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ジョゼ、隠していたこと

 ジョセフィーヌ・ラングウッドの話をしよう。

 そもそも皆のいるクラスに転入して来たのは、別に日本に来たかったから留学した訳じゃない。

 彼女の母親が日本人と再婚したことで日本に来ることとなり、知り合い皆に別れを告げて来たのだ。


 ゆえにこの学園のクラスメイト達に特別な思い入れはなかった。

 しいていうなればちょこちょこ構ってきてウザったい存在、だろうか?

 できるならばもう少し精神性の高い会話がしたいのだが、それが可能な存在が少なすぎるのだ。

 中井出辺りはそれなりに会話が続くが、真面目すぎる性格のせいで格言が多くなったり、知識をひけらかすのはどうにも好きになれなかった。


 彼女の通っていた学校はとても聡明な友人が多く、彼女も聡明だった。

 ゆえに常人との会話が続かない。

 ゆえに常人の感情に共感が出来ない。

 だから……他人がどうなろうとも知ったこっちゃなかった。


「消えた?」


「逃げた……いえ、何者かに逃された、かしら」


 ジョゼと共に戸塚とイルラを捕縛しようと追い詰めていた兵士が戸惑いの声をあげるが、ジョゼは冷静に告げた。


「で、ではこの国のことは?」


「漏れると思っていいでしょう。安心していいわ。これ以上勇者は来ないけれど、私は出て行く気がないわ。貴方たちに富と栄誉を齎してあげる。代わりに私にとって住みやすい住居の提供をお願いするわ。本を沢山、ね」


「私達では何ともなりませんが、陛下には伝えておきます」


「ええ。お願いね騎士団長さん。選択を間違えないことを祈っておきますよ」


 ジョゼにとってはシャコタン王国に居ること自体にもあまり執着はない。

 ただ自分が過ごすにあたりそれなりに便利で都合の付く国というだけのことだ。

 居心地が悪くなれば別の国に向かえばいい。

 自分の能力を使えば、そのくらいは自由に選択できる。


「しかし、よろしいのですか? 他の勇者のようにこの国をでなくて?」


「ええ。私にとって都合の良い間はこの国に居ますよ。ギブアンドテイク。よきビジネスパートナーとして末永く付き合えることを願っておりますよ」


 クスリ、妖艶に微笑むジョゼに騎士団長は思わず顔を赤らめる。

 意図して魅せた顔に気付きながらも容易に抗えない何かがあったのだ。

 直ぐに視線を外し、ジョゼは城内へと戻る。


「さて、邪魔者が居なくなったので自由に過ごせるとはおもいマスが……この国に攻めて来るなら容赦はしませんよMYCLASSMATE’S」


 自室へと戻ったジョゼは机に向かい、椅子に座ると残っていた書類の束に目を通す。

 王子から貰ったこの国についての情報、彼女に開示できるだけのものでしかないが、その書類だけでも暗部に関することを推察することになんの遜色もない。


「やはりこの国でも不正はありますね。この辺りの領主はすぐに堕とせるでしょう。ふふ、こういうゲームのような戦略が必要となるのは、楽しいデスね」


 情報を精査して相手を追い詰め撃破、撃破した相手を自分の手駒とする。

 それはまさに戦略ゲームだった。

 実際の人間と町を相手取る戦略戦だ。

 軍事力も自分の国家もないが、ジョゼは新たな楽しみが出来たことに狂喜乱舞したい気分だった。


 ずっと、仲間たちと話し合っていたのだ。

 例えば自分が戦略ゲームの中に入り込んだら、どうするか?

 もちろん、祖国の友人たちだ。

 戦略性の高い例え話。ずっと、そうずっと考えていた。

 自分ならば、本当に国を落とすことも可能なのではないかと。


 どこまで出来るか試してみたい。

 例えそれで自身に危機が及ぶとしても。

 だから、この世界に初めて来た時行ったのは、スキルの確認とスキルの隠蔽方法の捜索だった。

 幸い偽装スキルを初めから覚えていたので固有スキルを自動書記にはしておいたが、果たして何時までそれが通用するか。


 今の所は勇者にも国にもバレてはいない。

 楽しい楽しい自分だけの楽しみだ。

 その先に目指す物はない。辿り付きたい場所もない。

 ただ、ゲームを現実に体験してみたい。その思いだけで突き動く。

 ゆえに、クラスメイトである戸塚とイルラは邪魔だった。


 邪魔なうえに国の闇に気付いて引っ掻き廻そうとした。

 今動かれるのは得策ではないし、諌めたところで二人が素知らぬ顔で日々を過ごせるとも思えない。

 だから二人を監禁することにしたのだ。この世界で遊ぶために邪魔な存在でしかなかったから。


「一つ誤算があるとすれば……まだ見ているかしらゲームマスターさん。出来れば私の遊びを邪魔しないでほしいデスね」


 誰もいない虚空へ向けて告げるジョゼ。

 そこに誰かが居るように、挑戦的に話しかける。

 戸塚とイルラは既に詰んでいた。牢屋に入れられればどっかのバカ兵士によって凌辱され、翌日死体で見付かっていたことだろう。

 それを助けた誰かがいる。それは二人をどこかから見ていなければ助けられず、助けるメリットが無ければ助ける意味はない。


「神……貴方の目的は何?」


 彼女の唯一のミスは、それを行った者が自分たちをこの世界に連れて来た超常軌的な物、この世界の神と勘違いしたことであろうか? 何にせよ、ディアリオの存在など知る由もないのであった。

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