ウサギさん、武器屋に居た奴ら
ギルドを後にした俺は一路武器屋へと向かった。
最近武器屋寄ってなかったからな。とりあえずウインドショッピングとしゃれこもうか。
おっと、ただのウサギだと追い払われかねないな。
タキシード着てシルクハット付けてネクタイ装備、ステッキ片手に出発といこうか。
ゆっくりと二足歩行ですまし顔のウサギさんが武器屋へと御入店。
いらっしゃい。とおばさんがにこやかに声を掛け目を見開き固まる。
どうやらここは家族経営みたいだな。
カウンターにひょろっこいおっちゃんが居て、今は冒険者と思しき女性に接客中。
息子だろう、お兄さんは商品の品出し中だな。
あそこでだべってるのは元道真廣、中浦沙希、上田幸次の三人だ。
変わった組み合わせだな。スポーツ組二人に中浦も居やがる。
「あれ? ウサギ?」
「磁石寺か。丁度良い。お前が判断してくれ」
いきなりなんだねチミたちは。判断? 真廣さんや。話の内容がわからんぜよ。
蝶ネクタイをぴちっと引っ張りながら大仰に歩いて三人の元へ歩く。
で? 何の話?
「うむ。この世界には刀や竹刀が無いらしくてな。西洋剣を使うしかないのだが、この二つならどちらがいいか、という話しだ」
「絶対このロングソードよ。安定してるわ」
「だからよぉ。この世界は強力な攻撃力があった方が使えるんだって。このフレアバゼラードにしようぜ」
「それ、確か見世物用だったじゃない。刀身が綺麗ってだけでほぼ装飾品扱いよ」
ああ、なるほど。現実の知識を持つ中浦が実用的な、実質片手剣のショートソードにしか見えないロングソード押し。
ゲーム知識で攻撃力の高さを重視する上田がフレアバゼラード押し。と。
で、真廣はどうなんだ?
「もともと私が使う剣を買いに来たんだ。二人はそのおすすめをしてくれている」
ああ、なるほどなー。
「で? どっちなの!」
「やっぱこっちだよ。カッコイイし強いし!」
こいつらなんでそんなテンション高いんだよ。
なんか熱くなってるのか?
そうだなー。んじゃ俺はこれだな。
俺が選んだのはロングソード、でもなければフレアバゼラードでもない。
つか俺にお願いすりゃ一発よ。
ほいよ真廣。
「な、なんだそれ……」
俺が何処からともなく取り出した神々しいまでに輝く剣を見て顔を引き攣らせる真廣。
「ちょ、ちょっと待て、何だよその剣!?」
「ちょ、鑑定したら凄い強いんだけど!?」
なんだよ、お前鑑定できたのか。だったらロングソードよりフレアバゼラードのが強いってわかるだろうに。
こいつはな、神剣ヘリザレクスっていうなんか神々しくってありがたそうな剣だ。
「い、いいのか? どう見ても市販の剣より強力なんだが?」
構わんよ。俺沢山持ってるし。
ただで手に入れたようなもんだし。おすそ分けしてやる。
「嘘……でしょ。あんなの一点モノじゃない!?」
え? そうでもないぞ。ほら、ほらほらほら。
ヘリザレクスをアイテムボックスから一つ二つ三、四、五。
「なんでそんなに持ってんのよ!?」
いや、だって隠すと増えるし? 暇な時とか増やしてるんだよ。
やることないし、もしもの場合使えるし。
折角だしお前らにもやろうか?
ほいよ上田。余ってるからハチェットやるよ。
うれしいだろ?
中浦には、ララリリクをやろう。お前には短剣がよく似合うよ。
「当てつけか!?」
「おい待てっ。なんでハチェットなんだよ。つかこれ売りもんであったぞ。かなりの安もんじゃねーか!」
はっはっは。冗談じゃないかー。
ほれ、聖剣ベルファウルをあげようじゃないか。
さすがに魔剣はいろいろ制約があったりで使いづらいからな。
いい効果しかない聖剣を差し上げよう。
「できれば真廣さんと同じのがよかったんだが」
テメーふざけんな。聖剣貰って文句言ってんじゃねー。
嫌なら返せ。男にくれてやるだけでも破格なんだからなっ。
「いや、貰えるもんは貰うって。ありがとよ。怒んなよ」
クソ、やるんじゃなかった。
やっぱ野郎はダメだ。感謝すらしやがらねぇ。
「あのー」
ん? 背後から声が掛かる。
控え目というか、あまり掛けるのは躊躇うけど勇気を出して声掛けよう。といった意識でかけられたような声だ。
誰かと振り向けば、ここの息子さんだった。
「もし可能であれば、なのですが、そのヘリザレクス、余っているようならウチに卸していただけませんか?」
武器屋が商機と思って近づいて来やがった。
まぁいいか、その代わり条件がある。
S級冒険者クロウから譲って貰った剣だとしっかりと記入しといてくれ。
S級冒険者のお墨付きということでさらに売れそうになったので、むしろ率先して喜んでくれた。
これで、クロウへの嫌がらせは成功と言っていいだろう。
風の噂で神剣が安売りされてたって聞いたクロウがどう思うか、今から楽しみだぜ。




