べルクレア、13のS・7
霧が晴れた。
ウサギの姿は既になく、謎のボックスだけが中央に残っている。
そのボックスが毒霧を全て吸い込んでいるようだ。
「クソッ、逃げられた!?」
「まぁ、待て、まだ遠くには行ってない。我が索敵を逃れてないからな」
ドランクの言葉に皆安堵する。
「つか、クロウの転移使えばすぐに追い付けるだろ」
「そりゃそうだ。で? 奴は何処に向かった?」
「向こう側だな。真っ直ぐに向かっている。おそらく森から脱出するつもりらしい」
「ったく、S級が揃いも揃って逃げられるとはな。マックスはガイ、マイケルはクロウ背負って追ってきな。行くよパオ!」
「はいな! って、あれ? リクゥーどこいった?」
「そういえば見当たりませんね」
「リクゥーの反応ならこの先だ。まだ霧が掛かったままだが、あの辺りにい……おい、リクゥー? リクゥーッ!?」
霧の中、そいつはいた。
なぜか地面につっぷし、見せられない顔で痙攣する一人のロリババァが……
「クソッ、やりやがったあのウサギッ!」
「ちょ、ちょっと待ってください、こ、これって……」
「ウサギが今回討伐依頼出された最大の理由は、女性なら見境なしに襲うからだ。もう、すでにリクゥーは使いモノにならんな……」
「マジか……」
「マイケル、リクゥー寝取れんか?」
「無理言わないでくだサーイッ!? 私妻一筋デース」
妻、いたんだ。
思わず出掛けた言葉をべルクレアは飲み込んだ。
コルトエアが代表するようにリクゥーを抱えあげる。
「べルクレア、あんたこいつを連れてってやんな。どうせ今のあんたじゃ付いていけない状態だろ。アタシらの動きを見てS級ってなぁどういうもんか学びな」
「はっはっは、言うじゃないかコルトエア。べルクレア。こんなこと言っちゃいるが、コルトエアなんざ何も考えず突撃している第一人者だからな。参考にするだけ無駄だぞ。ただ先輩風吹かせたいだけだからな」
「なっ!? マックステメェ!?」
「それより急ごう。ドランク、補助を掛けてくれ」
「へいへい。スピードハイブーストでいいか? ああ、いや、面倒だ。全部掛けといてやる」
「大盤振る舞いね。じゃ、先に行っとくわ」
「待て待てストナ。リクゥーがどうなったか分かってない訳ではないだろう。女性一人で行くなバカもの」
「むぅ、しかし……」
「ともかく、単体で向かえばリクゥーやガイのようにされかねん」
「うをい、待ってくだサーイ!」
ようやく復活したらしいマイケルが駆け寄ってくる。
皆して無視してウサギを追おうとしていたので、回復直後に慌てて走ってきたようだ。
おそらくだが、身体が真っ二つになっていた彼は拾うのがめんどうだったし、その内回復するので放置することにしたらしい。
実際にはウサギの使ったスキルが切れたため身体が自動でくっつき動けるようになったようだ。
マックスの話では使われたスキルは人体切断マジック。
攻撃ではなく身体が真っ二つになったように見えていたスキルだったらしい。
つまり、幾らマイケルの回復力がケタ違いだろうとも、全く無傷の状態をどれだけ回復しても動ける訳が無かったのだ。根本から想い違いをしていたのだから。
マイケル自身はダメージすら喰らっていなかったのである。
「マジックスキルか、意外とやっかいだな」
「ボックスマジックとかいうのがあそこに残ってるボックスだ。もうそろそろ時間経過で消えてるだろうがな」
「確か、あの中に入った物は消えうせる、でしたっけ?」
「そうらしい。御蔭で風圧操作と合わせることで毒霧を無力化したようだ」
「畜生、僕の毒がここまで効かないなんてっ」
「そもそもあのウサギ、毒効いてなくないか?」
「あ、それはアタシも思ったネ」
毒が効いてない?
確かに、毒霧以外には気付いてない様子だったがマージェスの毒は見えない状態でも兎に作用していたものがいくつかあったはずだ。
事前に説明を受けたべルクレアもマージェスから渡された万能抵抗薬というものを飲んでおり、森の中では常に無数の毒に晒されながら闘っていたはずである。
「毒耐性が高いのか? 病気系の毒も混ぜたんだがな」
「そう言えば、誰かウサギの鑑定してます?」
「あー、してないな。どうせすぐ狩れると思ったし」
「ありゃただのウサギじゃないぜ。確かに鑑定しといて損はなさそうだ。クロウ起こして転移しようぜ。ここからだとウサギの方が速いって、一気に先回りしよう」
確かにその通りだ。と冒険者達はクロウを気付け、起こすことにした。
転移直後にウサギを一斉に襲いトドメを刺す。
リクゥーだけは反逆の可能性ができてしまったので気絶したままにすることにした。
「さて、森を抜ければ遮蔽物はない。皆、それがどういうことか分かるな?」
「ウサギの逃げ場が広くなる、ゆえに逃げ場が狭くなる」
広くなるのに狭くなる?
否、広くなるからこそ、逃走先が狭まるのだ。
S級冒険者からは逃げられない。
それを、彼はこれから味わうことになるのである。




