天音、レパーナ親衛隊5
「それじゃ、次の単体参加は……アーボか」
私がアーボを地面に置くと、転がるように戦場へと向かう。
あ、途中でこけてころころしてる。可愛い。
武装はアイテムボックスみたいにどこかに出し入れ可能になってるから通常は武装解除状態で四肢の付いたアボカドなアーボ。戦場に付くと同時にアイギスの盾とロンギヌスの槍を装備する。
―― おっと、待て待てアーボよ。今回はウサギのアイテムを装備してやってみろ。後、ステータス増加など我が与えたスキルは使わないように。限定状態での闘いも覚えておくがいい ――
ディアリオさんかららしい念話が全員に届き、アーボの前に青銅の槍がカランと落下して来る。
ディアリオさん、本当にチートだなぁ。
唐突に槍送って来るし。アーボの装備は固定のはずなのに装備解除可能にされてるし。
今って磁石寺君に乗って野山を駆け回ってるんじゃなかったっけ?
アーボは言われるままに青銅の槍を取って構える。
盾の方はそのままのようだ。
鉄壁さだけで勝負しろってことらしい。
「ふむ。槍使いか。ならこちらも槍使いの方が良いな。リンドバック、主が良いのではないか?」
森からまた新たな生物が現れる。
サイだ。二足歩行のサイが青銀のフルプレートを装備している。
同じく青銀の意匠を凝らした盾と、槍、ではなくランスを装備し、アーボの前へとやってきた。
アーボが両手をあげて驚いている。
頭抱えるようにして飛び跳ね出し、えらいこっちゃえらいこっちゃとその場で回るように飛び跳ね始めた。
実は結構楽しんでるよね。コミカル過ぎて本当に焦ってるように見えないのがなんとも……
ガロワさんの開始とともにリンドバックの一撃がアーボを貫かんと放たれる。
それこそ、先程のゴブジロウよろしく、目に見えないほどに速い突き。
だが、アーボもまた意味不明な進化をしている特殊個体。
ぎりぎりで反応し、アイギスで受け流す。
「むぅ!」
まさか反応されるとは思っていなかったのだろう。
おそらくゴブジロウと同じく寸止めで一殺目。とか言おうとしたのかもしれない。
しかし、思いの外実力があったらしいアーボに、一気に気を引き締める。
「成る程、ただのアボガードではないか。楽しませて貰おう」
重戦士という言葉がぴったりとくるリンドバック。まるで重装甲車のように近づき、戦車の砲撃の如く苛烈な突きを放つ。
スキルの一部を封印され、自慢のロンギヌスも使えない状態で、アーボはこれにぎりぎり反応を見せる。
正直ガロワとシュリックがあまりの衝撃に歯ぎしりしながら真剣に魅入る程。アーボの実力はリンドバックに肉薄しかけているのだ。
多分ロンギヌス持ってたらいい勝負になっただろうし、スキルが全て使えるなら圧倒していたかもしれない。
それを見越したディアリオさんがアーボのスキル無しでの実力を高めるために、そして向こうの矜持を守るためにチート武器やスキルを使わないように言ったのだろう。
聞いた話でしかないけど、エリスエールさん殺しかけたらしいし。ボルバーノスさんが阻止しなかったら守護者殺し行ってたかもしれないらしい。
磁石寺君が一緒だったとはいえ、そこまで実力が上がっているってことが驚きだ。
その内私が見限られないか心配になって来る実力だよ。
そのまま魔王になったりして敵対しないでね?
リンドバックの猛攻を受け流し、千の刺突に一の刺突を返す。
正直押されてるのは目に見えていて分かりやすい。
しかし、アーボの一撃はリンドバックの絶大な隙が出来る瞬間に放たれるのだ。
最初こそ焦ったリンドバックだが、初撃を盾で受け流せた彼は警戒を強めながら闘い始め、アーボの一撃は一層通らなくなった。
でも、拮抗している。
徐々に押されているけど拮抗してるように見える。
つまり、アーボはガロワさんやシュリックさんが赤子の手を捻られるように敗北したレパーナ親衛隊の皆さんと実力が拮抗し始めているのだ。
「よかろう。ならば槍の型を覚えて行けい!」
アーボの実力をしっかりと確認し終えたリンドバックがフォームを変える。
相手を倒し切る闘いから相手に教える闘いへ。
アーボもそれに気付いたようで、構えを解いて相手の動きを観察し始めた。
動きもゆっくりとなったリンドバックの攻撃。
その一つ一つが放たれるたびに、アーボも答えるように同じフォームで攻撃を返す。
これだよこれ。ガロワさんやシュリックさんはここに至る程の実力じゃなかったようだ。
二人もそれがわかったらしく複雑な顔をしていた。
アーボに先越されたって顔である。
そんなことなど露知らず、アーボとリンドバックは二人で授業でも行うように様々な型を練習していくのだった。
私もああいう風に師匠見付けた方が良いかなぁ。でも、何の師匠がいいんだろ。自分のスキルを見て向かう方向性見定める方が先かな?




