うさぎさん、イルラたちと情報共有1
「んじゃ、知らない人もいると思うし、自己紹介から、しよう」
簡潔に天音が告げる。
天音のはきはきとしたほどではないけどしっかりと出されている声に、中井出達が驚きに目を見張っている。
多分だが、天音がこうして喋ってる姿が珍しいのだろう。
俺と出会ってからはこうだから、この世界に来てから張っちゃけたのかもしれないな。ん? なんだよ美与? え? 天音が自分の意思はっきり告げだしたのゴブリンキングに襲われてから?
ああ、ごめん、それゴブリンキングじゃなくてさ、天音襲ったの俺。ああ、うん。天音とはそんときに、え? 聞いてなかった!? マジで? ゴブリンキングに犯されたと思って凄く不憫に思ってたって!? なんかすんまそん。
念話で美与と二人きりの会話をしている間に、全員自己紹介することに決まったらしく、天音から順に右隣に挨拶することになったようだ。あ、違う。天音からにするとエスティカーナが最後になるからガドウィンさんからの自己紹介だ。
ガドウィンさんはコロアギルドのギルド長。エスティカーナはその娘である。
長方形型に机を設置してあるこの会議室は、短い机にガドウィンとエスティカーナ。
他は横長の机に左右に分かれている。
ガドウィン側に中井出勧、瀬尾祷、戸塚葉桐、イルラ、ボルバーノス、リベラローズ、イリアーネ、ペルセア、ユーリンデ、チェルロ、カルセットが座り、エスティカーナ側にある机の前には天音、美与、咲耶、ヘンドリック、ジョージ、孝明、シュリック、ガロワ、エフィカ、リルハ、エペが座る。
ガドウィン達の対面の机にある席には誰も座っていない。というか、二つの長机がまだまだ余裕あるため、遠すぎる最奥の席に座る必要が無かった。
自己紹介では俺の知らない人物は居なかった。まぁ、そりゃそうか。
逆に中井出達は天音の膝に乗ったアーボにへーと感心したり、ボルバーノスの念話に驚いたり、イルラの膝上に乗ったウサギさんが元クラスメイトの磁石寺君と知ってさらに驚き、イルラがそっと机の上に俺を置いたりしてくれた。
ひでぇやイルラっ。ええい自分から突撃だー。
あ、こらボルバーノス、糸でぐるぐる巻きにしないで。いやーっ。
―― えろうさぎ は こうどうふのうに なった てってれー ――
机の上に簀巻き状態で転がされるウサギさん。
中井出達がどういったリアクション取るべきか困惑している中、ボルバーノスに促されて彼らの紹介が始まった。
なるほど、女性陣は普通にシャコタン王国は安全だろうって思って安住するつもりだったのか。
で、何か起こって決別、ディアリオさんにここに強制転移されたってとこだ。
中井出達は女性陣と別れた後に二人きりでいろんな国を巡っていたらしい。
瀬尾が温泉入ってきたとか灯台があったんだよ。とかいらない情報を楽しげに話してくれた。
うん、そういう情報は後でね。
「正直自己紹介だけでも驚きが多いのだが……」
眼鏡を直し、中井出が告げる。
結構頭がいっぱいいっぱいになってるんだろう。
想定外の事実が多かったしね。
守護者が普通に町に居るし、アーボはなんか神懸かった装備だし、王族がぽこぽこいらっしゃるし、転生したウサギさんいるし。
ついでに天からの声でディアリオさんも参加である。
ディアリオディアリオ言っちゃってたから説明するためにも自己紹介して貰った方が早かったのだ。
自己紹介が終わると一番簡単な報告から始めることになった。
なので最初はガロワさんから。
「おぅ、んじゃま、報告すっぞ。つっても俺らはコロア周辺で野営準備の練習してただけだがな。最初は野営の準備をしてみせて、次に自分たちでやらせる。一度カタしたあとにもっかい設営して、その最中に引っ張ってきた魔物に襲われ、これを撃退、を繰り返してたぜ」
「絶え間なかったです……」
「さすがにアレは酷かった。死ぬかと思ったよ。一週間のうちに何度死線を潜ったんだろうね僕は?」
カルセットががらんどうの瞳で虚空を見つめる。
辛かったようだ。
ガロワさん。容赦なさすぎません?
「なんか、大変だったっぽいね」
福田は完全に部外者面だな。まぁ体験しなくてラッキーくらいにしか思ってないんだろう。
ガロワさん、後で福田にも味あわせてやっとくれ。
あ、こら、福田、転がすなっ。ぎゃー、目が回るぅっ。
ちくしょう、イルラも福田なんかにイルラさんパースとか言われて俺をパスするんじゃないよっ。
「えっと、それじゃあエリスエールの森チームは僕から報告しようか」
一応B級冒険者なのでリーダー役になるのだろう。
シュリック君が説明を始める。
あ、このやろうエリスエール襲った事バラしやがった!?
あ、違うのイルラさん、戸塚さん、俺をジト目で見ないで。
とっても安全安心のウサギさんですよ? ふわもこだよ。抱かれご……抱き心地も最高だよぉ。ほーらもっふもふっ。
ぎゃーっ、福田、てめぇー、まだ転がすのかっ!?




