天音、レパーナ親衛隊9
スラ子……もはや年下の女の子にしか見えなくなったスラ子ちゃんは狒狒爺にくっついたままでエフィカさんに怯えている。
よっぽど怖い顔していたようだ。エフィカさんは怒らせないようにしよう。
磁石寺君、この人襲っちゃダメだよ。本気で殺されちゃうよ?
「次のメンバーは誰じゃな?」
「ああ、僕たちだな。正直勝てる気はしないが」
「うん、胸を借りるつもりで行きます」
「ふむ。ならば多少ランクを落とした方がよかろうな。ガルエルト」
今度はガルエルトさんという魔物らしい。
対戦するのは中井出勧、瀬尾祷、戸塚葉桐、イルラ、中浦沙希の五人。
五人ってどんな闘い方するんだろう? 実際にパーティー戦見てないから不安だな。
もしかしたら一瞬で片付くかも?
森からガルエルトさんが現れる。
その姿は……まさにバケモノだった。
簡単に説明するなら腐ったゾンビ犬の顔を持つトラ?
顔だけなんというか骨の見えた犬なんだ、ちょっと吐きそうになりました。
「ガルエルトは不死犬の一種でな、ちょっと見てくれは人間に悪いらしいがの、なかなか知識人なのじゃ」
魔物なのに知識人。知識物で良いんじゃないだろうか?
それにしても、アレには咬まれたくないし出会いたくないなぁ。
「あの種類の魔物ってどの辺りに生息してます?」
「ふむ? 基本はセナウ近くの死の砂漠などじゃな、あそこらへんは儂でも危険な魔物が多いんじゃ。意思疎通不能なのも多いからヤバいヤバい」
最西端の村だっけ? 行った事はないけど噂は何度か聞いた事がある。
なんでも恐ろしい魔物しか居ない砂漠というか荒野が広がっていて日夜激しい生存競争をしているのだとか。
絶対に行きたくない場所ナンバーワンである。
「やっぱり、強いんですよね?」
「前もって猛毒系のスキルや噛みつき、引っ掻きは行わないように告げておる。全身が毒素に塗れておるからな。下手に斬り付けると毒を受けるぞい」
「成る程、闘う前にいい情報だ」
私と狒狒爺の会話を盗み聞きしていたらしい中井出君がメガネをくいっと持ち上げる。
「全員、戦闘態勢。俺が指示を出す! 装備は遠距離、中距離特化。イルラと瀬尾がメインアタッカーだ。戸塚と僕は近距離で足止めだ。中浦、お前は中距離から狙い撃て、イケるな?」
「ええ。弓は得意じゃないけど、一応それなりに使ってる」
「よし、頑張るね」
「ん」
瀬尾とイルラが武器を構え……武器? 瀬尾はスタッフっぽいのだから杖でわかるんだけど、イルラの手に持たれてるの……数珠?
「シャコタンで特注したミスリル数珠。うらやま? あげないよ?」
いらないよ。ミスリルなんて高級素材で何作らせてるの!?
「数珠って攻撃道具なの?」
「魔力を乗せる媒体であれば杖じゃなくてもいいって聞いた」
そうだったんだ。
あれ? じゃあ杖みたいなかさばるの持たなくても腕輪に同等の補助能力付ければ、何時でも攻撃出来るんじゃ?
町に戻ったら特注しちゃおうかな。
折角だから自動で一つか二つ魔法飛ばせるように仕込んでみよう。
待てよ、腕輪を魔力媒体にして魔法飛ばせる指輪を作れば十種類の魔法を瞬時に操れるのでわ?
あ、これ、凄いこと思いついちゃったんじゃない?
磁石寺君、私物凄いレベルアップしちゃうかもだよ。
「ふふ、うふふ……」
「ひぃっ!? 天音さんが黒い笑みで笑ってる!?」
「あぁん、そんな天音も素敵、抱いてっ」
私の傍で私を見ていたらしい赤穂さんが引いた顔で驚き、美与が顔を赤らめ身体をくねくねさせていた。
失敬な。私そんな黒い笑みとかつくらないよ。
「開始ッ!」
結局狒狒爺さんが開始の合図言うことになってるんだよね。
狒狒爺さんの合図とともに動き出す双方。
かなり速いガルエルトだが、中井出君もそれに反応出来ていた。
少し遅れているが、戸塚さんも充分に反応出来ている。
突撃して来たガルエルトを二人が剣の平で受け止める。
中浦さんの矢がガルエルトに放たれ、額に突き刺さる。
タイミングバッチシだ。そして剣で阻まれたガルエルトから体液がぶっしゅと飛び出す。ばっちぃだ。
イルラさんと瀬尾君の魔法も完成。
バックステップで逃げたガルエルトに魔法が直撃。
おお、イルラさんの放った魔法はトリモチ……なんでっ!?
そんな魔法あったっけ?
瀬尾君の魔法はただの攻撃魔法だ。光属性の一撃を受け、ガルエルトが思いの外ダメージを負っている。
意外と強いんだこのチーム。
と、思ったのはここまでだった。
自力でトリモチを引き剥がしたガルエルトが剣に噛みつき奪い取ると、攻守が逆転。
一撃で戸塚さんが潰され、魔法が放たれると直撃した瀬尾君が吹っ飛び、驚いたイルラさんに剣が投げられる。
焦った中井出君に突撃したガルエルトの体当たりで中井出君が気絶。
ぎりぎり間に合った中浦さんが剣を弓で弾き、イルラさんを救うが、弓が壊れる。
武器を無くした中浦さんの目の前でイルラさんが体当たり喰らって押し倒され、ぐばぁっと大口開けたガルエルトがイルラさんにくらいつく寸前で狒狒爺さんから「それまで!」の合図が出たのであった。うん、完敗です。




