ウサギさん、魔道具屋に居た奴ら
町をぶらぶらしながらやって来たのは、こじんまりとしながらも独特の雰囲気を醸し出していた魔女の家、のようなお店だった。
魔道具屋らしい。
魔道具は雑貨とか道具屋とは違うらしく、魔法使い系の冒険者とかが出入りしている姿がよく見られる。
魔女っ娘ルックの女の子が可愛かったので思わずふらりと後付いて入ってしまったウサギさん。おどろおどろしい道具のかずかずが置かれていた。
まず店に入って最初に目にするのは家のドアに飾る魔除け道具。
普通に草花で編んだモノからドクロ使った物品まで、ところでこのドクロ、妙に人間っぽいんだけど本物じゃないよね?
さらに右の壁には一面のデスマスク。
左には箒やら杖が立てかけられた一角があり、魔道具店の異常さが醸し出されている。
デスマスクの横にはなんか良く分からないモノの群れ。マンドラゴラとかの瓶漬けモノも売られている。
おお、アレは妖精のミイラ!?
あっちは人魚の心臓!?
あれは? 人皮っ!? ひぃぃ、偽物でありますように偽物でありますようにっ!
その隣にあるのは人の皮を縫って作った人形らしい。目と口がしっかりと縫われてる首だけの人形だ。幸運のイヤリングらしい。
絶対無理だって。こんなん付けてる奴の絶対ヤバい奴だろ。
って、居たよ。めっちゃ目が隈だらけの黒魔術師さんが普通に幸運の首イヤリングしてやがるよ!? ついでにドクロのネックレスと人の指かたどった指輪してるよ。
こわっ!?
黒魔術師っていうか呪術師だな。ネクラ感が前面に出過ぎてて俺でも声を掛けるの躊躇してしまう。顔自体は好みなんだけどなぁ。
って、俺に気付いた?
「店主。あの兎は幾ら? 生贄に丁度良いわ」
ぼそぼそと告げるお姉さん。オイコラ、俺は売りもんじゃねぇ!
「あー、ん。3000ストナでどうじゃ」
店員は鷲鼻のおばあさん。どう見ても魔女。容姿も服装もれっきとした魔女の姿だ。
魔女狩りに会えば真っ先に捕まるザッ魔女といった御婆さん。ってコラ、何普通に売ってんだ!?
―― ざけんなっ! 俺は客だ客。売りもんじゃねーっ ――
「……だそうだけど?」
「ウチは使い魔お断りだよ。入ってきたら売りもんさね」
ざけてやがる。もういい、お前は俺を怒らせた。お姉さんはこの場で……
「はい、そこまでです」
ぬお、なんだーっ!? 誰か知らんが首根っこは止めろーっ。って。チェルロ!?
後ろを振り向けば、俺を捕まえたチェルロとユーリンデ、そしてイルラの三人がいた。
また三人かーいっ。
「残念ですがこれ、ウチの旦那なので商品にしないでくださいます?」
「おや? ウサギを旦那とは、ああ、レッセン王国で噂になった兎の妻侯爵令嬢様じゃったかいの。あんたかい」
「まぁ、私のこと有名になっていましたのね。あなた、私って結構有名みたいよ」
ユーリンデ、多分だけど悪い意味でとか同情的な意味でだと思うぞ。
一応第三王子に婚約破棄されてのウサギと結婚だからな。自分で言っといてなんだけど。
「あら、私は別に気にしておりませんわ。貴方の妻になれたこと、幸せに思っているわよ?」
「なんとまぁ……それにしてはそこの兎、客の尻追っかけて入ってきとったがね」
ぐふぅっ。見てやがったかこのババァ。
「ご主人様はエロ魔神ですから」
「そこは諦めてるわ。ウサギだし」
「成る程のぅ。しかし、変なウサギもいたもんだねぇ。あんた転生者かい」
なっ!? このババァ、ただもんじゃねぇ!?
「誰がババァじゃ! わたしゃ永遠の18歳じゃわい。きゃわゆいじゃろ?」
うっふん。っと投げキッスして来るババァ。うげぇ。気色悪いっ。
「なんかよくわからないけど……売りモノじゃないの?」
「違います」
「そう、残念。ところで、そっちの溶けてしまいそうな眩しい聖気を纏ってるのは、なぜ魔道具屋に来てるの。絶対に無縁な所でしょう。眩しいからあまり私の前に現れてほしくないのだけど」
お姉さん何気に毒吐くね。いや。これは毒なのか? いや、違う、陽キャを見付けてしまった陰キャの本音が垂れ流れただけだ。
ちなみに、彼女が指摘した女とは、ユーリンデの背後で釈迦か何かのように手で印を結んだまま神々しい神気を漂わせているイルラ様だ。
どうやら彼女は覚醒して仏陀か何かになってしまったらしい。
「確かにそんなに眩しい気は教会に行くべきだねぇ。ウチには迷惑だよ。帰ってくんな」
客に対してひでぇな扱い。
こんな店出ようぜチェルロ。
あ、それと黒魔術師のお姉さん。よかったら今度お茶しませんか?
「生贄になってくれるなら考えてもいいわ」
殺す気かっ!?
「だって、なんか物凄い上質な生贄になりそうだもの、魔神クラスでも呼び出せるかもしれないわ」
つまり、またディアリオさん降臨祭したい訳ですな。だが断るっ!




