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べルクレア、藪を突き過ぎて出したモノ

 ―― 進化開始、パンデミック・ラビット ――


 ウサギの言葉が聞こえた。

 その瞬間、ウサギの身体がひび割れる。

 黒く染まっていく毛、割れ始める皮膚。赤黒く変わり、奇妙に脈打つ浮き出る血管。


 バケモノウサギだったうさしゃんが本当に醜悪なバケモノへと変質していく。

 目が飛び出そうなほどに膨らみ、赤い瞳がさらに赤く怪しく輝く。

 ボコリボコリと皮膚が割れ、気泡のように膨らみ弾ける。

 赤き涙を垂れ流し、悲鳴のような呻きが漏れる。


 異変を察した全員が足を止めていた。

 誰も近づこうとすら思わなかった。

 本当ならば、進化中に殺してしまえばいいはずなのに、である。


「パンデミック……ラビット?」


「な、なんだ、この感覚、わ、儂の危機察知スキルが反応しておる!?」


「お、おい、クロウ、この纏わり付く嫌な感覚、ヤベェぞ!? 今までの比じゃ……」


 ―― ワールドミッションが発動されました。コロア地方レパーナの森近郊にて、ワールドエネミー・うさしゃんが出現しました。種族名はパンデミック・ラビット。世界中の勇者たちに次ぐ、世界を守るため早急に駆除してください ――


 天からの啓示があった。

 機械のように冷たい声で、災厄の存在が誕生したことを世界中に告げていた。


「なん……ワールド・エネミー?」


「世界の、敵? どういう……」


「どうもこうもあるかッ! とにかくやるぞ!」


「待ってください! ダメです、う、迂闊に近づいたら……死にます」


 マイケルが特攻をしかけたその刹那、べルクレアは必死に声を荒げて叫ぶ。

 ウサギが変化する前になんとか倒そう。

 そう思った面々はべルクレアの悲痛な叫びに足を止める。


「べルクレア? 確かに殺されるかもしれん、だが……」


「違います、そうじゃなく、近づくだけで、死ぬんですっ! 逃げましょう、今すぐ、これは、私達には無理ですっ」


 意味が分からない。

 だが、べルクレアの憔悴具合でウサギが進化したナニカが致命的に危険であることは容易に想像が付いた。

 これを無視して突撃するには、S級冒険者たちは賢過ぎた。

 さすがに無視できないと、皆がべルクレアの元へと集まる。


 が、森の魔物、とくに雑魚に類する者たちはそんなこと気にもせずにウサギに殺到する。

 そして……悲劇が起こった。

 先頭を走っていた魔物達が急に狂ったように身体を掻きむしりながら立ち止まり、のたうち回る。

 泡を噴いてその場に倒れ、痙攣しながら息絶える。


 ウサギに近づく者全て、どんな魔物も、どんな菌に耐性を持つ者も、等しく暴れ狂い倒れ伏す。

 さすがにマズいと本能で悟った実力者たちは一歩引いた場所で待機していたのでことなきを得たモノの、起きた惨状に言葉を忘れて魅入っていた。


 近づいた魔物達全てが動かなくなる。

 ゆっくりと、動き出すうさしゃん。

 産声を上げるように咆哮。

 禍々しい声にべルクレアは恐怖を覚えた。


 ―― なんてこった。だからやめろって言ったのに…… ――


 ―― ワールド・エネミーか、確か1000年ほど前現れたオークが居たな。アレは飽食、グラトニーのスキル持ちだったが、今回はさらにヤバそうだ。七大特性は……怠惰か。ディアリオだったか、我を包んでいるこれがそなたの防壁だな。しかし、これだけでは少々心もとない。我にも保護対象リストを送ってくれ。こちらからも二重に防壁を掛ける ――


 ―― 了解したドルアグス殿。それにしても神よ、確かヘリザレクシアのザレクだったか? 少々遊びが過ぎたようだな。追い詰め過ぎだ。ウサギが奥の手を発動させてしまった。この始末、どう付けるつもりだ? ――


 ―― わ、儂だってこうなるとは思っとらんかったわいっ。どうにか逃げ切ると思っとったんじゃーっ。あと駄女神が変に弄ってワールドエネミークラスの災厄を仕込んどったのが悪いんじゃーっ ――


 なぜかここに居ない誰かの会話が空中に散布されている。

 べルクレアは困惑しながらも、鑑定で見てしまったスキルを仲間たちに知らせる。


「お、落ち付いて聞いてください。アレはワールドエネミー級。つまり現在世界に一体しかいないウサギ種です」


「世界に一体……希少種って奴か?」


「いえ、ワールドエネミークラスですので……」


「危険災害級だクロウ。現在じゃ神話に出て来るレベルの凶悪な世界の敵。人間云々ではなく放っておいたら人間も魔物も世界中が等しく滅ぶ、それくらい危険なウサギになっちまった訳だ」


「あれが? 確かに近づくだけで死ぬのはヤベェけど……」


「ち、違うんです。アレは、近づくだけで死ぬんじゃなくて……ゾンビ化させるんです」


 べルクレアの言葉に皆が耳を疑った。


「ゾンビ……化?」


「種族スキル、パンデミックZ。自身の周囲に絶えずゾンビ化するウイルスを散布。まだレベルが1なので半径3m程が空気感染範囲です。感染した存在は人間魔物魔族に関係なく等しく即死毒を付与。この毒で死んだモノはすぐさまゾンビ化して蘇り傀儡として、パンデミックZを撒き散らしながら生者を襲い始めます」


「お、おいおい……それって……」


「今、森の魔物達が大半死んだ……よな?」


 ゆっくりと、彼らは視線を向ける。

 パンデミック・ラビットの周囲で死に絶えた魔物達、それらが醜悪な容姿となって次々に起き上がり始めていた……

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― 新着の感想 ―
[気になる点] パンデミック 時期的に少し不謹慎かなぁと思ってしまった 内容的には面白いんだけどね・・
[良い点] パンデミックは伊達じゃない! [気になる点] この神どう責任取るつもりだろうか? [一言] 進化前に状態異常てんこ盛り食らってたのってどうなってるんだろう? うさしゃんの今後が楽しみでなり…
[良い点] 簡単に収まるとワールドエネミーの看板に傷が付くから、ディアリオ赤ちゃん達の防壁も、うさしゃんのレベルアップで弱まっていくと面白いです。 [一言] うさしゃんの自我に賭けて、進化を促すしか…
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