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孝作、自宅みぃつけた

 鏡音孝作ことハーピーは、本日も適当な高所で羽を休めていた。

 何度か死のうとは思ったモノの、やっぱり自殺は怖くて無理だった。

 ゆえに、必死に生きて来た。


 気が付けばレベルも上がり、凶悪な敵相手でも死線を潜り抜けるだけの実力を身に付けてしまっていた。

 だから、簡単には死ねない。

 仕方なく、ハーピーは家を探すことにした。

 安全に眠れる場所だ。このままハーピーとして生きる以上安心できる場所がないと辛い。


 今は根なし草の適当な高所で寝るだけの生活。

 周囲は警戒しないといけないし、雨が降れば気温が下がってすごく寒い。

 豪雨の時などは死を覚悟したほどだ。

 一度など巨大な蛇が木に登って来て丸呑みプレイされそうになって慌てて腹を切り裂いて脱出した。

 最大HPがかなり減ったのは嫌な思い出である。


 そんなハーピーは本日、ついに自分に相応しい塒を見付けた。

 古ぼけた城と思しき蔦や苔に塗れた古代の城。

 森の奥地にひっそりと、きらめく木漏れ日を浴びて待っていた。


 空を飛んでいたら見付けたのだ。

 なんか変な場所がある。

 だから興味を覚えて降りてみた。


 緑の塗れ苔むした城は、どこか懐かしさと寂寥感を覚える不思議な場所だった。

 地面に着地したハーピーはゆっくりと城に近づく。

 なぜだか直接城に入るよりも周囲を散策しておきたくなったのだ。


 大自然に還った昔の城。

 たまに木のような兎が近くを跳ねている。ウッドラビットとかいうらしい。

 食べても美味しくなさそうなので放置だ。向こうも危害を加えられないと分かっているらしくこちらが近づいても全く気にしていないらしい。


「危機感が足らないんじゃないかこいつら?」


 呟きながら荒れた城内へと入る。

 埃臭い内部は光が届く辺りまでは砂や緑が侵入しているが、それ以上先は埃が降り積もっているだけのようだ。

 城だけあって内部は広い。

 ひんやりとした空気を感じながらゆっくりと入る。


「鳥目だから暗闇は見えねぇんだよな。風で気配は読めるから歩くのに支障はねぇんだが」


 城内は埃すらないらしい。

 空気が止まっている、というよりは今もまだ内部は掃除されているような気がする。

 しかし、誰かの気配は感じない。


「丁度良い。ここの部屋一つ使わせて貰うか。ハーピーが寝泊まりするにゃ不要な場所だが、ベッドに寝るのも久々なら有だよな。つか風呂ねーかな。身体中が痒くてかなわねぇ」


 しかし、ドアを調べるとかなりのドアに鍵がかかっている。

 唯一開いていたのは入口にほど近い一階の通路にある扉。どうやら客間のようで、簡素なベッドが一つあるだけだった。

 夜露が凌げることはありがたいが、これだけしか使えないというのも少し辛い。

 風呂でもないだろうか? と、この城の探索を行うことにしたハーピーだった。


 初めは使用人用や客間だろう。無数のドアが立ち並ぶ廊下を歩く。

 生物の気配は無い。

 ただただシンとした冷たい通路があるだけだ。


 一階を見て回ると次は二階に向かう。

 王城らしく謁見の間に多くの空間を使っているようだ。

 さらに王族用の生活の場は謁見の間を通らないと向かえないようになっている。


 王族の部屋にはドアはあれども鍵は無かった。

 不用心だが寝床にはこっちの方がいい気がする。

 でも、今ここに寝転ぶのはあまりいいとは言えない。

 なにしろ自分は今、凄く汚いからだ。

 風呂に入れていないから獣臭が凄い。さらにノミかシラミか分からないが謎の虫が毛の中に住んでいる。


 掻いても掻いても痒いのだ。こいつ等はなんとか消滅させてやりたい。

 しかし今の自分にはこれを撃破する術が無かった。

 なので今は我慢して共存するしか道が無いのである。


「しっかし、なんかいい方法ねーかいなっと。お。やっぱ王族じゃん。風呂場発見!」


 風呂場というよりは部屋の一部をくりぬいて水を入れたような場所だ。

 一応まだ可動しているらしく湯が張られ、ドラゴンと思しき掘り物から湯が出ている。


「おー、使えるじゃん。しかも温度もちょうどいい。誰か住んでんのかってくらいいいじゃねぇか。こりゃいい物件見付けたな」


 広い風呂だ。翼を少し入れて温度を確かめたが、少し熱いくらいで入るのに問題は無い。

 誰もいないので当然の如く飛び込む。

 ざっぱーんと熱い湯に全身を投げ込み、ぷはっと顔をだす。


「あー、これこれ、やっぱ日本人っつったら風呂だって。はー、久々ぁー」


 服などない常に全裸のハーピー生活だった。

 ゆえに汚れた身体は風呂に入った瞬間汚れが周囲に飛び散り、湯を汚して行く。

 しかし、その汚れた湯は掛け流しの湯船から排水溝に入り、どこかへと排出されていく。


「全身余すところなく洗ってやんぜ。クソノミ共、貴様らとの生活も今日でオサラバだ。ひゃっはーっ!!」


 ちなみに、ノミたちは温度が熱すぎて死滅したらしく、以後ハーピーが痒身に悩まされることは無かったようだ。ただ、熱い湯だったせいでのぼせ掛けたことは彼女だけの秘密である。

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