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セシリア、どうしよう、ロスタリスに帰れない

 セシリアは今、コーライ村の宿屋に仲間の兵士たちと宿泊していた。

 彼女はロスタリスの女性兵士の一人、高藤桃瀬たちの護衛として行動を共にしていたのだが、ロスタリスに戻った際に現状報告を行って以来通常任務に戻っていた、はずだった。


 しかし、なぜか王女が魔族に攫われ、それを助けると宣言した勇者は魔族と共謀して王女を攫ったとして投獄され、その勇者を助けるために無数の勇者となぜか王女が助けに来て、そのまま魔族領に向かったらしい。

 意味が分からない。とくに王女様が攫われたのに助けに来て一緒に魔族領に向かったというところがもう、分からなさすぎる。


 とはいえ、彼女の任務にその辺りは関係ない。

 国王から直に下された命は魔族領に向かう勇者たちに同行し、王女を救出する手助けをすること。

 その為だけに追って来た。

 でも、一足違いで桃瀬たちは魔族領に入ってしまったそうだ。


 だから後を追おうとした。

 すると遠方で物凄い魔法が連発して地面に放たれるのが見えた。

 皆、恐怖に竦んで魔族領に踏み出せなくなった。

 で、今に至る。


 魔族領に一番近いコーライ村で数日を過ごした。

 だが、皆ここから先に向かおうとする意見すらなかった。

 リアという名前の看板娘とお話したり、日がな一日ぼーっとするばかりで一日が過ぎていくのだ。


「どうしましょう……」


「あにがー?」


 食堂に降りて朝食を食べながら呟く。

 ここで仲良くなった黒髪の冒険者が肉まんというものをぱくついている。

 彼女が齎した食べ物らしく、この宿屋兼用になっている酒場でしか味わえない饅頭型の肉料理である。


「王命で高藤様方に合流しなければならないのですが、魔族領に入る気になりません」


「あー、そりゃ賢い、ただの兵士程度が魔族領に踏み込んだら一瞬でちょんぱですわ」


「ちょ、ちょん……?」


「魔族のことなんにも知らないっしょ。簡単に言えばS級冒険者が村人やってるようなもんよ。あんな場所死にに行くようなもんだって。無理よりの無理っすわ」


「やはり、あの魔法の規模はそのまま敵の戦力だったか……つまり、もう既に勇者様方は……」


「いやー、でもライゼンさん付いてったんっしょ。大丈夫じゃない?」


「で、ですが……」


「まぁ、何人かは死んでるかもだけど、そこまで心配しなくてもいいんじゃない。それよりもあんたたちこれからどうすんの?」


 その通りだ。

 桃瀬達の心配をするよりも、ここから先に行けずにいる自分たちはこのままだとロスタリスに戻れない。

 かといってここに居る訳にも行かない。

 もしも姫が死んでしまっていれば、自分たちの命はロスタリス王国に戻った時点で死刑確定である。


「もーロスタリス戻るの諦めてさー、あちしと一緒に冒険いかね? とりあえずコロアあたりにクロウさん尋ねてさ、どうよ?」


「そう、ですね。私一人ならソレも選択肢に入るのですが、あいにく私は代表で騎士団を預かる身。さすがに責任と言うものが、ですね」


「責任なんざ取ったっていい事なんか一つもないわよ。わざわざ苦労背負いにいくとかどんなドMですかね。私を処罰してくださいって? 無理難題告げる方が悪いっつの」


 ま、あたし関係ないしーっと指に付いた薄皮を舐め取る黒髪の冒険者。

 認めたくないが言い分は最もだ。

 騎士だから、とわざわざ無理でしたと報告して処罰を受けるのは愚の骨頂。しかもそれが死刑確定と分かっているのに報告に向かうとなれば、確かに自分を地獄に突き落とすのが趣味な人でしかないと言える。


「確かに、一緒に付いて来た従者たちの目が人殺しにしか見えないのよねぇ、あれ、絶対私の監視役だと思うのよ」


「いやー、あたしから見りゃあれは暗殺部隊っしょ。大方あんたが勇者たちに追い付いたらあいつらが殺す手はずだったんじゃない?」


「まさか!? いや、そんな訳が……」


 否定しようと思ったが、何故か否定出来なかった。

 国王の言葉が状況と合ってないのは分かっていたのだ。

 監禁し、処刑直前だった勇者が脱走したのに、追手を差し向けることなく手伝って来い。

 セシリアとしても、何かおかしいと思うレベルの不自然さ。


 黒髪冒険者の言葉を受けたことで疑惑が噴き上がり始める。

 アレらの総大将になっているが、それだってなぜ自分がという疑問が付いてくる。

 それでも、勇者たちと知り合いだからっていう理由だと自分に言い聞かせていた。

 だけど、果たして本当にそうだった?


 暗殺部隊?

 誰に対しての?

 自分が選ばれたのは?


「おおかた、勇者が油断する知り合いであるあんたを囮にして他の部下は全員隙を見て暗殺を行うための存在なんじゃないかしら?」


「うわー、じゃあなおさらここに居る訳にはいかないですね」


 黒髪の冒険者と二人で冒険、それもアリかな、と思い始めるセシリアだった。

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