスを傾けており、少し空いて残りの三人が座っている形だ。
そのせいか、ヘンドリックは俺に気付いていない。咲耶はちらっと視線を向けて眼だけで挨拶してきた。
今は二人に近づかない方がいいな。間男がバレかねん。
と、言う訳で馬鹿野郎三匹の元へ向う。
何してんだお前ら?
「フッ、酒場に男とくれば、もう語るまでも無かろうチェリーボーイ」
ジョージがなんかカッコ付けてグラス傾けてやがる。
つか、チェリーボーイはテメーだろうが揉み上げ野郎。
そういえばこいつ、なんか見覚えあると思ったんだよあのS級冒険者。ナイス=ガイはジョージに似てたんだ。ようやく喉に刺さった魚の骨が取れた気分だよ。
「えっと、この二人はナンパって奴をするらしいよ。僕も誘われたんだけど、良く分からなくて」
カルセットは分からなくてもいいと思うよ。
お前は多分逆ナンされるタイプだから。
「ふっ、磁石寺、今日、俺は大人になるぜ?」
っていうかさーお前さん等、ナンパはいいけど、女性が今入って来た黒魔術のお姉さんしかいなくね? おっさんたちナンパすんの?
「「するかーっ!?」」
あのおっさん、なんか辛いことあったみたいだから優しくしたらコロッと行くかもよ?
「「だから行くかーっ!!」」
「ちょ、声が大きいですよ皆さんっ」
二人のツッコミが大きかったらしく、おっさんたちの注目を集めてしまったらしい。
やったなお前ら、モテモテだね。
「「マジやめて!?」」
半泣きで叫ぶ二人。さすがに大衆巻き込んでは可哀想か。
仕方ない。止めといてやるか。
カルセットが必死になって火消を始めた。
しかし、飲みまくってべろっべろになってるおっさんたちはよいカモ見付けた。と立ち上がり、近づいて来てはジョージを、そして福田を肩に腕を回してがしっと固定して自分たちのグループへと強制参加させていく。
モテモテ、だね。
「「おのれウサギぃっ!!」」
俺のせいじゃないやーい。
うわ、大ジョッキ一気飲みさせられてやがる。
カルセットは身の危険を感じたようで、ヘンドリックと咲耶の元へ向い、ちょっとだけ一緒に居させてください、と福田とジョージを見捨てていた。
あいつ、随分したたかになったな。
「随分、楽しそうね」
ん? おお、お姉さん。また会ったな。
「また、というよりは貴方が私を追って来たように見えたけど? 隣、どう?」
んじゃお言葉に甘えて。
駆け寄った俺は大ジャンプでテーブルに飛び乗る。
テーブルには酒しかなかったのでウサギさんが乗るくらいのスペースはしっかりと開いている。
「ふぅ」
物憂げに溜息を吐くお姉さん。
アンニュイな顔がまた、疲れてそうというか、憑かれてそうというか。
どうしたねお姉さん。
「材料が足らないのよ。秘薬を作りたいんだけど、どうにもこの近辺じゃ取れない素材みたいでね。ウサギ君は知らない? ドクササコとカエンタケとコフィンオロチの毒」
見事毒だらけじゃね?
でも、どうしよう、ピンポイントで全部持ってるわ。
んー。まぁ折角出会えた訳だし。
お姉さん、モッコリ一発してくれるなら全部あげますぜ。デュフフフフ。
「え? 本当に? 嘘だったりしないわよね?」
その陰キャな瞳で見られるとついつい萌えてしまいますぜ。
本当だよ本当。さすがにここで取り出すのはヤバい物品ばっかりだから出せんけど。
ドクササコだけなら出せるかな? ほれ、これでどうよ?
「……本物、ね。いいわ。まずは現物の確認、その後なら……私なんかの初めてであればくれてあげてもいいわよ。どうせ抱かれる相手も居ないし」
よっし、ゲット、ゲットじゃーっ。
「おい、嘘だろ……」
「Oh、神は死んだデースっ」
ナンパ成功でお持ち帰りされる俺。
おっさんたちにモテモテなジョージと福田が女性の頭の上に乗って酒場を去っていくウサギを見て思わず嘆く。
ふっ、負け犬どもよ、我が威光を見るがいいーっ。
「「なんでアイツばっかりっ」」
はーっはっはっはーっ。
勝者のウサギさんは高笑いしながら美女と去っていくのであった。
笑い声、出せないけどな。ぷぅぷぅ鳴らしまくるぜ。




