天音、レパーナ親衛隊3
バルバッツと呼ばれたサイクロプスは三メートル越えの巨漢の魔物。
角と目が一つだけの緑色の肌を持つ人型魔物である。
鉄で出来たスパイク付き棍棒を振り上げ、ガロワさんへと迫る。
闘いの合図はないらしい。
さすがにガロワさんもいきなり始まったせいで「マジかよ!?」と叫びながら逃げに転じる。
地面にたたきつけられた棍棒。地面が抉れ飛び、地鳴りが私達を襲う。
ぐらぐらするせいで態勢が崩れる。
下手に避けたら態勢崩されて隙が出来、そこに二撃目が襲いかかったりするんだろう。
サイクロプス族と闘う時などはスタンに要注意だ。
「チィッ、面倒な。だが、さすがにこりゃ手を抜く訳にもいかねぇよな。全力で行かせて貰うぜ、あんたの胸を借りさせてくれや!」
Aランク冒険者といえどもバルバッツ相手にはさすがに勝てないのだろう。
強敵を相手にした時特有の震えを気合で打ち消し、ガロワさんが走る。
「ぐへ、良い眼だぁ。一撃当てられたらぁよぉ。負けを認めてやんぞぉ」
ガロワさんの撃ち込みを軽々受け流し、返す棍棒で薙ぎ払う。
「なんつー速さだ。破壊力も高いのに切り返しが上手ぇ」
「おうさぁ! お嬢様の怪力はうぉれぇがつけたんだぜぇ」
レパーナさんも拳で地面叩き割ってたもんね。
そうか、ここの皆から加護貰ってるんだ。だからあの怪力。
凄い、私も加護を貰えば拳一つで魔物を倒せるだろうか? そしたら、もう守られるだけじゃなくなる。
みんなと一緒に肩を並べられる。
「あの、狒狒爺さん」
「うん? なんじゃ娘っこ」
「私、怪力の加護欲しい」
「ちょ、天音? 天音は怪力なんかいらないわよ!?」
「ふぉっふぉっふぉ。怪力のぅ。まぁそなたが相手を倒すか認められたら、だのぅ」
「じゃあ頑張る」
「え、えぇ、怪力なんかいらないわよ天音ぇ」
わたわたしている美与が可愛い。
いつもは私が可愛がられてるから今回くらいは可愛がって上げよう。
ぽんぽんと美与の裾を叩いて自己主張。
頭をかがめてと告げると、困惑しながらも中腰になる。
こう? と頭をこちらに向けたので、なでなでして可愛がってみる。
「は、はわわわわわわっ!? な、何を!?」
「戸惑う美与、可愛い」
「あわわわわわわ……ぽひゅぅ」
え? あれ?
美与? なんか魂抜けたみたいにくたりと地面に尻持ち突いて倒れ込んでしまった。
ちょっと、刺激が強過ぎたみたい。
ちょっと頭撫でただけなのに?
「何してるんだか……」
ちょ、中浦さん呆れた顔でこっち見ないで!?
「すっげ、テクニシャンだ」
じ、磁石寺くんじゃないし!? 福田君変なこと言わないで!?
「オゥ、テクニシャーン」
「テックニシャーン」
なんかルルジョバさんとジョージ君が悪ノリ初めて変な踊りを始めしまった。
ガロワさんが闘ってるんだけど、皆見てないよね?
王族組なんてお茶の用意初めて紅茶飲み始めてるし。
なぜシュリックさんは違和感なく混ざってるんだろう?
薔薇を咲かせる幻影付きでお茶をたしなんでいると、普通に王族の一人に見えて来るから不思議だ。
あとカップ持つ時小指立てるな。なんかムカつく。
ふっとか髪掻き上げながらこっち見ないで。……アーボ投げていいかな? とりあえずロンギヌス刺しといていいよね?
元道さんたちは今から戦闘に向けて準備運動を始めている。
準備運動だけでも結構掛かるらしいから戦闘開始直前までずっと続けるらしい。
スポコンキャラはよく動くよね。本番で力尽きないのかな?
イルラさんは瞑想。兎月さんはアップ中。元道さんたちと違うのは、軽い柔軟体操をしているだけって所だ。
皆思い思いにゆったりしてる。
エフィカさんとリルハさんは王族に混じってティータイム。
なんでチェルロさんはあのティーセットを持っているんだろう。
アイテムボックス持ってるんだろうか?
折角だし私もティータイムに参加しようかな。
狒狒爺さんとレパーナさんもどう?
誘ってみたら普通に参加してきた。レパーナさんがブツクサ言ってたけどお菓子が美味しかったらしく誰よりも率先してのティータイムだ。
「って、テメェら、俺が闘ってんのに何寛いでやがる!?」
「ぐへへ、隙ありぃ」
「げぇ!?」
逃げられるタイミングを逃した。
やべぇ、と焦るガロワが鉄棍棒の下に消える。
あ、死んだ?
思わずそんな事を思ってしまった。
「だらぁッ!」
あ、そっか。無敵状態になれるんだっけ?
さすがに驚いたバルバッツ。
迫るガロワに攻撃を行うが、その全てが無効化される。
「こ、こりゃぁ凄い。……が、こんなのぁどうだぁ」
棍棒を真下に落としてからのかちあげ。
ガロワの身体を地面ごと空中へと投げ上げる。
「嘘だろ!?」
そして落下して来たガロワを思い切りフルスイング。
野球でもやってるような見事な一撃でガロワがかっ飛んで行った。
無敵なかったら死んでるよアレ……




