うさぎさん、13のS・2
「よし、なら魔法を撃ち尽くさせてやるぜ!」
冒険者達が一斉に動き出す。
当然全体魔法を放つウサギさん。
凍結魔法を使い、周囲を凍て付かせる。
「甘いぞ」
リクゥーが息を吸い込みドラゴンブレス。
おまっ。それ周囲巻き込む……って炎が小さい?
「むっふー」
「いや、ドヤ顔しても……ちゃんと調節できるんだぞ、くらいは伝えてやらないとそれがリクゥーの実力だと勘違いするぞ?」
ストナのツッコミに、しまった!? と焦るリクゥー。
つまり、今のは手加減して火炎の量を調節したということらしい。
それはドラゴン族には至難の技らしく。火炎量を調節できる個体は頭一個分自慢になるらしい。
うん、どうでもいいわっ。
しかし凍結魔法はリクゥーに潰される、か。
火炎魔法は森焼きそうだし。
んじゃ土魔法だな。そーれ!
大地が隆起し、アトエルト一体を空高く吹き飛ばす。
ぬおぉぉぉっ!? と叫び声上げて空の彼方に消えてった。
よし、これなら全員吹っ飛ばせ……
「ふはは、堅い地面が俺を呼んでるぜぇ、この殻割って見せろってよぉ!!」
って、うそーんっ!?
拳一撃で隆起した地面が波打ち魔法自体の発動が破壊された。
何ソレ、意味がわからんっ!?
「なんだぁ? 魔法ってな拳で破壊出来たのか。新発見だぜ」
「殻割りの、おまえさんホント意味不明だな」
リクゥーに言われたくないと嫌そうな顔をしつつ、ローエンがこちらに獰猛な笑みを向けた。
「テメェがどれ程魔法を使おうが、俺が砕きまくってやるぜぇ!」
あかん、調子乗らしたらとことんまで調子に乗るタイプだ。
「クタバレやうさ公ッ!!」
近づいてくるローエン。
慌てて凍結魔法。
拳の一撃で粉砕される。
風魔法。
拳の一撃で霧散する。
岩石魔法。
拳の一撃で爆散した。
「がははははは! 次はなんだ! どんな魔法でも割ってやるァ!! 皆俺に続けぇ!!」
こりゃやっべぇわ。
仕方ない。
奥の手を一つ切ろう。
自動魔法連射、発動。
「おおっ!? すっげぇ連射できんじゃねーか! がははははははっ! いいぞ、いいぞウサ公!」
連続で適当に全体魔法を唱えて行く。
どうやらループもできるらしく、最初に決めて発動してしまえば属性魔法をループで連射できるようだ。
MPが凄い勢いで減っていく。
おっさんが物凄い笑顔で魔法を打ち砕いて行く。
「た、確かにこのウサギかなり凄いな。連続広範囲魔法とか、普通の冒険者じゃ勝てないぞ?」
「まぁA級では無理だろうな」
「あの、流石に私も無理っぽいんですが」
「べルクレアは俺達の域に来たばっかだろ。こいつ等と一緒に考えたら潰れるぞ? 下地が出来ただけでそこからの研鑽が大事だからな。自分はまだA級と思いながら闘う方が伸びやすいかもしれん」
「そ、そうですね。それにしてもクロウさん、あれ、長くありません?」
もはやウサギの姿はシルエットのみ。
無数の広範囲魔法が全S級冒険者向けて放たれているため近づくに近づけない。
ローエンが物凄い速度で魔法を割り砕いて行くが、その速度ですら連射される魔法に追い付かない。
「あ、ああ。うん。そう、だな」
ああ、やっぱり。
クロウは見た。
シルエットのウサギが何かを飲んでいる姿。
間違いない、ウサギはMP回復薬を持ってる。
しかも一本や二本じゃない。
滅茶苦茶飲みまくってやがる。
「クソッ!! どうなってやがる!?」
「ありえん、これだけの大魔法だぞ!? なぜ連発出来るんだ!?」
皆、戦慄を覚えずには行かなかった。
確かに、ダメージはまだ喰らっていない。
割り砕く速度に他のメンバーが加わることで大魔法は全て無効化出来ている。
だが、おかしい。
あのウサギがこれほどの魔法連射を可能にしているスキルが全く分からない。
MPは早々に枯渇しなければおかしい。
回復スキルを持っていたとしても絶対に底を突く。
いくらなんでも連続で使う大魔法の消費速度を越えたMP回復など出来るわけがないのだ。
それこそ、無限に一気に回復出来る手段を持っていないと説明が付かない。
「……クロウ、さん?」
そして、べルクレアはクロウの横で見学に回っていたからこそ気付いた。
物凄い焦った顔で脂汗を浮かべている。
明らかに変だ。
「な、なんだ?」
「あのウサギのからくり、知ってますね」
「ぎっくぅっ!? な、なんのこと、かな?」
「今ならまだ傷は浅いです。致命傷になる前に吐いた方がいいですよ」
ごまかそうとするクロウだったが、悟ってしまったらしいべルクレアの言葉で観念する。
「あー、皆、そのまま聞いてくれ。ウサギな、隠すと増えますっつースキル持っててな。俺、ずっと前に超高級なMP回復薬渡したんだわ……」
あはは、と頭を掻きながら告げるクロウ。当然ブーイングの嵐が始まった。




